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両軍の衝突。その中心地点では互いに視線と死線を交わし合う形となる。馬に乗った敵将はその最前線でギランと衝突。両雄が馬上で互いの得物をぶつけ合う中その左右を進軍する互いの部下達。騎士団側の先頭は勿論サニアだった。
周囲の鉄鎧を着た騎士と比べ皮鎧といった軽装の為、速度は段違いに早い彼女は持ち前の脚力を活かし敵兵の塊に単独突撃を行う。
「なっ……早っー」
すれ違いざまの一閃。使い慣らした愛剣ファルシオンを抜刀と共に真横の兵の首を刎ねる。更に1つ、2つと次々にサニアは薙ぎ倒していった。
「何が起きている⁈」
「敵兵に凄まじい速さの女が‼︎」
「女だと⁈そんな者に負けるな‼︎殺せ‼︎」
恐らく兵隊長だろうか。サニアの突撃に混乱した兵士達に発破をかけ戦意を回復させようとする。
「シッー‼︎」
「ぐぁ……っ矢……だと⁈どこからー」
だが、それも突如現れた一条の矢に阻まれ、再び混乱が起こる。そんな中、射抜かれた兵は気付いた。この矢を放った人物が、先の女である事をー
「敵兵は混乱している‼︎今だ‼︎一気に駆け抜けろ‼︎」
『突撃ィィィィィィッ‼︎』
サニアの号令に合わせ騎士達が剣を、槍を構え一気に駆け抜ける。それに合わせサニアもファルシオンに付いた血を振り払い敵兵を睨む。そしてそのまま走り始めたサニアは、正面の兵士を袈裟斬り、その勢いのまま背後に迫る兵士を切り上げ、左から槍を構えて来た兵士にファルシオンを投げつけ首を刎ね、右の兵士に対しては手元を蹴りあげサマーソルトをかまし、着地際によろけた相手の喉元へ向け矢を放つ。
まさに無双を誇るサニアの動きに騎士達の士気も上がり、勢いに勝る筈の連合軍側の兵士をどんどんと倒していく。
「なんなのだあの女は‼︎傭兵か⁈何処にもあんな存在の情報など無かったぞ‼︎」
「あんな傭兵など見た事ありません‼︎それに2日前お知らせした通り騎士団にあの様な存在などー」
「煩い‼︎それでもいるという事は貴様は密偵として失敗しているんだ‼︎死をもって償え‼︎」
「そんなっ……ひぐぃ……っ」
圧倒的な強さを見せるサニアに苛立つ敵将。その怒りは遂に処刑といった形で現れ、周囲の兵士を戦慄させる。しかし、これを知ったアルトリア国側はその密偵に同情するだろう。何せサニアがこの国に訪れたのは昨日の事であり、正式な騎士になったのも今朝だったからである。
「選定の日を選び強襲したのがぬかったか。ええい、他の軍団に増援を求めろ‼︎」
「畏まりました‼︎」
止む無く他国の軍団に伝令を送る。馬に乗り一目散に自陣へと向かい始めた伝令は、運悪くサニアの目に止まった。
「増援の伝令……‼︎やらせないっ‼︎」
「こんな場所早く抜け出さなけれーっ……えっ……?」
馬上でから転落する敵伝令。胸元に違和感を覚え見ると、丁度心臓を捕らえた矢が自身の体を突き抜けていた。
思わず困惑し、背後を振り返る。そして見てしまった。50m先にちらりと映る、『短弓』を構えた少女の姿を。
「そんな……短弓……で、ここま……で……」
彼の意識はそこで消える。
対しあり得ない物を見せつけられた敵兵は思わず固まり、同様に騎士団ですらも我を忘れサニアの神業を見つめていた。
「嘘だろ……。短弓であそこまで届かせるのも凄いのに、心臓ど真ん中だと……」
「ふ、ふざけんな……こんな奴に勝てるか……っ‼︎退避っ退避だ‼︎‼︎」
「待てっ‼︎待たぬか‼︎貴様ら、退避の命令などー」
敵軍の後方にいた将の言葉はそこで途切れる。いや、途切らざるを得なかった。
頬を過ぎった一条の矢。それは紛れもなく先程神業を見せつけたサニアによるものであり、僅か数m程の距離を外す程彼女が弓に慣れていない事も分かる。わざと外されたそれは、次何か抵抗の意思を見せればその首を射抜くと言わんばかりの圧力となり、結果敵将は馬上から降りその四肢を縄で縛られた。
一方、そんな事を知り得ぬギランは目の前にいる青年の将と剣戟を繰り返す。1合、2合とぶつかり合うそれは、互いの体は愚か、誇りと誉れすらも傷つける事叶わずに続く。
「流石は第2騎士団長ギラン。第1部隊・近衛兵長ベリアルを除けば最強と謳われる程の英雄よ」
「その俺と対等に打ち合わんとする貴様も流石よ。名は何と申す?」
「生憎敵に名乗る名は無い」
「それは残念だ」
短い会話の後2人は弾き合い、間合いを取る。だが、次の剣戟は始まる事なく止められる。
「そこまでです‼︎そこの将‼︎この姿が見えれば速やかに投稿するのだ‼︎」
突如声を上げた睨み合う2人の間に入り、先程捕らえた将を地面に転がしてその首筋に刀身を当てる。
その様子に驚いた彼は、思わず馬を止め縛られた兵を見つめる。
「これは……父上、何故この様な……っ‼︎」
「おお、ヴォイドか……。済まぬ、俺を助けてー」
だが、それ以上の会話を許さないサニアはファルシオンを強く握る。それを見たヴォイドと呼ばれた青年は降参とばかりに武器を捨て座り込んだ。
「失礼……。そして両雄の剣戟に水を差し申し訳ありません」
「いや、構わん。戦とはそういうものだ」
両手と胴を縛りながら謝るサニアに、2人は一瞬顔を見合わせるも気にするなとばかりに苦笑で返す。そして縛り終えたサニアは2人の武器を纏め騎士に運ばせた。
こうして突如迎えた敵兵2万対第2騎士団5000の衝突は、1人の女騎士による活躍で短期間かつ圧倒的な強さで騎士団側の勝利となった。