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見渡す限りの草原に悠然と構える騎士団はさながら不可侵の領域となって門前に構える。その数実に8万。国を守る為アルトリア国の精鋭騎士達が総員立ち上がった。
対し近くの丘に構える敵対勢力。アルトリア大陸において常に栄華を誇るアルトリア国に対し不平不満を募らせた近隣諸国の連合軍。実に6万。一つ一つは小国と言えど、力を合わせ立ち上がった彼らには国を繁栄させる為の誇りがあった。
誉れと誇り。双方の掲げる意志が睨み合う。互いに動かぬ状態が続いた。
「ギラン団長‼︎サニア副隊長‼︎密偵からの伝令です‼︎敵兵実に6万。その殆どが義勇兵を名乗り武芸に覚えの無い農民までもが参加しております。騎兵2000、剣兵3万、槍兵2万、弓兵8000との事。」
「ご苦労。実質戦えるのは1万も居れば良いところだ。騎兵と弓兵を狙うぞ。奴らが陣の要だ‼︎」
『了解‼︎』
「お待ちください‼︎」
陣を進めようとしたギランにサニアが待ったをかける。その声に反応し歩を止めた一同。その先頭の一歩手前に矢が刺さった。
「なんと⁈……良い判断だ。しかし何故分かった?」
「はい。矢が放つ独特の風切り音が聞こえましたので。恐らく敵弓兵は長弓を使っております。無用心な進軍は陣の損傷に値するかと」
「ふむ。一理ある。しかしそれでは何時までも状況は変わらないぞ」
確かにギランの言う通りだった。しかし、サニアはその返答にすぐには返事をせず空を見上げる。
「今日の天候ではこのまま向かい風です。それだと矢は風に乗り距離を伸ばして飛ぶでしょう。ですので、見通しの良い今はまだ進むべきではありません。夜襲を仕掛けるのが効果的かと」
「ほう?流石は山の民。天候をも読み取るか。良かろう。その案に賛同だ。サニア、その折は貴女に兵を授ける。いくら欲しい?」
感心したギランは、夜襲作戦の指揮をサニアに任せると言う。するとサニアは少し悩み、そして頷く。
「1000。それだけあれば可能です。両翼より闇に紛れて500ずつ挟撃。歩の遅い弓兵を狙いつつ追い込みます。そしてその間に本隊は進軍。3点からの波状攻撃ならば短期決戦になるでしょう」
「その様な少数で構わないのか?して、その成功率は?」
「8割……いや、9割成功するでしょう。人数が増えると発見されやすい為あくまで少数で。あの丘は松明如きでは照らしきれないのでその方が成功します」
その言葉にギランが唸る。全面衝突を行い常に勝利を収めてきたアルトリア国。無論その時の被害はどちらも大きくなるが、サニアの策は寧ろ逆。まるで獲物を捕らえる為に敵の隙を伺い好機と見れば即座に急所を捕らえる野性的な策だった。
「分かった。伝令‼︎全軍に伝えよ‼︎サニアの策を起用する。夜目の効く兵をもう1人選定し、仮の将として扱え‼︎」
『仰せのままに‼︎』
サニアの夜襲作戦はすぐ様全騎士団に伝わり了承を得る。そして返答を伝えに来た騎士の隣に1人、夜目が効くという事で連れられた騎士が現れた。
「レイバックだ。『紅玉の花弁』サニア殿。此度の起用感謝する」
「よろしくお願いしますレイバック殿。夜襲の合図は高鳴りするこの矢を射て知らせます。それまでは軽装で潜伏を」
「理解した。ではギラン様、兵をお借りします」
「うむ。2人共、頼んだぞ」
ギランの言葉に頷く2人。こうして夜襲作戦は緻密に練られ、後は夜を待つばかりーとなる筈だった。
「ギラン様‼︎密偵からの伝令です‼︎痺れを切らした敵兵2万、大正門に向かい進軍しております‼︎」
「何⁈総員、迎撃準備‼︎サニア‼︎我々も先頭に立ち迎撃するぞ‼︎」
「了解です‼︎」
2人が最前線に立ちはだかった直後。遠巻きに見えるのは土煙を上げ猛進する敵兵の姿が。
「腑抜けた誉れを掲げる公国に誇りある一矢を‼︎」
怒号にも近い号令をあげるのは敵陣先頭を走る栗毛の馬に乗った青年。名も知らぬ将があげる号令に後続の兵は声を張る。
対しギラン率いる第2騎士団はがっしりと構える姿勢で大楯を構え、防衛ラインを築く。
「駆けろ誉れよ‼︎全てを守りアルトリア国に栄華を‼︎」
ギランの号令に大声で答える騎士団。楔形の陣で突撃する敵兵2万と大きな四方を2つ作り悠然と構えるギラン騎士団5000。両雄が遂に衝突した。