プロローグ
ハジメ・キーキ・トツカは夢を見ていた。始めのハジメが父からもらった名前でキーキは母からもらったミドルネーム。トツカは祖父の代から続くファミリーネームだ。
ハジメ――キーキは夢を見ていた。
まだ小さいころの話だ。その日は、親友だったメルドとソフィーの二人がトツカ家に泊まりに着ていた。三人とも風呂上りに濡れた髪をそのままにパジャマに身に包み、後はもう寝るだけ……とは大人の、両親たちの考え。その大人たちもそれだけで終われば楽なのだが、とも一つ苦笑する。つまり、子供たちの夜時間が待っているのだ。
今夜は騒がしくなるかな、と父と母、それと祖父が顔を見合わせていたのだが、それもキーキたちは気がつかない。
今の三人は大人たちの優しい眼差しに気がつかない。彼らの意識はテレビに釘付けであった。
人類の宇宙への進出、第二の大地、繁栄した文明……崩壊。そして、故人たちの残した財産。
放送していた特番に三人とも心を奪われていた。
その番組はある事実を元にかなり話を盛って、登場人物たちがその地に残った遺産を回収しに行こうという話である。一つ難を逃れたらまた一つ難が待ち構え、最後には化け物みたいな巨大タコが宝物を得た登場人物たちに襲い掛かる、などファンタジーにあふれたストーリーであった。
舞台は月。二つ存在する月の片割れ。蒼く輝く月。地球と大差ない環境を持ち、人類が地に足を残したもう一つの母星。
……ふと、そこで意識が沈んでいくのがわかった。この見た夢も目を覚ますころには忘れているだろう。深く深く眠りにつく。けれどもそれも一瞬。
キーキはまた夢を見る。
空には二つの月が笑っていた。