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戦乙女(ワルキューレ)が眠る丘で  作者: 雨音緋色
第1章ー少女は目指し、騎士となる。ー
11/31

1-10

 翌早朝。

 周囲のメイド達よりも早く目覚めたサニアは、そっと部屋を抜け出して庭園へと出る。朝のトレーニングの為だった。

 体を十分に解しながら朝日を拝むのは最早彼女にとって日課であり、これが無いと1日が始まらないと豪語しても良い程の習慣である。そうしている内に出てきた朝日を見た後、水平線の高さを超えるまでの間サニアは走り始める。実に1時間以上のランニングだった。


 一頻りランニングを終えた頃使用人用の館から数名のメイドや執事が本館へ向かう姿を見かけた。どうやら朝食の用意に向かったらしい。それを見たサニアは普段ならば気にすることの無い汗ばんだ体を何度か見つめ頭を捻る。


(普段ならば気にする事の無い程度だけど。……お世話になっているのにこれは不味い……かな)


 結局、汗ばんだその身を流す為サニアは風呂場に向かい汗を流した。


 その後、いつもの服装に着替えたサニアは朝食へと向かう。その凛々しい姿に目を奪われた守衛やメイドは、改めて彼女が騎士を目指している者だと理解した。


「おはようサニア。その様子だと朝から動いていたのかい?」


「ええ、日課ですので。これをこなさなければ私の朝は到底訪れませんよ」


 ギランの挨拶に軽い冗談を交えて返す。その表情を見る限り無駄に力むことなく落ち着いていると踏んだギランは、サニアの勝利を密かに確信する。


「俺の部下達も見習ってほしい位の精神だ。勝算はあるのか?」


「戦前の思考で勝てる程の先見はしてません。ですが、負ける事を考える程愚かでもありませんよ」


「宜しい。それでこそ誉れ高い騎士だ。存分に仕合え‼︎」


 軽い雑談を交えつつ朝食を済ませたサニアは、一宿の礼をした後一足先に城へと向かう。その手前、マリーから昼食にとサンドイッチを手渡されその周りのメイド達からは応援を送られた。

 彼女達の声援を背にディバート邸を出たサニアは、目と鼻の先にある城門を潜り受付へと辿り着く。


「サニア・ローレンです」


「はい、残り2戦頑張って下さいね」


 受付嬢に笑顔で会釈をしたサニアは、その足で昨日の待機室へと向かう。すると、そこにはベリアルが1人で待機をしていた。


「どの受験者よりも早く足を運ぶとは殊勝な心がけだな。サニア」


「おはようございますベリアル様。私の様な身分の無い者はこれが常識と」


「何を言う。昨日あれ程の歓声を浴びた女騎士に身分など関係無い。貴公は既に王国騎士としてこの地に名を刻んでおるのだよ」


 優しく微笑みかけたベリアルは、歴戦の証とも長年の成果とも言える厚い手を合わせ、サニアに拍手を送る。その賛辞に礼をもって返したサニアは、それでも尚瞳に宿る闘志は消え失せていなかった。そしてそれを見たベリアルは深く頷く。


「そう、その瞳よ。ルビーの輝きを宿した紅の瞳に映る翳りの無い闘争心の炎よ。それが我々の心を滾らせ人々の心を魅了しておる。故にサニアよ。今騎士団の中では貴公を『紅玉の花弁』と呼び始める者が溢れかえり、その所属を取り合っておる。……尤も、大方獲得権は決まりそうだがな」


「さ、左様ですか……。ありがたき幸せです」


 あまりの待遇の良さにむしろ恐れすら感じたサニアは苦笑しつつも感謝の言葉を述べる。すると、背後から別の受験者達が現れた。


「これはこれは。ベリアル公に『紅玉の花弁』サニア殿。お早い到着ですね」


「そ、その名は騎士団の中だけではなかったのですか⁈」


 恥じる様に慌てふためくサニアを見て優しげに笑う受験者達。彼らもまた、サニアの美技に見初められたらしい。昨日までの敵対心は薄れそれこそ、身分の差を気にせずに話しかけてくる貴族出の受験者達にサニアも自然と心を開いた。


「是非サニア殿と手合わせをしていただきたい。その剣に刻まれている死線の数々を超えた妙技に、我が剣筋はどこまで通用するのかを試したいのだよ」


「これはルーナ殿、先取りし過ぎではありませんか?私も同様に彼女と剣を交えてみたいのですよ」


「そ、それ程迄に褒められる程のものではありませんっ。私のはただただ生きる過程でのものでして……」


 謙遜するサニアを囃し立てる形で会話を交わす。だが、サニアは気付いていた。誰1人自身の勝利を疑うことなく話す曇りの無い闘志を持つ騎士である事を。


「それに、皆様は誰1人として敗北を望んでおりません。無論私もですが……組み合わせに殉じて互いの闘志をぶつけさせて頂ければ良いのです」


「その通りだ。サニア殿。その時は宜しく頼む」


「ええ、此方こそ。不肖サニア、胸をお借りします」


 王国貴族と名も無い山の民。常識では到底考えられない2人の対等な握手にベリアルは1人微笑みながら頷く。これこそ、正に求めていた誉れ高き騎士であるとー


「ベリアル様‼︎‼︎勅令です‼︎‼︎すぐ様王の間へ‼︎受験者方も来てほしいとの事です‼︎」


 その声は突然響いた。

 血相を変え息を切らしながら待機室に走り込んだ守衛は、この部屋一帯に響く声で伝令を伝える。それを聞いたベリアルの眼差しが鋭く光り、身の振り構わず全力で駆け出す。


「急ぐぞ‼︎選定は中止だ‼︎貴公らも騎士として戦うのだ‼︎」


 その言葉に表情を変えたサニア達は、すぐ様ベリアルを追い王の間へと向かった。

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