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【連載版】愛してると言われても、頭上の数値は『殺意MAX』ですが?  作者: セトガワ


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5/11

5話 どこの誰が、天才製作者ですって?

 これ以上ないくらいの晴天だ。 

 魔道具発表会の今日は、校庭に大勢の人が集まっている。 

 オルディ学院の生徒より、むしろ部外者の方が多い。

 商人、魔道具研究者、貴族など。

 半年に一度の大きいイベントなのだ。

 

「お嬢様、こちらの席へどうぞ」

 

 黒髪の紳士的な男性が、私をVIP席に案内する。


「ありがとう、ジャイル」

 

 彼は、我がノルディ公爵家に仕える優秀な三十歳だ。

 まだ若いが商会の幹部で、今日も父の代理で来ている。

 公爵家の商売の中には魔道具の販売があり、オルドとも契約しているのだ。

 最前列の席に、私は腰掛けた。

 目の前には、簡易的ではあるが立派な壇上がある。


「ねぇ、オルド先生との契約はどのくらいになるの?」

「教授とは、もう五年になります」

「結構長いのね。制作者としては優秀、か」

「ええ。ですが、実は契約終了も考えていたのです。段々と作る魔道具が低品質になりまして」

「才能の枯渇かしら」

「そう感じていました。ところが一年前から、見違えるように最高の品を出すようになりましてね」


 グレイが助手になった時期だ。

 ジャイルはその辺、気づいているのだろうか?

 尻目で確認すると、不思議そうな顔をしていた。


「……お嬢様、そういったことに興味を持つようになったのですね」

「公爵令嬢としての自覚が芽生えてきたのよ」

「さすがです、お嬢様! 私は将来が楽しみで仕方ありません!」

 

 彼のレーダーチャートを確認してみよう。


 ジャイル・オードリー

【総合値】−288


【呆れ】−94

【軽蔑】−91

【諦観】−88

【失望】−85

【忠誠】+70


 ……私はジト目になった。

 大嘘つきもいいところですね、あなた。

 そんな私たちの元に、今日の主役がやってきた。


「ジャイル様ッ。もう到着されていたのですな!」

「これはオルド教授。ご無沙汰しております」

「いや〜、期待してください! 今日は自信作ですぞ!」

 

 オルドのテンションが果てしなく高い。

 熊のようにずんぐりした体型で髭も濃い。

 二重顎に脂ぎった肌。

 中年男性がなにも頑張らずに生活するとこうなる……の見本みたいだ。


「今回は、より多くの人に売れやすい仕様です。契約の件、ちと頑張っていただきたい」

「ええ。見合うものであれば、高額でも出しますよ」

「過去最高額でお願いしたい。私も豪邸を建ててましてな。額次第では、他も考えております」


 だいぶ強欲だし失礼だ。

 ジャイルは顔色変えずに対応する。


「我々は適正な額をお出しします。いままでのように」

「がはは、結構! 公爵家も私も大儲けですなぁ!」

 

 よくもまあ、ここまで下品になれるよね。

 彼は、私にも注意を向けてくる。


「魔力の弱いソラリス嬢でも、使える魔道具ですぞ」

「素敵ですわ。私のサブパートナーも関与していると聞きました」

「あ〜、ほんのわずかですが、手伝ってもらいました。設計やコードは、私がすべて行っておりますがね」

 

【Gap100%】の文字が痛々しい。

 オルドは今回いかに頑張ったかを力説した後、舞台裏に消えていった。

 彼が消えるなり、ジャイルは大きく嘆息する。


「やれやれ。腕はそれなりですが、性格に難ありですねぇ」

「それなり?」

 

 最高級の魔道具を作る相手に使う言葉だろうか?

 ジャイルは表情を変えずに訂正する。


「失礼しました。私も偉そうでしたね」

「助手のグレイについて、どう思うの?」

「……素晴らしい才能です。実はお父上もそれに気づいています。だからこそ、お嬢様のサブパートナーにしたのです」

 

 なるほどねー。

 ここはあまり突っ込まないでおこう。

 その方が、こちらもやりやすい。

 さて、発表会が始まる。

 盛大な拍手で迎えられながら、オルドは壇上に一人でのぼった。


「皆さん、私が天才製作者のオルドです。冗談です、がははは!」

 

 唾を飛ばしながら、豪快に笑う。


「さて、毎回驚きがある発表会ですが、本日は過去一番でしょうな! なにせ、私の最高傑作が完成しました!」

 

 オォーッ! と地鳴りのような歓声が上がる。

 正直、気持ちはわかる。

 地球でも有名メーカーの新作発表会とか、盛り上がるもんね。

 商品が魔道具ときたら、なおさら熱い。


「こちらをご覧ください」

 

 昨日、研究室で見たガントレットだ。

 オルドは右に左に動かして、観客にアピールする。

 

「皆さんの中には、魔法が使えない者も多いでしょう。ですが、これがあれば皆さんの夢が叶います!」

「オルド教授。それは、誰でも魔法が使えるということでしょうか?」

 

 手を挙げて質問したのはジャイルだ。

 オルドは自信たっぷりにうなずく。


「その通りです! これさえあれば、火魔法が使えるのです!」

 

 信じられないくらい校庭が盛り上がった。

 魔法がある世界なのに、魔法が使えない。

 私もそうだけど、これほど悲しいこともないよね。

 つまりあれは、叶わない夢を持っていた人たちに希望を与える魔道具。


「早くやってみせてくれ!」

「俺たちが実験台になってもいい! 頼む!」

 

 あちこちから出る逸る声に、オルドは満足げにうなずく。


「実験台は私です。魔道具作りの天才などと呼ばれていますが……実は私も魔力が貧弱で、生まれてこの方魔法を使えたことがありません」


 オルドは右手にガントレットを嵌める。

 そして蒼穹を掴むが如く、腕を伸ばした。


「見ていてくださいっ。これが私の研究の全てだぁぁあああッ!!」

 

 雄叫びのような声をあげ、火魔法が発動する。


 ——ポスッ


 百円ライターかな? 

 ってくらい弱々しい火が一瞬生まれて、すぐに消えた。

 煙だけはご立派で、オルドの暑苦しい顔を黒く汚す。 

 静まり返る会場。


「は……はははっ。冗談は終わりにして、本気でいきますぞ!」


 オルドはもう一度挑戦した。

 結果は同じだった。


「なんだこれはッ……! どういうことだぁ!?」

 

 そのセリフは、集まった人たちが言いたいことだよね。

 ジャイルが涼しい顔で立ち上がる。

 逆に怖い。


「教授、それが火魔法なのでしょうか?」

「ち、違う! これはなにかの間違いでっ。おいグレイィィ——」

 

 舞台裾にいたグレイの元に全力で走っていくオルド。

 衆人環視ということも忘れ、彼の肩口を殴るように押す。


「貴様、私の言う通りに調整したのか!?」

「……ちゃんと、やりましたが」

「だったら、なぜああなる!? まともに炎が出ないではないか!」

「——見苦しいですわね」

 

 私の一声が校庭に響いた。


「オルド先生、まず私のサブパートナーに乱暴な真似をするのはやめてください」

「……これは失礼。ですがこれは師弟の問題ですぞ。部外者は黙ってください」

「でも先生の発明なのに、助手であるグレイ様に責任を押しつけるのは変です。それでは、魔道具の真の制作者が彼のようではありませんか」

 

 指摘すると、オルドの勢いが止まった。

 顔中から焦燥の汗を吹きだしている。

 私は、グレイにビシッと指をさす。


「グレイ様も、身の潔白を自分で証明するべきですわ! その程度できないようなら、この場でサブパートナーを破棄いたします!」

「……わかったよ。やればいいんだろう」

 

 捻くれた感じでグレイはガントレットを受け取り、壇上にあがる。

 彼はオルドのように気合いを入れたり、力んだりしない。

 ごく自然体で、どこか気怠げに腕を空に伸ばした。


 ——ゴォオォォオオオオ!!


 目を瞠るような鮮やかな炎の渦。

 それが天高く昇っていく。

 広がる熱気が私たちの情感を刺激し、また炎の美しさに、誰もが心を奪われた。

 誰か一人が手を叩くと、それが連鎖して万雷の拍手へと変わる。


「さすがですわグレイ様! でもおかしいですわね? なぜ先生ではダメで、彼は成功したのでしょう。……あ、わかりましたわ!?」

 

 ここはもう大仰に、私は手を合わせる。

 誰もが注目している中、核心に迫ることを口にする。


「グレイ様の癖で、制作者の魔力にだけ反応するようにコードを書いたのでは?」

「……確認します」

  

 グレイの指先が光り、魔術コードが空中に浮かび上がる。

 それをその場で素早く書き換えていく。


「失礼。オルド先生が正しかったです。完全にボクのミスでした」

 

 どよめきが起こる。

 淡々と反してはいるけれど、衝撃の暴露をしているからだ。

 ジャイルが真っ先に反応した。


「オルド教授、これはどういうことでしょう。貴方の発明ではないのですか?」

「いやいやいや……! これにはですな、事情がありまして……」

 

 とぼけようとするので、私がトドメを刺しておく。


「事情って、まさかグレイ様の発明を横取りしていたのでは!? なんてことでしょう! それが教師のやることですか!?」


 ヒステリック気味に叫ぶと、観客たちからも軽蔑の声が巻き起こる。


「弟子の作品を自分の物にしてたわけか」

「最低じゃねえか! 逆らえない教え子を食い物にするなんてっ」


 オルドは誤解だと繰り返すばかりで、まともな説明はしない。

 いや、できないんだよね。

 実際、みんなが話す通りだから。

 

「ジャイル、こんな酷い人との契約なんてやめるべきだわ!」

「ええ、お嬢様の仰る通りです」


 ジャイルは感情を切り捨てた目で、オルドを冷然と見下ろす。


「オルド教授。ノルディ公爵家は、貴方との契約を破棄します。我々を欺いたことに対する違約金、さらに支援金に関する返還請求書を後日お送りします。ご覚悟ください」

「……だからぁ……違うってぇ…………」

 

 オルドは膝から地面に落ち、うなだれる。

 己の強欲が招いたことだし、なんの同情の余地もないかな。

 私はグレイに視線を送る。

 声は出さずに、口の動きだけでコミュニケーションを図る。


『上手くいきましたわね?』

『ああ、気分がいいよ』

『私も楽しかったです。やっぱり復讐は最高の娯楽ですわ』

 

 悪役令嬢らしいセリフを言っておく。


 ☆


 帰りの馬車の中で、私はジャイルに尋ねる。


「制作者がオルド先生じゃないって、知っていたのでしょう?」


 瞑目していたジャイルが、静かに瞼を上げる。


「公爵様と私は、オルドをずっと疑っていました。魔道具の質が上がった時期を考えると、グレイ様が制作者ではないかとも」

「だからお父様は、婚約者候補に彼を割り込ませてきたのね」

 

 公爵は戦略的な人なので、天才と娘がくっつくのならば、それも良しと考えたのだ。


「仰る通りです。問題は、グレイ様本人がオルドに協力的だったことです。それで証拠が掴めませんでした」

 

 グレイは限界まで我慢して、ある日プッツンといくタイプだからね。

 オルドを尊敬してたのも大きい。


「昔の先生は、本当に凄かったの?」

「彼も間違いなく天才でした。でも金と欲に溺れて才を腐らせてしまった」

「難しいのね、人生って」

「今回は、お嬢様とグレイ様の演技のおかげです。感謝いたします」

 

 穏やかな笑みを浮かべながら、ジャイルは胸に手を当てる。

 彼は優秀なので、私たちの三流演技など楽に見抜いていたのだろう。


「なんの話かしら」

「ふふ。しかし、お嬢様は変わられましたね。なにが起きたのでしょう」

「さあ。よくわからないわ」 


 とぼけたフリして、もう一度ジャイルの内面をのぞき見る。


 ジャイル・オードリー

【総合値】+80


【忠誠】+75

【感心】+62

【興味】+58

【警戒】−70

【軽蔑】−45


 私の評価、プラ転していた。


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― 新着の感想 ―
ジャイルに対する感想が「軽蔑してようが何だろうが【忠誠】が+70って大幅プラスなら良いのでは? 少なくとも裏切らないし」から、発表会後だと、「それでも【軽蔑】はマイナスのままなのね」になるのが面白い……
これまでの候補達と比べて王子様の扱いが一番酷い件(-∀-)もうこれは最後の候補が楽しみで仕方ないわ〜。
連載版が読めて、とても嬉しいです! 話が面白くて続きを読むのが楽しみです。
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