第1話
あたしはトレジャーハンターのミィナ!
天涯孤独の身の上だけど、一人でも遺跡に眠るお宝をゲットして、逞しく生きている。
今回の冒険の舞台は村から少し離れた場所にある洞窟の中だった。
あ、あったあった! 罠はっけーん!
あたしは罠を見つけると、パッパとそれを解除する。
このあたし、トレジャーハンターのミィナさまに掛かれば、これくらいの罠の発見と解除なんて、造作もない!
この洞窟の奥に眠るお宝を求めて、あたしは洞窟を先に進んだ。
道が二手に分かれてる。あたしの勘はここは左だ!
テケテケと進んで行くと、どんどん道が小さくなって行く。
これは外れたかなあ、と思いつつも、あたしは罠に注意して、姿勢を低くしながら奥に進んだ。
さらに道はどんどんちっちゃくなっていき、あたしはついに四つん這いになる。
ミニスカートだから、後ろから見たら色々際どいけど、まっ、いいか。
あたしのトレジャーハントのときの仕事着は赤いフリフリのドレスだ。冒険には向いてないんだけど、これが可愛いんだもん。寒くたってミニのスカート履いてる女の子だっているんだから、冒険中でも可愛いファッションしたい、というあたしみたいな女の子がいるのだって普通だよね。
あたしは狭い道をなんとかずりずり奥へ進む。
急に開けた場所に来た。
って、目の前には黒い2本のすらりと長い脚……?
何だろ、これ……?
目線を上げると、そこには黒髪ロングの美形の男の人があたしを見下ろしていた。
無口でストイックそう。正直、目つきが怖い。
腰には短い剣を二本ぶら下げている。
二刀流使いの剣士だ!
「あなた、何者!?」
あたしは四つん這いのまま、鋭い目線で男に問いを放った。
男の人はつめたーい声で聞いてくる。
「お前こそ……何者だ?」
「あたしはトレジャーハンターのミィナ! 何れ世界に有名なトレジャーハンターとして知れ渡る女の子よ!」
「邪魔だ、去れ」
男の人は本当に冷ややかな声のまま、それだけ言うと、あたしに背中を向けて歩き出した。
って、この洞窟の宝はあたしがゲットするんだ! 誰にも渡すわけにはいかない!
「待ってよ! あなたもこの洞窟の宝、狙っているの!?」
問い正すけど、返ってきた返事は……
「引き返せ。お前じゃ無理だ」
ムカッ。何、この人。自分が宝が欲しいからって、そんな言い方で追い返そうとするなんて、ずるい!
「無理かどうかは、今、ここで確かめてみればいいわ!」
あたしは鋼糸を相手に放った。
あたしの武器はこの金属で出来たしなやかな糸だ。これで相手の動きを拘束し、無力化する。
なるべく人を殺したくなくて、あたし、この糸を使いこなせるように、あたし、かなり特訓した。
しかし男の人は糸を、背中を向けたまま、身体を横にずらして避ける。
まだよ!
あたしはさらに両手の指を使い、10本の糸で相手へ10方向から糸を飛ばす。
これはさすがに避けられまい!
次の瞬間、閃光が走った。
男の人が一瞬の動作で、振り返って腰の剣を抜き糸を切り捨てたのだ。
嘘……あたしの糸、刃物で絶対切るなんて無理なはずなのに、それを切り捨てたのだ、たやすく。
男の人は剣を両手に持ったまま、あたしの方へ近寄ってくる。
「諦めろ。お前じゃ、俺には勝てない。この先の主にも」
駄目よ、それじゃ、駄目!
あたしは絶対諦めない! 諦めないのがあたしの心情だもん! ここで引いて、溜まるもんですか!
「勝てない相手なら、あたし、頭使うもん! だから、あなたこそ、ここは引いて!」
「それは出来ぬな」
「じゃあ、あたしも引かない! 例え力づくでも、あなたを無力化する!」
あたしは再び、10方向から糸を飛ばす。今度はタイミングをバラバラにして。これならどうだ! 一気に切り捨てられないはず。
しかし、今度は男の人は切り捨てる必要もないというように、踊るような華麗なステップであたしの糸を避けた。そしてあたしの目の前に立つ。
「まだまだっ!」
両手で糸を操ってるから、手は使えないので、あたしはスカートを翻して、男の人の頭へ蹴りを放った。
男の人は姿勢を落としてあたしの攻撃を避ける。
でも、あたしの攻撃は二段構え! 本命はこっちだ!
あたしは蹴った足を着地させるとそれを軸足に、今度は後ろ回し蹴りを男の人へ放った。
決まった!
と思った瞬間……。
ごすっ!
と言う音と共にあたしのお腹に衝撃がおとずれ、あたしは意識を失った。
あたしは後にそれが、あたしの蹴りをやすやす避けて男の人が、あたしのお腹にパンチしてあたしを意識を失わせたのだと気づいた。
目が覚めると、目の前に美形な男の人の顔があった。
この無表情な顔……あの、さっき戦った男の人だ。
うひゃっ!? あたし、あの人に膝枕されてる!?
あたしは慌ててその場から飛び退いた。
「あ、あ、あ、あ、あ……」
「ここにはモンスターも出るからな。意識を失ったまま、ほっておくわけにもいかないからな」
あたしは顔をカーッと赤くする。
気絶したあたしの心配して、ここに残ってくれたんだ。
それは気絶させたのは、この人だけどさ……。
「女の子のお腹を思い切り殴るなんて、感心しないぞー?」
「戦場では男も女も関係ないからな。お前が俺を殺す気だったら、俺もお前を殺していた。それに」
「うん?」
「男とか女とか、そんな浮ついた気持ちでお前みたいな仕事してたら、その甘さでいつか命落とすぞ」
ごもっともです、はい。
でも、あたしも、冗談で言ってみただけだもーん。
あたしだって分かってる。トレジャーハントという仕事、女だからこそ、つらいこと、沢山あるんだもん。
「ともかく、有難う! おにーさん! 殴ったのもおにーさんだけど、結果的に守ってくれたのもおにーさんだし」
「お前、ちょろいぞ。もっと人には警戒しろ」
「おにーさんはいい人そうだし。だから決めた! 一緒に宝ゲットしよ! チーム組も!」
「断る。俺一人で十分だし、お前は足手纏いだ」
「いいもーん、勝手についていくから」
あたしは頬をぷくっと膨らませ、男の人を見る。
男の人は立ち上がり、自分のズボンに付いた土埃をパンパンと払うと、無言で背を向けて歩き出した。
あたしはその後に続く。
男の人は立ち止まる。
「来るな、来ると言うなら……」
「来ると言うなら……」
「斬る。次はもう命はない、と思え」
そんなこと言われても、あたしだって引けないよ!
ここはぜーったい、引けない!
「そんなこと言われても、あたしは付いていくからね! 絶対! 斬りたければ斬ればいい! あなたならあたしを斬り殺すのたやすいでしょ! でも、あたしだって、命に変えてなしとげないといけないことがあるの!」
男の人は再びあたしの方に向き直った。
「話してみろ。理由というのを」
「えっ?」
「その理由次第では、考慮する」
ここで、考慮してくれるんだ。ううん、考慮してもらわないと、斬られてるから、それはそれでいいんだけど。
でも、この人……。
いい人!
あたしは感激の目で、男の人を見た。
「うん、話す! あのね!」
あたしは昨日の出来事を話し始めた。
昨日立ち寄った村であたしは一人の女の子と出会った。
ちっちゃいちっちゃい女の子。まだ10歳にも満たない子だろう。
その子が見ず知らずのあたしに、助けを求めてきたのだ。
「お母さんが病気なの。病気を治すには特別な薬草が必要なの」
その薬草はこの洞窟の奥にのみ生えてるそうだ。
でも、村人は誰もこの洞窟に近寄ってはならない、と言って、女の子を洞窟に行かせてくれないらしい。
だから、あたしが代わりに薬草を取りに来たのだ。
勿論、そのついでに宝もゲットするつもりだけど。でも、あくまでそれはついで。
あたしは女の子に笑顔になって欲しかった。だから、必ず薬草を手に入れる!
「……と言うことなの。だから、あたし、絶対あなたと一緒に、この奥に行くからね!」
あたしは男の人を強い目で睨み付けた。これで男の人があたしを斬り殺すなら、それまでだ。
だが、男の人はただむすっとあたしのことをにらみ返しただけだった。
「俺がその薬草を取ってくる。それなら文句ないだろ?」
「駄目よ!」
「俺が信じられないのか?」
「そうでなくて。薬草は伝説によると、男の人に触られたら、枯れちゃうの」
これは本当だ。その女の子から聞いた話だと。だから、女の子は旅人で尚且つ女のあたしにお願いしたのだ。
男の人はしばらく、あたしの目をじーっと見ていた。それからくるり、と踵を返した。
「ついてこい」
あたしは万歳して喜んだ。
「やったー、有難う!」
「礼は薬草を取ってからにしろ」
「あたしとあなたのコンビなら、絶対大丈夫だって、こんな洞窟! 早く薬草と宝、持って帰えろ!」
あたしはテケテケと洞窟を進んだ。
男の人はやれやれと溜息を吐いてから、あたしの腕を掴んで、あたしを引き止める。
「俺から絶対離れるな、いいな?」
「えー、えっち。幾らあたしが美少女だからって、傍にいて欲しいなら、素直にそう言ってよー」
「……斬るぞ」
「冗談、冗談だってば、そんな怒らないで! でも、やっぱりあたしが先頭行く! あたし、ほら、トレジャーハンターだから、罠の発見解除は得意なんだよ!」
あたしは男の人の返事を聞かず、男の人の前に立った。
「勝手な真似、するな」
「あなたが進もうとしていたその道、ほら、少し先に落とし穴の罠があるよ」
「……気づいてた」
男の人は一瞬詰まるものの、そう答える。でも、それ嘘だよね? 気づいてなかったよね?
「ということで、あたしの背後からついてきて」
あたしはそのまま男の人の前を歩き出した。今度は何も言わず、男の人は付いてきた。少しはあたしのこと、認めてくれたみたいだ。
よし、この冒険、必ず成功させるぞ! 薬草、必ず取って帰るんだから! そしてお宝もゲットよ!
あたしはすごーい張り切っていた。
あたしに油断がなかったかというと、それは嘘になるだろう。
大抵の罠なら、あたしなら、簡単に発見出来るし……と思ってたのが大間違いだった!
人間、ミスは偶にはするものよ!
「きゃぁぁぁぁ!?」
あたしは天井からロープで逆さまに吊り下げられてしまう。
あたしともあろう者が、こんな初歩的な罠に引っかかってしまった!
「今、助ける」
男の人は顔色ひとつ変えず近寄ってこようとする。あたしは顔をカーッと赤くする。
「ばかっ、ここはあたしが何とかするかな、見ないで、見ないで、こっち見ないで!」
「ここは戦場だぞ。恥らってる状況じゃないぞ」
「それでも恥ずかしいのが女の子なのよ! いいから、反対側見てて!」
男の人は素直に反対側を向いた。
良かった、今のあたしの格好、スカートが凄くめくれ上がってて、ひどい姿になってる!?
見られちゃったよね、今日のパンツ……。
あー、もう恥ずかしい!
あたしは男の人がこっちを見てないのを逆さまの状態のまま確認してから、スカートを抑えてた手を外し、両手を使って糸を操り、ロープを切断する。
とさっ。頭から地面に落ちたものの、そこは受身を取った。ふー、恥ずかしかったあ……。あたしはいそいそとスカートを直すと、男の人の方を振り返った。
男の人は冷静な声で聞いてくる。
「もういいか?」
あたしは身体中をもう一度チェックする。うん、特にスカートがめくれてたりとか、そういうことはなさそうだ。
「うん、もういいよ」
男の人はあたしに身体を向けると、無表情に近寄ってきた。
「じゃあ、先、進むぞ」
「うん、でも……」
「でも?」
「この洞窟、罠が多いね……」
あたしは何か気まずかったので、早口で適当な話題を口走った。男の人にあれだけ大見得切ったのに罠に引っかかるは、男の人は気にしてない感じだったのに恥ずかしがって見苦しいところ見せちゃったりとか……。
でも、男の人はあたしのそんな気持ちに気づいていないのか、これまで通り普通な無表情で答えた。
「それは……宝を守るためだろう」
「宝? 一体、何なの、それ?」
「かなりの魔力を蓄えている宝玉だ。俺はその宝玉を取りにいくように依頼された」
依頼人のこと聞くのはマナー違反だよね。依頼を受けたのはこの人だけなわけだし。
宝のこと気になるけど、そこはいいや。
それよりも、あと気になったのは……。
「でも、これだけ罠が多いのに、あなた、良くあたしと出会う前に、罠に引っかからなかったよね?」
「引っかかりまくったが、大抵はこれで斬り捨てればなんとかなった」
男の人は剣に触れてみせる。
なるほど、これが俗に言う、ザ・力技、と言うやつね。
「まあ、罠のことは任せて。あたしがこれまで通り、先導するから、このまま進みましょう!」
「大丈夫なのか?」
「さっきは油断したけど、もう大丈夫! 気を引き締めていくから!」
うん、あたしは一人前のトレジャーハンター! もう失敗はしない!
男の人、何か言ってくるかなあ、と思ったけど、今度もやっぱり素直にあたしの背後を大人しく付いて来てくれた。
これって、信頼してくれてるのかなあ? わからん、この人の考えてることは、ほんと、良くわからん。
そしてあたしたちは、ついに洞窟の一番奥に到着した。
少し先には巨大な人型の像が聳え立っている。その像の奥に機械が置いてあった。薬草は……あったあった。機械の周辺が光っていて薬草がちゃんと生えてるのが分かる。良かった、あたしの方も女の子の願い、叶えることが出来そう。
機械以外に宝らしい宝はなかった。お宝期待してたのに、そこは残念だ。
男の人の目当ての宝玉は、機械の中央にはめ込まれていた。あれを取ってくればいいのね。
でも、その前に……。
「その像! 動く人形……ゴーレムだよ! あたし達が近寄ったら、襲ってくる!」
男の人はうなずき、あたしの前に出た。
「他に罠は……?」
「うーん、ここから見てるだけだと自信はないけど、ないと思う。あくまで遠目で見てるから確信は持てない」
「それならいい。お前はここで待ってろ。俺があのゴーレムを倒してくる」
あたしも罠発見のためについていった方がいいのかなあ、とは一瞬思ったけど、あのゴーレム、あたしの見立てだとかなり強敵だ。あたしがついていったら、足手まといにしかならない可能性が高い。それならば、男の人に任せた方がいいだろう。あたしだって、ただ足手まといになるのは嫌だ。
「分かった! ここは任せた!」
「じゃあ、下がってろよ!」
男の人は二本の剣を抜き放つとゴーレム目掛けて駆け出して行った。
ゴーレムは迎撃体制をとる。目から眩いビームを放ち、男の人を攻撃する。
でも、そのビームを身体をほんの少しずらすだけで避け、最短で男の人はゴーレムに詰め寄った。
そして剣戟を繰り出す。鋭い一撃だ。しかし、男の人の繰り出した剣を、ゴーレムの岩の肌はことごとく弾いた。
「何っ!?」
男の人は息を呑む。
ゴーレムの肌は確かに堅い。岩だし。でも、男の人の技量なら、ゴーレムの肌など容易く剣で破壊できるはずだった。
これは何かでゴーレムの能力が増量されてる!?
あたしは機械を見た。それならあの機械が怪しい。ここからだと分からないけど、近寄れば分かるはず。
あたしは男の人に声をかけた。
「あたし、機械を調べてみる! 機械に近寄るから、援護して!」
「分かった」
男の人は剣を構えなおした。
あたしはゴーレム目掛けてダッシュした。あたしの体など、ゴーレムのパンチ一発もらえば粉々になってしまうだろう。ビームなんかも受けたら死んじゃう。
でも、ゴーレムは男の人を相手にするので手一杯みたいだった。
あたしはゴーレムの足の下を駆け抜け、機械に辿り着いた。
機械を素早くあたしは調べる。これは……やっぱりこの機械がゴーレムの表面に無敵のバリアをはって剣の攻撃を防いでいたのだ。
でも、機械を壊すことは出来ない。機械を破壊しようとしたら、大爆発が起きるように罠が仕掛けられている。当然、あたしも男の人も死んでしまう。
ここは罠を解除し、機械を止めるしかない。
「もう少し、持ちこたえて! あたしが機械を止めるから! そうしたら、ゴーレムを破壊して!」
「わかった」
簡潔に男の人はあたしの大声に答える。
男の人は大丈夫だろう。確かに今のゴーレムに男の人の攻撃は利かない。でも、ゴーレムの攻撃も男の人には完全に見切られていて、男の人に当たりやしないだろう。
あたしは罠の解除を急いだ。
罠を解除した! そして機械も操作し、直ぐにゴーレムのバリアを消した!
「もう大丈夫、ゴーレムを破壊できるよ!」
「礼を言う。助かった」
それまで防戦一方だった男の人は、攻勢に出てゴーレムに剣戟を繰り出す。ゴーレムは男の人の剣の一撃を受けるたびに大きく破損していった。
これなら大丈夫そう。
あたしは機械に向き直った。ついでに宝玉を機械から取り外し、あたしのお宝袋に入れておく。
うん、これで万が一機械が破壊されても大丈夫。あとはゴーレムを倒して、薬草を取れば、ここには用はない。
一仕事終わった、という安堵感でいっぱいだったあたしには油断があった。
「危ない!」
男の人の声が突然、あたしの耳をうつ。
あたしは振り返る。すると斬り飛ばされたゴーレムの頭の、ゴーレムの目がこっちを向いていて、そこからビームがあたし目掛けて発射されたのが目に焼きついた。
何も死に間際に、あたしを攻撃しなくても! あたし、ここで死んじゃう!?
あたしは本気で死を覚悟した。
死にたくない、死にたくないけど、もうだめ!
その時、あたしの体がドンと横から突き飛ばされた。
男の人があたしを突き飛ばしてくれたのだ。
でも、代わりに男の人にビームが飛んで行った。
ビームは男の人に直撃はしなかった。
でも、掠っただけでも、ビームの破壊力は男の人を瀕死にするには十分だった。
男の人はもう直ぐ死のう、としていた。
「何でよ! 何であたしなんかかばったのよ!」
あたしは泣きながら、必死に男の人を責める。
いや、男の人でなく、油断した自分の愚かさを目の前の男の人にぶつけてしまったのだ。
そんなこと、無意味だよね。男の人のせいじゃないのに……。
あたしは責めの言葉を発したあと、直ぐそれに気づいて、うな垂れた。
「ごめん……あたしが、あたしが悪いの……」
「気にするな。短い間とは言え、俺たちは仲間だっただろ? 仲間を庇うのは当然だ」
「でも、気にするよ! あなたが死んだら、あたし、一生後悔する! だから、死なないでよ!」
「それは無茶な注文だな。後悔させてしまうのはすまん……」
男の人は苦笑いした。
苦笑いでも、男の人が笑ったのを見たのは、これがはじめてだった。
その笑顔は、なかなか素敵だった。
あたしは必死で考える。ここで男の人を死なせたくない! 絶対助けるんだ! それにはどうすればいいか。
ここにあるもの……宝玉を使う? でも、宝玉の使い方分からないし、それに治癒効果なんてないかもしれない。
機械はもう先ほどのビームで粉々になってしまった。
なら薬草は? 薬草が病気以外の怪我に利くのかは分からない。でも、試してみる価値ありそうだ。
あたしは薬草の生えているところに駆け寄った。やっぱりあたしの知識でも、何の薬草かは良く分からない。当然使い方も分からない。でも、薬草と言えば、飲ませるか、傷口に貼り付けるか、二つくらいしか大雑把に遣い道分からない! それならどっちも試せばいい!
あたしは薬草を摘み取った。そして男の人のもとに戻って行った。
結局、薬草を飲ませる、が正解だったみたいだ。
男の人は今、あたしの隣を歩いている。あたしも薬草を届けに、村に戻るところだった。
「今回は本当に有難う。色々、自分の力不足、実感したよ」
「俺こそ、お前がいなかったら、今回、依頼の品を手にいれることは出来なかった。感謝する」
もう何か、意識しちゃうなあ。
薬草、口移しで飲ませたんだよね。男の人、気絶してたから。そのときは無我夢中だったから気にならなかったけど、今更何かそれ、意識しちゃって、恥ずかしくて、男の人の顔がまともに見れない。
「あのさ、これからあなたはどうするつもり……?」
「俺は王都に戻り、依頼人に宝玉を届ける。それが仕事だからな」
[そっか……」
「だが、お前には恩があるし、ここはまだ危険だからな、村までは送っていく」
「いいの!?」
あたしは嬉しかった。まだ、この人と一緒にいられるんだ、あたし!
あ、そうか、あたし、いつの間にか、この人と別れるのがつらい、と感じるようになってたんだ。
この人に対してあたし、かなりの好意を持つようになってたんだ。
こんな無表情で何考えてるのか分からない人なのに。
でも、いい人なのは、今回の冒険で、分かった!
あたしはこの人と別れたくない。それなら、その気持ちに素直になろう。
あたしは男の人の前に回りこむと、立ち止まり、真っ直ぐ男の人の顔を見上げた。
「あたし、あなたと一緒にいきたい! あなたの冒険のパートナーになりたい!」
男の人は驚いた顔をし、あたしの顔をまじまじと見た。
「……何を言っている?」
「あたし、あなたと別れたくないの! 少しでも一緒にいたいの!」
何かこれって、告白みたいだなあ。でも、いっか。あたし、自分の気持ちに嘘はついてないし!
「お前には確かに助けられたが……」
「でしょ? あたしがいると、役に立つよ! 護身はある程度ならできるし、罠解除や機械操作も出来るし、モンスターや植物などの知識もある! あなたは確かに戦闘だけなら一人で十分かもしれない。でも、それ以外の場面では、あたしが一緒にいれば、かならずあなたの役に立てるときがくる!」
男の人は考え込むように、しばらくあたしの顔を見下ろしていた。あたしはその目を真っ直ぐ見つめ返す。やがて男の人は笑顔を浮かべて、あたしに手を差し伸べた。
「そういうことなら、宜しく頼む。相棒……ミィナだったな」
「よろしくね! えっと……」
「ゼクスだ。」
「ゼクスさん……ううん、ゼクス!」
あたしは思い切って呼び捨てにすると、男の人、ううん、ゼクスと手を重ねた。
あたしはトレジャーハンターのミィナ。
天涯孤独だったあたしだけれど、素敵な仲間が出来た。
こんな嬉しいことはない!