白蛆
先にクラーク・アシュトン・スミスの白蛆の襲来を読むことをお薦めします。
極寒の世界で欺く我は恐ろしい怪物、ルリム=シャイコースである。神の世界を目指しながら人間共を喰らい続けている。今日も我の呪いで愚かな奴等を凍えさせ、くだらない魔術師を誘き出してやろう。
赤く小さな球を瞳の無い眼窩から生み出し、落とし続ける。破裂したり積み上がったりと忙しい、我の身体は人間共にとって邪悪な存在であろう。冷気が一瞬にしてチンケな巣を覆い尽くして行く。哀れな者共だ。気が付いたら息ができなくなり、身体が動かなくなる。そして1番滑稽なのは何も知らずに死ぬことだろう。まもなく総てが死になった。
予想通り、1匹の魔術師がノコノコと我が領域に足を踏み入れた。無知なる者は、自らの頭脳に詰め込まれた無駄な物を過信して我の前に立ったのだ。蛇のような掠れた声で我に声をかけた。
「おお、汝は私を必要として残してくれたのだろう。私はこの漁村で1番の魔術師クラフトである。汝が示した道程を信じ、任せることを私は誓う。さあ、私に汝の力の断片を!」
莫迦め、我が広めた噂にまんまと騙されておる。宇宙の彼方にイイーキルスと言う動く要塞があり、そこには神が玉座に座り込み踏ん反り返っていると!そして懇願すると力を分け与えてくれるとな!屑めが、自らの欲に溺れて死ね!そして我が肉体と共に行き続けろ!
「良いだろう、クラフトよ。然し貴様には少しやってもらいたいことがある。大魔術師である貴様ならば容易いことだろう。我の前で空を落としてみせろ。出来によって貴様には素晴らしい褒美をやろう」
「承知いたしました。暫しお待ちを……」
愚の骨頂が天を仰ぎ、呪文を唱える。冷気が渦を巻き始め、中央へと収縮した。巨大な剣を模しているであろう輪郭がハッキリと姿を顕した。突き上げるように手を振り下ろすと、空へと向かって剣が消える。瞬間的に赤い液体が、天から吹き出した。我は弧を描く舌の無い口を開けたり閉じたりして悦びを表現した。肉片が我を呼んでいる。御馳走だ。騙し盗った催しが又、我の食欲を増幅させる。
愚者と弱者は我の餌だ。