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北の砦にて 新しい季節 ~転生して、もふもふ子ギツネな雪の精霊になりました~  作者: 三国司
第四部・ふしぎなじけん

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避暑(4)

「おばあさん、また勝手にお金を使ったのね! こんな壺を買ってどうするの。うちは貧乏だっていうのに」


 おばあさん役なので怒られる私。シャロンの世知辛いおままごとが続く中、私はふと違うことを考えた。

 さっき、くしゃみと共に吹雪が出たのは私の意図したことじゃなかったけど、最近は自分の意思で出すこともできるようになったのだ、と。

 私は、王族たちのもとへお茶やお菓子を運んでいる使用人さんに視線を向けた。


(フルーツあるかな?)


 今こそ、王族たちにも私の能力を見せつけるチャンスだと思った。半分凍った冷たくて美味しい果物を、避暑に来たみんなにも食べてもらうのだ。


「あ、ちょっとミル!」


 シャロンの制止を聞かずにおままごとから抜け出し、私は使用人さんのもとへ向かった。執事っぽい身なりのおじさんだ。


「あのう」

「!」


 私が声をかけると、執事さんはびっくりして目を丸くした。だけどすぐに私と目線を合わせるためにしゃがんで、優しく言う。


「雪の精霊の御子様に声をかけていただけるとは光栄です。わたくしめに何かご用でしょうか?」

「あのう、わたし、くだものがほしくって。何かある?」

「ええ、旬のブルーベリーであれば用意してございます」


 ブルーベリーいいねぇ。小さいから凍らせやすいんだよね。


「ちょうだい! 王さまたちのところと、王妃さまたちのテーブルに出してくれる?」

「すぐに用意いたします」


 そうして高そうなお皿に乗ったブルーベリーがまずは男性陣のところに運ばれてくると、私は胸を張って言った。


「みんなに、つめたくておいしいもの、作ってあげる」

「ほう、何だ?」


 団長さんが愉快そうに言う。他のみんなも、支団長さん以外は私が何をするのか分からずに楽しんでいるようだった。クガルグとシャロンも興味を惹かれたのかこちらにやって来る。

 そして私は砦でしたのと同じように、ブルーベリーに向かって息を吹きかけた。すると小さな吹雪に襲われたブルーベリーは、うっすらと雪に覆われる。


「たべてみて!」


 私はにこにこしながら言う。

 が、しかし。そこで急に冷静になった。ここにいるのは王族や貴族たちだ。キツネが息を吹きかけたものなんて、汚いと思うに違いない。


「あ、やっぱりいい。たべなくていいよ」


 得意げにブンブン振っていたしっぽを下げて言う。

 だけどその時、支団長さんがブルーベリーに手を伸ばしてくれた。


「ミルがブルーベリーを凍らせてくれたのです。前にも食べたことがありますが、冷たくて美味しいですよ」


 支団長さんがそう言ってブルーベリーを食べると、他のみんなも「どれ」と興味津々で皿に手を伸ばす。王様も王子様も、みんな。


「ああ、本当だ。冷たくて今の季節には最高だ」

「表面は凍っているが、中はみずみずしいままで美味しいな」

「私も食べたいわ」


 シャロンもブルーベリーをつまんで口に入れ、「冷たい! でもおいしい」と顔をほころばせた。


「えへへ」


 みんなが喜んでくれて私も嬉しい。しっぽは元気を取り戻し、また左右に揺れ出した。


「店を出せば、きっとよく売れるぞ」


 団長さんが私に向かってガハハと笑い、それを聞いた支団長さんパパがすかさずこう返す。


「この子が店を出せば、何を売っても売れるさ。ガラクタを売っていたとしても、買う時にちょっと頭を撫でさせてくれるなら、私は惜しみなく金を払うだろう」


 支団長さんパパの言葉を聞きながら私は思った。たぶん支団長さん一家を相手に商売するだけで、私は一生楽して暮らせるだけのお金を稼げるに違いないと。

 一回モフるのに千円くらい取っても「安い」と言いながら払ってくれると思うし、一日何回もモフりに来ると思う。


 そんなしょうもないことを考えつつ、次は王妃様たちがいるテーブルに向かった私は、同じように半分凍ったブルーベリーを提供し、またもや好評を得た。


「新しいスイーツね。色々な果物を凍らせてみてほしいわ」


 アスク殿下の奥さんがそう言って笑う。

 一方、彼女の娘のシャロンは、またもや隻眼の騎士や北の砦の面々の方をじぃっと見ていた。嫌な感じの視線だ。

 そしてシャロンは片方の眉を持ち上げると、私に向かって小声で言う。


「ねぇ、ミルったらどうして北の砦なんかにいるの? 私、ここの騎士たちってあまり好きじゃないわ。だって野蛮そうな人ばかりじゃない。王城や私の屋敷に来たら、もっと華やかでかっこいい騎士がたくさんいるわよ」


 私は眉間に皺を寄せたけど、毛に覆われているのでシャロンは気づいてくれない。


「さっきクガルグの顔を拭きに来た騎士なんて、大きな傷が左の目を塞いでたし、あっちの騎士たちなんてとても騎士とは思えない顔をしているわ。どうしてあんな人たちが騎士になれたのかしら?」


 シャロンは隻眼の騎士とコワモテ軍団を順番に見て言う。しかもまだ何か悪口を続けようとしたので、お座りしていた私はその場で立ち上がった。


「私のだいすきな人たちに、ひどいこといわないで!」


 思わず大きな声で叫ぶ。


「みんなとってもかっこいいもん!」


 私だって北の砦の騎士たちのことはいかついと思ってるし、最初は怯えてたけど、本気で野蛮だなんて思ってない。それに隻眼の騎士の顔の傷が何? コワモテ軍団の顔が何? とても騎士とは思えないって?


 シャロンは私が大きな声を出したからびっくりしたようだ。周りのみんなも驚いてこっちを見ている。

 相手はまだ七歳の女の子なので、子供に本気で怒るのは大人げないと私の怒りはすぐに静まったけれど、悔しさは簡単には消えなかった。


「顔なんて騎士にはかんけいないもん。見た目はこわいかもだけど、みんなすごくやさしくて、頼りになるもん。ほんとうにとってもやさしいんだもん……」


 自分が好きな人たちのことを、その人をよく知らない人間に悪く言われると、こんなに悲しくて悔しいものなんだ。

 知らぬ間に涙が零れていたらしく、クガルグが慌てて舐めてくる。


「ミルフィー、泣くな。こまる」


 そしてシャロンは驚いた顔のまま呟く。


「ミル、怒ったの? 怒られたの、私?」


 シャロンはあまり怒られた経験がないのか呆然としているけれど、すぐに何か言い返してくるんじゃないかと私は思った。

 だから構えていたけれど、シャロンは意外にも悲しげに眉を下げる。


「ご、ごめんなさい……」


 あれ? 素直だ。何か弱々しいし。

 てっきり幼い子にありがちな癇癪を起こして、私が怒った以上に怒り出すかと思ったんだけど。

 拍子抜けした私も、シャロンにつられて弱々しく言う。


「北のとりでのきしのこと、悪くいわないでね……?」

「分かったわ」


 シャロンはしゅんとしている。

 うん。

 シャロン、すごい素直。

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