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戦乙女(ワルキューレ)が眠る丘で  作者: 雨音緋色
第2章ー初陣は唐突に始まり、少女は英雄への一歩を踏むー
15/31

2-4

 2人の身柄はそのままベリアルの元へと渡される事になった。その搬送役になったサニアは2人を縛る縄の端を持ちながらゆっくりと歩く。


「時に少女よ。その様に不用心で構わないのか?」


「……と言いますと?」


「例えば俺や父上がこの手綱を切って逃走する。もしくは2人がかりで貴女を捕まえるかもしれない」


 尤もな事を述べたヴォイドにサニアは少し考える。しかし、それに答えたのは彼女ではなくヴォイドの父だった。


「その様な無謀を試みる程俺は死に急ぐつもりはない。無駄な抵抗など考えるな。ヴォイド、お前はこの娘の腕を見ていないから言えよう」


「しかし父上、相手はたかが1人の少女ですよ?」


「この娘は例え俺らが逃げ出しても足を動かさずに仕留める位は簡単に成し遂げる。それに屈強な男達を相手に、まるで戯れるかの如く微笑みながら首を刎ねていた。」


「そ、そこまで苦なく戦っていた訳ではありませんが……」


「何を言う。その身1つで200以上の屍を生み出した猛者が雑兵との剣戟などたわいもなかろう」


 父の言葉に絶句するヴォイド。そして困りながらも否定しないサニアを見て戦慄した。真に止めるべき相手はギランではなくこの少女であったと。


「何にせよ俺らの軍は終わりだ。生存した兵は100にも満たない。ベリアル公の許しを貰い命を守るしかない」


 その言葉にサニアは心を傷める。そうだ。これは剪定試験でも模擬試合でもなんでもない。れっきとした命のやり取りなんだと。自分が今まで行ってきた、森の動物達との命の削り合いと、狩猟と何も変わらないものなんだと改めて理解する。


「俺らは負けたのだよ。ヴォイド。半分にも満たない騎士に。猫は何匹集まっても獅子には勝てないんだ」


「くっ…………」


 猫は何匹集まっても獅子には勝てない。その言葉の意味を理解したヴォイドはその表情を崩し悔しさを露わにする。それを見たサニアは何とも言えない表情を見せ静かに、ベリアルの元へと向かった。


「来たか。貴女の雄姿は我々にも届いているぞサニア。ご苦労だった」


「はい、ありがとうございます」


 ベリアルの元に着いたサニアは、軽い挨拶の後2人の身柄を丁寧に渡し、その場に座らせる。


「近隣の小国・ダリアンの将レオルグ・デイムとその息子・ヴォイドとお見受けする。アルトリア公国近衛騎士団長ベリアルだ」


「その通りだ。当代最強の騎士にして闘神ベリアル公」


「その様な二つ名もあったな。さて、挨拶はここまでにして貴殿らの処罰を決めたい。こちらとしては自害を勧めたいものだが」


 国内で見せた眼差しとは違い、冷たく鋭い眼光で睨むベリアルの眼差しを受けたレオルグは、冷や汗をかきつつ息を呑む。


「俺はそれでもいい。しかし、父上は見逃して欲しい‼︎」


「ヴォイド‼︎」


 突然声をあげたヴォイドに叱咤の声をあげるレオルグ。だが、父の制止を振り切りヴォイドは前に出る。


「父上には妻も俺以外にも子供が居る‼︎だが俺は妻子などいない‼︎だから頼む‼︎母上を悲しませないでくれ‼︎」


「止めぬか‼︎ヴォイド、勘違いをするな‼︎貴様が死ねば妻は……アイナはどれだけ悲しむと思っているのか⁈」


 周りに構わず怒鳴りあう2人。そんな2人の押し問答を聞いていたベリアルは溜め息を吐きサニアを見る。


「捕らえたのはサニア。貴女だ。意見を聞きたい」


「はっ……私は……」


 サニアは悩んだ。2人を果たして殺してしまって良いのだろうか。残された家族は、彼を慕う人間は、どうなるのだろうか。そしてサニアは答えを出す。


「……私は2人を騎士として勧誘すべきだと思います。レオルグ公の采配は猪突猛進とはいえ統率は取れてます。そしてヴォイド公の剣技はギラン様と同格……これ程の人材をみすみす殺すわけにはいきません」


「ほう?しかし、謀反される可能性もある。それはどう考える?」


「それは……私の元に付け監視したいと思います。もし謀反を考える様ならばー」


 そこでサニアは言葉を切り、2人の頭を掠る様に2本矢を放つ。


「この矢が2人の眉間を貫きます」


「……わかった。だが、この戦が終わるまでは2人の身柄は牢に入れさせて貰う。異存はないな?」


「ありがとうございます。私は構いません」


 こうして、2人の処罰が決まり一息ついたサニアに対し、連れられる中ヴォイドが声をかける。


「慈愛のある処罰、感謝する。そして先程の無礼、誠に申し訳ない。」


「いえ、お気になさらずに。私は私の判断をしたまでです」


 その言葉を聞き、本当に安心したのかヴォイドは微笑みながら守衛に連れられる。それを見届けたサニアはベリアルに礼をしてギランの元へと戻った。


 暫くしてギランの元に戻ったサニアは、被害の報告を各中隊から言われ纏め始める。すると、馬を降りたギランがサニアの横へと近づいて来た。


「サニア、ご苦労。先の戦素晴らしい動きだった」


「これはギラン様。お疲れ様でした」


「ありがとう。して、我が隊の損害は如何程だ?」


 緊張感は残したまま、それでも優しく微笑みながらギランが聞くと、サニアも自然と微笑みながら纏めた報告を告げる。


「ふむ、死者は無し。負傷者が20程か。数は劣っていたものの質の差で圧勝だったな」


「特に紅玉様が凄まじかったですよ‼︎通る道は屍の山‼︎舞い散る血飛沫がまるで花吹雪の如く美しさでしたよ‼︎」


「そ、そんな綺麗なものでは……」


 1人の騎士の言葉に耳まで赤くしたサニアは周囲にからかわれつつ、そのまま祝勝モードへと移る。だが、それをギランは静かに抑え口を開いた。


「落ち着けお前ら。まだこれは前哨戦に過ぎない。本番は夜だ。予定通り夜襲を行うぞ」


 ギランの言葉に木を引き締め直す一同。そう、相手の3分の1の戦力を削った所で敵軍は痛手ではあるものの退がるまでにはいかない。むしろ、自棄になり詰めてくる可能性まであった。


「サニア、頼んだぞ。お前に全てがかかってる」


「ええ、任せて下さい」


 2人は互いを見つめあい、頷く。サニアの腕と策を信じたギランは、ただただ成功を祈るしかなかった。

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