プロローグ
一年前・・・
雨が降っていた。
まるで、今の少年の心を映しているような天気。激しい雨が降り、空には灰色の分厚い雲が覆っている。
少女の胸には、矢が刺さっていた。
「あんがとね・・・いつも守ってくれて・・・」
少女は静かに呟くと、少年の手を握った。
少年も、少女の手を握り返したが、雨に濡れたその手はもう冷たくなりかけていた。
「そんなことはいい。もうしゃべるな・・・」
少年は痛々しい少女の傷を見て、自分の無力さを呪い、そして憤慨した。
「・・・・・一つだけ約束してくれる?」
少女は、意識が朦朧とするなか、消えかかった声で呟いた。
「なんだ?」
「・・・・あたしの故郷を・・・あたしの妹を・・・守ってくれる?」
「あぁ守ってやるさ・・・だから生きてくれ!」
少年は泣いていた。静かに鼻を鳴らしながら・・・・
「君が泣くとこ・・・初めて見たわ・・・あたしのために泣いてくれてありがとね・・・」
少女は優しく笑った。
「・・・オレを置いて行かないでくれ・・・また前に戻るのはイヤだ・・・」
「あたしは・・・どこにもいかないわよ・・・ずぅっと・・・君のそばにいるから・・・いっしょにいられた時間は短かったかもしれないけど・・・あたし・・・君のこと大好きなんだから・・・」
少女は優しくそう答えた後、少年の唇にそっと自分の唇を重ねた。
唇を離したあと、少女は握っていた少年の手を離し、糸の切れた人形のように事切れた。
雨はまだ止まない。