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北の砦にて 新しい季節 ~転生して、もふもふ子ギツネな雪の精霊になりました~  作者: 三国司
第六部・かぞくのひ

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スークの誕生とパーティー

 フラーラと一緒に北の砦に戻ったところで母上の陣痛が始まり、私は焦ってリースを抱えたままウロチョロと動き回る。


「ええ!? うまれそうなの? 母上、だいじょうぶ!?」

「…………」


 いつも口数が少ない父上も、動揺してさらに静かになっている。しかし表情は普段よりうるさく、今は眉間に皺を寄せたり目を泳がせたりしていた。


「大丈夫よ、二人とも。落ち着いて」


 ダフィネさんは穏やかな声で続ける。


「スノウレアと一緒に住処に戻った方が良いわ。安心できる静かな場所でないと、スノウレアも落ち着かないでしょうから」

「わらわもついて行こう」


 そう言ったのはシラユキおばあちゃんだ。確かにおばあちゃんがいてくれた方が私も安心する。

 そして母上は軽くお腹を押さえながら呆れたように呟く。


「全く、わらわよりミルフィリアやウォートラストの方が焦っておるではないか」


 陣痛と言っても人間のそれよりずっと痛みは少ないらしく、母上は座り込むこともなく自分で移動術を使う。そして私と父上、シラユキおばあちゃんを巻き込んで吹雪に変わった。


「ミル、何かあれば砦に来るんだぞ」


 私たちが消える直前、隻眼の騎士がそう声をかけてくれた。

 そして精霊たちもこちらに手を振って、ハイリリスやルナベラはほほ笑んで言う。


「スノウレア、頑張ってね!」

「水の精霊が生まれるのを楽しみにしています」


 一瞬で住処に戻ると、母上は自分で歩いてベッドに座った。私と父上はその近くをおろおろと歩き回り、シラユキおばあちゃんは大きなキツネの姿から人の姿に変わる。洞窟の中だとそちらの方が動きやすいからだろう。


「そこに横になった方が良いのではないか?」

「いや、座ったままのこの体勢の方が楽かもしれぬ」

「そうか。ではウォートラスト、背を支えておあげ」

「……!」


 シラユキおばあちゃんに言われて、おろおろウロウロしていた父上はハッと動きを止めた。そしておろおろしたままベッドに深く腰かけると、横から母上の背中を支える。


「わたしは!? わたしはどうすればいいの、おばあちゃん!」


 無駄に足踏みしてワタワタしながらシラユキおばあちゃんに尋ねる。するとおばあちゃんはにっこり笑ってこう答えた。


「ミルフィリアはわらわが抱っこしていよう」

「わかった!」


 子ギツネの姿に戻ると、シラユキおばあちゃんの腕の中に納まって母上を見守る私。

 だけどこれ、私、何か役に立ってる? 立ってないよね? でも母上の邪魔にもなってないからこれでいいのか。

 納得して大人しくしていることにした。


「本当にそろそろのようじゃ」


 母上は少し苦しげだけど喋る元気も十分にある。陣痛が来てから出産までの時間も人間のお産よりかなり短いようで、もう生まれてくるみたい。

 子供を産むのは二回目ということもあって、母上は終始落ち着いていた。


「水の気が強まってきたな」 


 シラユキおばあちゃんもリラックスして私を撫でながら言う。確かに母上のお腹から感じていた水の気配が、ここにきてさらに強まってきた。赤ちゃんが外に出ようとしているのかな。


「わたしの弟……」


 緊張もしているがワクワクもしつつ、目を輝かせて私は母上を見つめる。

 すると膨らんだお腹が水色に淡く光り出し、その光が濃くなったかと思うと、次の瞬間には小さなヘビの赤ちゃんがそこにいた。


「え? こんなかんたんに……」


 人間のお産を想像しているとあまりにあっけなく生まれたように思える。でもこれが普通の精霊の出産なんだろう。


 赤ちゃんはお腹の中では人の姿をしていたはずだけど、外に出てきた瞬間ヘビに変わった。白に近い水色のヘビで、目は閉じている。本物のヘビにはまぶたはないと聞いたことがあるけど、精霊のヘビにはまぶたはあるらしい。父上にもあるしね。


「母上、おつかれさま!」


 シラユキおばあちゃんに地面に下ろしてもらうと、私は母上に駆け寄り、ベッドに飛び乗った。


「特に疲れてはおらぬがな」


 母上はほほ笑んで言う。赤ちゃんが移動術を使って勝手に外に出てきてくれるんだから楽だよね。お腹の中で赤ちゃんを育てないといけなかった妊娠中の方が大変そうだった。


 膨らんでいたはずの母上のお腹も、もうすっきりしている。人間だと大きくなった子宮が収縮していく時も痛みがあるようだけど、母上は平気そう。たぶんお腹はすでに妊娠前の状態に戻ってるんじゃないかな。精霊の出産は何もかもが超自然的だ。


「さぁ、この子はまだ起きぬかな」


 母上は手のひらの上に乗せた小さなヘビを見て言う。私は初めて会う弟を見て面映ゆくなり、えへえへとニヤけた。


「かわいいね、この子」


 私の弟だから特別に可愛い。


「そなたの跡継ぎじゃ」


 母上は生まれたての小さなヘビを父上に渡す。父上は繊細なガラス細工でも持つかのように、両手でそっと受け取る。


「……小さいな」


 見たままの感想を言う父上。だけど我が子を見つめる瞳は優しい。

 私は弾んだ声で尋ねる。


「なまえはどうするの? この子のこと、なんて呼んだらいい?」

「名前はもう……決めてある。……スークだ」

「スーク! じゃあ、スーだね!」


 さっそくあだ名を決めると、私は父上の手のひらの上で眠っているスーの頭をペロッと舐めた。

 するとスーはゆっくりと目を開けて私を見る。


「あ、おきた! スー! おねえちゃんだよ!」


 私の声に反応して顔を持ち上げると、スーは父上と母上、シラユキおばあちゃんのことも順番に見つめる。


「みんなスーのかぞくだよ」


 私がそう言うと、スーは嬉しそうに少しほほ笑んだ気がした。そしてそのまままた眠ってしまった。赤ちゃんだから眠いんだろう。


「うれしい。かぞくがまた増えた」


 笑顔で顔を上げると、母上も父上もシラユキおばあちゃんもみんな笑顔だった。

 スーはまだ赤ちゃんだけど、もう少し大きくなって一緒に遊べる日が来るのが楽しみだ。



 翌日の夜。砦の騎士たちの仕事が終わる頃、私は『家族の日』のパーティーを開いた。

 食堂の壁には、私の下手だけど気持ちのこもった文字で『いつもありがとう』と書いた大きな葉っぱを貼り付け、色とりどりのリースも飾る。床にはフラーラが花びらを敷き詰めてくれて、殺風景な食堂が一気に明るく華やかになった。


 テーブルには王様から借りた白地に金糸で花が刺繍されたテーブルクロスを敷き、その上に花を生けた花瓶も飾る。

 正直、豪華なテーブルクロスも花瓶も質素なテーブルや椅子とは合っていなくて、ちょっとちぐはぐだ。

 でもこれはこれで頑張って飾りつけした感じがあっていいし、完璧におしゃれじゃないところが私主催のパーティっぽくて悪くない。


 倉庫にしまってあった古い燭台も出してきて、それぞれのテーブルに蠟燭を灯す。さらに料理や果物も綺麗に並べた。

 フラーラが飾りつけを、料理長さんが食事の用意を手伝ってくれたので、私だけではできなかった豪華なパーティーを開くことができた。


 北の砦の騎士たちはもちろん、母上も父上も他の精霊たちもみんな来てくれて、食堂は明るく賑わっている。


「みんないつもわたしを助けてくれたり、あそんでくれたりして、ありがとう! パーティーたのしんでね」


 行儀が悪いけど、子ギツネ姿の私はテーブルの上に乗って、最初にみんなに感謝を伝えた。

 そして それが終わるとまずは精霊たちのところへ行って、頭に乗せているスーを紹介する。


「みてー! この子がスークだよ! わたしの弟!」


 基本寝ているスーだけど、今は周りが賑やかだからか起きていて、ゆっくり頭を動かして周りの様子を観察したりしている。


「生まれたてのノッテよりも小さいな」


 サンナルシスは自分の肩に乗っている子猫のノッテを見て言う。スーより大きいとはいえまだまだ小さいノッテも、子馬のノーチェも、目の前にいる小さなヘビを興味津々で見つめていた。


「精霊の子供が同時期に五人も存在するとは、今までにないことだろうね」


 外にいるハイデリンおばあちゃんは、食堂の窓から顔だけ覗かせて言う。ハイデリンおばあちゃんは大きな鳥の姿をしているので、食堂の出入り口を通れなかったのだ。人の姿になればいいのにと思うけど、どうやら鳥の姿でいる方が好きみたい。


「今までにないと言えば、精霊が一か所にこれだけたくさん集まっていることにもびっくりです。しかも誰も争うことなく、平和に」


 人の姿のフラーラがこの状況に慣れない様子で言うと、ウッドバウムが笑って返した。


「ミルフィリアがいなければあり得ない状況だったね。みんなミルフィリアを介して繋がっていったんだから」

「確かにそうだ!」


 ヒルグパパも声を上げて笑う。精霊たちが仲良く談笑しているこの光景を見ていると、私も満足だ。

 元々友好的な性格の精霊も多いけど、他の精霊と積極的に親しくしようと考える精霊は少なかったから、私をきっかけに繋がっていったのなら嬉しい。


 精霊たちの輪を抜けて、今度は砦の騎士たちの方へ向かう私。精霊たちはほとんど何も食べていないけど、騎士たちはキノコパスタを食べたり、デザートに果物やケーキを食べたりしている。

 一緒について来たクガルグと二人で、私はスーを騎士たちに紹介していく。


「無事に生まれてよかった。ミルも可愛い弟ができてよかったな」


 隻眼の騎士は、私と同じくらいスーの誕生を喜んでくれた。


「本当に小さくて可愛いわね」

「顔つきはやっぱりウォートラストに似てるな。眠そうな目とかさ」

「すでにミル様に懐いているようですね」


 ティーナさん、キックス、レッカさんが、スーの顔を覗き込んで言う。

 スーは言葉を話す代わりに、細い舌をチョロっと出して応えた。


「なついてるかな?」


 照れつつ言う。確かに今もスーはしっぽを私の耳に巻きつけていて、さっき父上が私の頭から下ろそうとした時も巻きついたまま離れなかった。ただ頭の上が居心地良いだけかもしれないけど、懐いてくれてるなら嬉しいな。

 するとそこでキックスが、こっそりスーを見に来た支団長さんに向かって言う。


「支団長は動物だけじゃなく、ヘビもあんまり好きじゃないんですか?」


 キックスはいたずらっ子のような笑みを浮かべている。支団長さんをからかおうとしているみたい。たぶん頑張って冷静な表情を崩さないようにしながら、「そうだな」と答える支団長さんを想像しているんだろう。


 でも今日の支団長さんは今までと違った。


 キックスの質問に対してしばらく無言で逡巡した後、覚悟を決めたような顔をして前を見る。

 そしてキックスを始めとした騎士たちに向かって言う。


「実は今まで黙っていたんだが……私は可愛い動物が好きだ。突然こんなことを言って驚かせたかもしれないが、もふもふも小さなヘビも、可愛い生き物はみんな好きなんだ」


 支団長さんの告白を聞いた騎士たちは、みんな一瞬ぽかんとした。

 今更の告白にびっくりしているのかなと思ったけど、どうも支団長さんが自分の本音を打ち明ける気になったことに驚いているらしい。

 だからみんなちょっと嬉しそうな顔をして笑い、こう言う。


「え? そうだったんですね。気づきませんでした」

「支団長ももふもふ好きだったんスね」

「意外だなー」


 みんな若干棒読みだけど、支団長さんのことを気遣って知らなかったふりをしているのだろう。バレてたと分かったら支団長さんが恥ずかしい思いをするかもしれないから。


「でも、これでみんなで思い切りミルたちのことを可愛がれますね」


 キックスはそう言うと、私を抱っこして支団長さんに渡す。近くにいたティーナさんもクガルグを抱き上げ、支団長さんに差し出した。


「ああ、そうだな」


 支団長さんはスーを頭に乗せた私とクガルグを両手で抱えながら、照れくさそうに笑って言ったのだった。

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