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北の砦にて 新しい季節 ~転生して、もふもふ子ギツネな雪の精霊になりました~  作者: 三国司
第五部・はじめての かぞくりょこう

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精霊の出産

「サンナルシスをさがしてたのに、ルナベラの森についちゃった。サンナルシスもここにいるかな」


 言いながら右の方を見れば、木々の向こう、数メートル先に大きな〝木のドーム〟が見えた。何本もの木が内側に曲がり、ドームのような形を作っているのだ。木と木の隙間を塞ぐように細いツルも張っている。

 森の中に突如として現れたこのドームは、ルナベラの家だ。


 私は何度か来たことがあるので、今さらこの家に驚くことはない。向こう側に出入口があるので、取りあえずそちらに向かう。

 出入口は、アーチ型ドアの形に空いた穴だ。


「ルナベラー!」


 その出入り口から私が顔を覗かせようとしたところで、先に中からサンナルシスが出てきた。サンナルシスは人の姿で、相変わらず王族のような衣装に輝く金髪の派手な見た目だ。


「ミルフィリアか。今日も平和な顔をしているな。遊びに来たのか」


 ん? 今、『ミルフィリアか』と『遊びに来たのか』の間で私の顔をさらっとけなした? いや、褒めたの? どっち? 平和な顔ってどっちなの?

 怒ろうかどうしようか迷っているうちに、サンナルシスは私を中に招き入れる。


「さぁ、入れ。ルナベラに顔を見せてやってくれ。その平和な顔を」


 ん? どっちだ? 今のもどっちだ? 

 眉間に皺を寄せて迷っていると、ベルベッドのソファーに座っていたルナベラがこちらを見てほほ笑んだ。


「まぁ、ミルフィリアちゃん! よく来てくれましたね」


 この〝木の家〟の中は結構広く、おそらく十畳以上はあるだろう。家具はルナベラが座っている紫色のソファーの他にも、サンナルシスが使っている金ぴかの椅子、そして大きなベッドも置いてある。これらの家具は、サンナルシスが自分の住処から移動術を使って運んできたものらしい。

 サンナルシスはジーラントという国のお城に居候しているので、正確に言えばこの家具は人間がサンナルシスに献上したものなのだろう。それをルナベラのためにここへ持って来たのだ。


「ルナベラ! げんき? またおなかが大きくなってるね!」


 そう、実はルナベラは子供を身ごもっているのだ。精霊の妊娠期間は人間よりも短く、三か月ほどしかないので、この前妊娠が発覚したところだというのに、もう出産が近いらしい。

 ルナベラは人の姿で、重そうなお腹に手を添えてソファーでくつろいでいる。


「そんなに大きなおなかで、つかれちゃうね。だいじょうぶ?」

「大丈夫ですよ、ありがとうございます。確かに最近はお腹が重くて大変ですが、サンナルシスも助けてくれるので」

「当たり前だ」


 サンナルシスは腕を組んで得意そうにしている。サンナルシスがここに家具を運んできたのは、妊娠中のルナベラが快適に暮らせるようにと思ってのことだったのだ。


 ちなみにこの〝木の家〟を作ったのは、木の精霊のウッドバウムだ。ルナベラは妊娠する前は、いつも猫の姿になって木のうろの中で眠っていたらしいが、妊娠してからは動物の姿には変われなくなるので、うろの中には入れなくなった。

 そこでサンナルシスがルナベラを自分の住処であるジーラント城に連れて行き、しばらくはそこで生活していたんだけど、ルナベラはサンナルシスの部屋のあのド派手な内装に耐えきれなくなったらしく、ここに戻ってきたのだ。

 だけど家も何もないこの森の中での生活が、サンナルシスはやはり心配なようだった。


『雨風は森の木がある程度遮ってくれるとはいえ、やはり家がほしいな。ここには木だけは豊富にあるから、それで作るか……?』

『サンナルシスが家を? 無理ですよ』

『いや、やるぞ! 私は完璧なのだ! 何でもできる! すごい豪邸を造ってみせるぞ!』

『無理ですってー!』


 自信過剰なサンナルシスをルナベラが必死で止めようとしているのを見ながら、二人のところに遊びに来ていた私は思った。ウッドバウムなら、雨風をしのげるくらいの家を作ってくれるのではないか? と。

 だってウッドバウムは北の砦にいた時、木を捻じ曲げたり、ツタを這わせてドアを塞いだり、器用なことをしていたのだ。

 まぁ、それは本人がやろうと思ってやったわけではなく、力が暴走した結果そうなったんだけど。

 しかしサンナルシスよりは頼りになるだろうと、私はウッドバウムを呼び、彼をサンナルシスとルナベラに紹介した。


『僕に家を造ってほしいって?』

『うん。おなかに赤ちゃんがいるルナベラが雨にあたらないようにしたいの』


 私がお願いすると、ルナベラとサンナルシスもウッドバウムを頼った。


『初対面で申し訳ありません。けれどもしできるのなら、造っていただけるととても助かります』

『礼はする。宝石でも金でも、何でも持ってきてやろう』

『お礼なんていらないよ』


 ウッドバウムはそう言うと、やる気をみなぎらせた。


『僕で力になれるならやってみるよ。ミルフィリアにも、闇の精霊にも光の精霊にも頼ってもらえるなんて嬉しいし』


 そうしてこの木のドームができあがり、ルナベラはここに住むようになったのだった。


「ところでサンナルシス」


 私が声をかけると、サンナルシスは「何だ?」とこちらを見下ろした。


「サンナルシス、さっき北のとりでに来てた? サンナルシスのけはいがした気がしたんだけど」

「北の砦に? いや、行っていないぞ。ずっとここでルナベラと一緒にいた」

「そうなんだ」


 確かにサンナルシスは、ルナベラが妊娠してからは四六時中彼女の側にいるもんな。


(でも、じゃあ、あのけはいは何だったんだろ?)


 首を捻っている私に、ルナベラがほほ笑みかけてくる。


「北の砦にまた遊びに行きたいです。子供が生まれたらきっと行きますね。あそこの騎士さんたちなら、きっと子供とも遊んでくれそうですし」

「うん。みんなぜったい喜ぶよ」


 砦のみんなもルナベラが身ごもっていることは知っている。だけどルナベラはお腹が大きくなってからはずっとこの住処にいるので、最近は砦に来ていないのだ。

 北の砦は安全な場所だと思っているようだけど、無事に出産を終えるまでは住処を離れたくないみたい。

 出産と言えば……と、私は不安な顔をして尋ねる。


「ルナベラ、赤ちゃんを産むとき、おいしゃさんを連れてこなくていいの? サンナルシスだけじゃ、しんぱいだよ」

「何が心配なのだ」


 心外といった表情で言うサンナルシス。だけどサンナルシスに赤ちゃんを取り上げられるとは思えない。


「大丈夫ですよ」


 ルナベラは落ち着いた声で説明する。


「人間の女性はお産で命を落とすこともあると聞きますが、精霊の出産はそれほど危険ではありませんから」

「そうなの?」

「ええ。スノウレアからミルフィリアちゃんを産んだ時のことを聞いたのですが、精霊にも陣痛のようなものはあるらしいですけど、人間と比べれば随分軽いらしいです」

「そうなんだ」


 さらに詳しく話を聞くと、精霊の赤ん坊は産道から生まれてくるのではないようだ。光の精霊が生まれてくる場合はお腹の上に光が満ち、闇の精霊が生まれてくる場合は闇が集まり、そこに赤ん坊が現れる。

 赤ん坊が移動術を使って、お腹の中から外に移動するのだ。

 精霊は生まれる時に、短い距離とはいえ、本能で移動術を使うらしい。


「へー、おもしろいね」


 私は率直な感想を漏らした。だけどあまり痛くないようだし、血みどろの惨状にはなりそうもないので安心した。

 ちなみに精霊は妊娠中、人の姿から動物の姿には変われなくなる。と言うのも、お腹の中の赤ん坊が人の姿でいるからだ。

 精霊の動物の姿は、キツネだったり豹だったり、猫だったり馬だったりしてそれぞれ大きさが違うので、妊娠中は母子ともに人間の姿でいないと色々大変なことになってしまうしね。


 けれどお腹の中ではずっと人の姿だった赤ん坊は、生まれた直後、すぐに動物の姿に変わってしまうみたい。何故なら精霊の基本の姿は動物の姿らしいので、人間の姿でいると、赤ん坊は体力を消耗してしまうからだ。

 じゃあお腹の中にいる時はどうやって人の姿を維持しているのかと言うと、母親の力を借りているのだとか。

 人間と違うところがたくさんあるけど、精霊の妊娠出産も神秘的だなと思う。


「ミルフィリアちゃん、もっとこっちに来て、お腹に触れてみませんか? 今、ちょうど動いてますよ」

「え、いいの?」

「動いてる!? 本当か!」


 恐る恐る近づく私と、慌ててお腹を触りに来るサンナルシス。二人で一緒にルナベラのお腹に触れると、確かに中で赤ん坊が動いているのを感じた。この固い部分は足かな?


「しんぴ……」


 本当に神秘的だ。この中にちゃんと赤ちゃんがいて、元気に動いてるなんて。

 感動する私に負けず劣らず、サンナルシスもルナベラのお腹に手を添えて感激している。


「う、動いてる……。確かに動いてるぞ……!」

「今まではサンナルシスが触ると、何故かしんとして動かなくなっちゃってましたからね」


 ルナベラはフフフと笑いながら言う。そしてこう続けた。


「でもやっとお父さんの声を覚えたんでしょうか? それともミルフィリアちゃんが来たから動き出したのかもしれませんね」

「おねえちゃんだよー。生まれてきたら、いっしょにあそぼうねー!」

「お父さんだぞー」


 私に負けないように、サンナルシスもお腹に向かって声をかけている。

 ルナベラは幸せそうに笑いながら、私に向かってこう続けた。


「ねぇ、ミルフィリアちゃん。お腹に近づいて、何か感じませんか? お腹の子は闇の精霊と光の精霊、どちらだと思います?」


 私に尋ねながらも、ルナベラはもうお腹の子がどちらの跡継ぎなのか分かっている様子だった。


「え、もうわかるんだ?」


 私は驚きつつ、ルナベラのお腹にそっと顔を寄せる。条件反射的にフンフンと匂いを嗅いでしまうが、ルナベラの香りがするだけで赤ん坊のことはよく分からない。

 だけど、お腹の中から放たれているわずかな精霊の〝気〟を感じることはできた。


「ん? これって……光の気じゃないかな? 明るくてきれいで……。あれ? でもちょっとまって。ルナベラのより力づよくてにぎやかだけど、闇の気もかんじるような……」


 混乱する私を見て、ルナベラとサンナルシスが笑う。

 え? まさか……双子なの?


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