戦は始まり、少女は華となる。
王の間に到着したサニアがまず見たのは錚々たる騎士団長の顔ぶれだった。その数実に16。先に王の間へ向かっていたベリアルも息一つ切らすことなく並んでいた。そして騎士団長達を険しい表情で見つめる16代国王ーガラード・リン・サルバ・アルトリアはサニア達の到着を見るや立ち上がる。
「突然の詔勅に対し迅速な対応、流石は我が国の誉れ。騎士たる者の長と騎士を目指し勝利を収めた者どもよ、その強さをもって忌むべき怨敵を討ち滅ぼせ。」
『我が君の仰せのままに‼︎』
重圧なガラード王の言葉に対し右拳を左胸に当て、騎士団長とサニアを除く受験者は返事をする。その様な教育を受けていないサニアは遅れて右拳を左胸に当てた。それを見逃さなかった国王はサニアに微笑みながらもその眼差しは鋭いまま彼女を射抜く。
「オリエントの愛弟子にして悲劇の民サニアよ。良くぞ騎士の道を選びこの地に足を運んだ。故に問おう。その身に騎士道を刻みこの国の誉れとして戦う覚悟はあるな?」
「はいっ‼︎これより我が身は王の剣となり矢となり盾となりましょう‼︎」
「良い返事だ‼︎悲劇の民サニア・ローレン‼︎これより貴女をアルトリア国第2騎士団・ギラン隊副隊長に任命する‼︎」
「ありがたき幸せ‼︎」
ガラード王の言葉に凛とした声でサニアは返事する。瞬間。王の間に響く程の拍手が起こり、ギランはサニアを自身の後ろに招く。
「我が国の子爵バルディア・ノールマンの第2子ルーナ・ノールマンよ。貴族の身分を捨て、国の為に命を捨てる覚悟はあるな?」
「無論、我が君の為にこの命捧げましょう‼︎」
「よかろう‼︎貴殿の命預かった。したらば第5騎士団・フレディ隊にその命受け渡す‼︎」
「ありがたき幸せ‼︎」
続いて先程サニアに話しかけてきた貴族ールーナが髭を蓄えた騎士団長フレディの元へと招かれる。
「商人として地位を確立し見事貴族の高みに上り詰めた一族の子ザイル・マルクスよ‼︎駆け引きするのはこれより品々ではなく互いの誇りとなるが、その目に曇りはないな?」
「我が目に映るは王の威光のみであります‼︎」
「良い目だ‼︎貴殿の請負人は第8騎士団長リーンに任せる‼︎」
「ありがたき幸せ‼︎」
次いで呼ばれたのは全身を白金の鎧で身を包んだ少年ーザイルだった。彼は騎士団長の中で唯一の女性騎士団長リーンの元へと進む。
「最後にその生涯を刻む石工にして全国民の墓を作る石工貴族オーディーナ・ブロウズよ‼︎この先刻むは国民の名でなく敵将の名となる。異存はないな?」
「全ての将の名を刻み、この地に首を埋める所存‼︎」
「その意気や良し‼︎第12騎士団フレスベルク隊が貴殿の墓場だ‼︎」
「仰せのままに‼︎」
最後に筋骨隆々とした大男ーオーディーナが同じく筋骨隆々の大男の騎士団長フレスベルクの後ろへとついた。
「新たに配備された者を持つ誉れの長よ‼︎貴殿らの誉れをかの者に伝え、武勇を大陸に響かせる意志はあるか‼︎」
『はっ‼︎我ら王国騎士団は敗北なき英雄‼︎その名声を後世に残し我らの誉れを伝説に‼︎』
「ならば行け‼︎敵は我が国の周囲を囲んでおる‼︎我が誉れの者共よ‼︎その雄姿を轟かせ、この地に平穏を齎せ‼︎」
「出撃ィィィィィィッ‼︎‼︎」
ガラード王の言葉に続く様にベリアルが吼える。その獅子にも劣らぬ咆哮に合わせ一礼をした騎士団長達は一斉に駆け出す。続きサニア達も駆け出し、気付けばその後ろには各隊実に5000は超えるだろう騎士達が続いていた。
ギランに続いたサニアが向かったのは、アルトリア国の大正門。守りの要とも言うべき場所だった。その内側で一度立ち止まったギランは、振り返り一足として乱れぬ騎士達を見渡す。そしてサニアを呼び一同の前に立たせた。
「この度我がギラン隊に配属されたサニア・ローレンだ‼︎選定を見ていた貴公らは知っておろう‼︎この娘の雄姿を‼︎そのまごう事なき強者の技を評価されこの度我が隊の副隊長に昇進した‼︎サニア、皆に一言を‼︎」
「はいっ‼︎名も無き山の出の田舎娘ですが、よろしくお願いします‼︎」
初々しさがあるものの、凛とした声を響かせたサニアに対し一斉に歓声を起こす騎士達。その声に少し微笑んだサニアは、それでも気を引き締め真剣な表情へと変える。
「この先は死地だ‼︎貴公らの墓場だ‼︎だからこそ隣の者の顔を忘れるな‼︎今死ぬな‼︎戦場で死ね‼︎心に曇りを宿す事無く戦い抜き、その果てに尽きろ‼︎家族への遺言はこの場に置け‼︎国内で死ぬ事は許さない……我ら誉れの屍は何処に埋まる⁈」
『この身この骨この誇り全てが戦場で沈む物なり‼︎』
「宜しい‼︎ギラン隊出陣ッッッ‼︎」
王城まで響かんとする声で騎士を鼓舞したギランの命令に合わせ、大正門が開く。すぐ様騎士達は駆け出し、土煙を上げながら門の前に陣を敷いた。その後ろから白馬を呼び寄せたギランと、その横を駆けるサニアがつく。サニアにとっての初陣が今ここに始まった。