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【連載版】愛してると言われても、頭上の数値は『殺意MAX』ですが?  作者: セトガワ トウ


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26話 決着つけましょう

「ふう……。結構危うい綱渡りね……」


 まだ夜会の最中だが、私はバルコニーに出て一人で夜風に当たっていた。

 さすがに、少し鼓動が速い。

 そろそろ、こちらも反撃に出ようかしら。

 指輪が振動して、カゲロウから音声が入ってきた。 


「聞こえるか。明らかに目つきの悪い奴が数人いる。なんか狙ってねぇかこれ」

「すぐに戻るわ。みんな、一度合流しましょう」


 私は静かなバルコニーから、絢爛なホールへと戻る。

 裾をつまんで小走りでみんなを探す。

 先に視界に入ってきたのは、ジークとアーサーだ。

 五、六人で談笑している。その中には王や父もいた。

 中年男性の給仕がワインを載せた盆をもってアーサーの横につける。

 アーサーが喋りながらそれを取って飲もうとして――


「殿下、いけません!」

 

 唐突にジークが叫び、アーサーのワインを叩き落とした。

 グラスが派手に割れ、ホール内が静まりかえる。

 私を含め、一同の視線はそちらに釘付けになった。

 

「な、なにをするんだジーク!?」

「飲んではいけません。この者、殿下にお渡しする前に、なにかをワインに入れました」

 

 そう伝えるや否や、ジークは給仕を取り押さえた。

 

「離してください……! 私はなにもしていません!」

 

 給仕は必死に訴える。

 【Gap100%】なので、おそらく本当に毒を入れている。

 周囲の貴族が床に零れたワインを見て確かめようとする。

 ただ見た目には、わからない。

 そこでジークが提案する。


「いいでしょう。それならば、床のワインを舐めなさい。貴方の身に変化がなければ、僕が謝罪します」

 

 ジークは彼を体を捕まえたまま、頭を押して床のワインに近づける。

 もう舌を出せばワインが触れる距離になり、給仕が観念する。


「申し訳ありません……舐められません」

「毒が入っているからでしょう?」

「……はい」

 

 悲鳴のような声があちこちで上がる。

 混乱が瞬く間にホール内に伝播していく。

 そんな中、冷静沈着にジークは給仕に問う。

「誰に頼まれたのです?」

「……言えません」

「それならば、ここで処刑されますよ」

 

 兵士たちが駆けつけてきて給仕の男を乱雑に捕らえる。

 給仕はもうやけくそで顔をくしゃくしゃにして叫ぶ。


「どうせ言っても殺すのだろう……。もういい、殺せ。殺さないのなら舌を噛み切って死んでやる!」

 

 彼は錯乱した様子で、歯で舌を挟む。

 一見、本当に自殺してしまいそうな勢いに見える。

 私にはあれが本心ではなくフェイクだとわかったが。

 ジークは深刻な顔で、王に体を向ける。


「陛下、進言させてください」

「申せ」

「このままでは毒殺の真の犯人は闇の中になります。そこで、この男がすべてを吐けば、罪を軽くするのは如何でしょう?」

「……ううむ」

 

 王は迷う。当然だろう。

 いくら依頼とはいえ、王子を殺そうとしたのだ。

 本来であれば即刻死刑でもおかしくない。

 しかしジークの言うとおり、給仕はいまにも死にそうだ。

 悩んだ末、王は決断する。


「よかろう。特別に、許可する」

「聞きましたか? すべてを話せば、貴方の命は救われます」

「……嘘だ。どうせ話した後で殺すんだろ」

「では陛下の御前で宣言します。彼の命が不当に奪われたとき、僕はディスレイル家の次期当主の座を放棄します」

 

 あろうことかジークは陛下の前に腰を落とし、そう宣言した。

 さすがにこれは効力を持つ。

 王があの男を殺せば、ジークの未来は暗いものと化す。

 だがジークはアーサーの親友であり、なにより命の恩人だ。安易に処刑はできなくなる。

 ジークは立ち上がり、給仕の元へ。


「僕の言葉が嘘ではないと証明しました。次は貴方の番ですよ」

 

 給仕は俯いて十秒くらい考え込んだ。

 だがやがて、重々しい口を開いてみせた。


「私に殿下の毒殺を命じたのは……」

 

 彼の目線がジークから、横にいた人物へと移る。


「……ノルディ公爵です」

 

 衝撃で誰もが言葉を失った。

 当の父ですら、口を丸く開けたまま動けない。

 だが唖然としてはいけないと我を取り戻して訴える。


「私ではありません! このような者、顔も知りませんでした!」


 父の言葉に嘘は一切ない。

 給仕に対して、ジークが確認する。 


「本当に、ノルディ公爵が命じたのですか? どんな理由で?」

「……理由はわかりません。ですが数日前、私に話を持ちかけてきました。成功したら借金は無しにしてやると」

「貴方は公爵家から多額の借金をしている?」

「公爵家の運営する金融業からです……」

 

 やられた……。今の給仕の言葉は本当だった。

 つまり彼は本当にウチから借金をしている。

 おそらくジークが依頼主だ。

 借金の肩代わりをすると申し出て、さらに軽い罪で済むと彼を取り込んだ。


「貴方が本当に、借金しているかは調べればわかりますよ」

「調べてください! 私は本当に多くの借金で首が回らなかったんです」

 

 ……そうか。私がアーサーとの婚約に至らなかったとき用に、この罠も仕込んでいた。

 しかも狙いは私ではなく、公爵家そのもの。

 毒蜘蛛は、食い尽くす方向に切り替えたのだ。

 

「ノルディよ。この者の話は真なのか?」

 

 王は落ち着いた様子で話す。

 父と王の関係は深い。これまでの歴史もある。だから王も弁明の余地を与えている。

 父も深呼吸して、まずは落ち着く。

 ええ、それがいいと思うわ。


「陛下。私が王家に刃向かう理由などありませぬ。アーサー殿下を毒殺する理由など、どこにもないのです」

「うむ。貴公は賢い。理由もなく、このような真似はせぬな」

 

 ホッと父が胸を撫で下ろしたのも束の間、他の貴族が会話に入ってくる。


「陛下、発言失礼します。理由は……あるかもしれません」

「なに? どういう意味だ?」

「実はノルディ公爵家は、事業で王家などから圧力をかけられております」

 

 王にとっては寝耳に水だったらしい。

 本当につい最近のことだから無理もないだろう。

 そして私も内心焦る。

 少し前からの公爵家への圧力は単なる脅しだけではなく、ここに活かすための糸でもあったのだ。

 王家に深く関わる貴族の中に、公爵家のやり方に疑問を持つ者たちがいたという話を貴族は王に話す。


「ノルディよ。仕事に影響が出ていたのは本当か?」

「ですが、我が公爵家の展開する事業のうち、わずか一部です」

「ううむ……」

 

 ああ、良くない。王が悩み出した。

 動機が出てきたからだ。

 そして王は父の性格を知っている。

 彼は冷徹で合理的かつ、自分の娘ですらある意味道具として扱うような男だと。

 サブパートナーの狙いだって、王は気づいているかもしれない。

 

「すまぬがノルディ。一度捕縛させてもらう」

「なっ!? 陛下、私のことをお疑いになるのですか!?」

「……連れていけ」

 

 兵士に抱えられて父が連れていかれる。

 これを黙って見過ごせば、私の敗北だ。


「お待ちください!」

 

 私は陛下の前に出る。

 

「発言をお許しください」

「許そう」

「まず、そちらの給仕の方に。父に数日前に依頼されたと言いましたが、具体的にはいつですか? 何時頃でしょう?」

「それは……突然のことで、記憶が曖昧です」

「命を賭けた話なのに、日にちを覚えていないのですね。それもたった数日前なのに。いつですか? 思い出してください」

 

 私がプレッシャーを与えると給仕は実に困った様子だ。

 ジークの方に助けを求める視線を送る。

 もちろん、そこは無視されたが。


「あ、ああ、そうだ……! 二日前です」

「場所はどこで何時頃ですか? また付き添いの者はいましたか? いるなら特徴を。うちの従者であれば、私もすべて把握しています」

「ええと、町の酒場で、深夜に……付き添いはなく一人でした」

 

 彼は貴族じゃない。焦ってテキトーなことを話せば、ボロが出まくる。

 付き添いをなしにしたのは、父の付き添いを知らないので、話せば嘘がバレると判断したから。

 でもそれはおかしいのだ。

 貴族が深夜に、たった一人で平民が通うような酒場にいくなんて稀。

 ましてや金持ちの父は、平民と同じような場所で食事を取るのを嫌がる。

 そのことを、陛下にそのまま伝えた。

 その上で、言葉を付け加える。


「父をよく知る陛下ならばご存じかと思います。父は冷徹な面があり、他人をあまり信用しません。毒殺をするにも信頼の置ける部下にやらせます。深夜で酒場で飲んでいる借金取りに、依頼するでしょうか? しかも実行の二日前に」

「……確かに、ノルディらしくはないな」


 そう、全く父らしくない。 

 いくらジークの頭が回ろうとも、父と長く接したことはないゆえ、行動原理までは知りようがない。

 

「もう一つ。父が殿下の周りに恨みを持ったと言いますが、逆もあり得ませんか? 父の事業に圧力をかけるほど、嫌っている貴族たちがいるのです。彼らこそ、父を罠に嵌める動機があります」

「つまり、その給仕は嘘をついていると」

「はい。間違いなく」

 

 私が断言すると、大きなどよめきが起きた。

 私は思っている推論を言葉にしていく。

 

「彼はうちで借金をしていたから選ばれました。父に依頼されたという言葉の信憑性を高めるためです。そして始めから軽微な罰で済むと知っていた」

「……軽罰だと、知っていた?」

「おかしいでしょう? 自分が渡したワインで殿下が毒死したら、すぐに疑われます。それなのに、あんな行動を起こす。軽罰で済むと知っていたからです」

「ソラリス嬢よ。犯人に目星はついているのか?」

 

 王の質問に、私は深く頷いた。

 そして犯人に対して、指を伸ばす。


「ジーク様が首謀者ですわ」


 動揺しない者を探す方が難しいだろう。 

 まず、真っ先に抗議してきたのは意外にもジークではなかった。


「ソラリス、すぐに撤回するんだ! ジークがそんな真似をするわけがない!」

 

 アーサーの発言に対するGapはゼロ。

 彼はジークの駒として使われていただけで、バラの攻撃や暗殺については全く教えてもらっていない。

 そしてジークが怒りを孕んだ、しかし静かな声で反論してくる。

 

「僕を犯人にするのであれば証拠があるのでしょうね? いくら貴方でもタダではおきませんよ」

「証拠は今から作りますわ。少しお黙りになって」

 

 まだ証拠を回収できていないのは、私にはわかっているのよ。

 しかしジークにも焦りがあり、初めて感情を剥き出しにしてくる。

 睨み付けてくる眼光は恐ろしいと感じるほどだ。


「まず妙なのは、次期当主の座を賭けてまでこの場で黒幕を言わせたかったことですわ。第一発見者もジーク様。陛下に罰の軽微化を申し出たのもジーク様。一つ一つはあり得ても、三つが繋がるとそういうストーリーだったと感じません?」

「僕はただ、殿下を狙う輩を捕まえたかっただけだ! 卑怯な暗殺など企てるわけがない。失礼にもほどがある!」

 

 そこは当然、ジークも激しく主張してくる。

 声を荒らげてもやる場面だとちゃんと理解している。

 私だってミスしたら父とお縄になるので必死だけれど。

 

「でも貴方は、私に卑怯な罠を仕掛けました。――あの方たちを逃がさないでください。彼らのバラには仕掛けがあります」

 

 私はそう告げて、さっき踊った男性三名を指さす。

 すると彼らはその場から一斉に逃げ出した。

 

「逃げんじゃねぇよ」 


 カゲロウが即座に捕まえ、投げ飛ばす。

 そして別の逃走者も同じようにした。


「俺も手伝おう!」

 

 レオンも一人を取り押さえてくれた。

 ……さすがだわ。

 私はカゲロウの取り押さえている男に尋ねる。


「あなたのバラには精神を高揚させる作用がある。そうですね?」

「なんの話かわかりかねます」

「ではカゲロウ。嗅がせてあげて」

 

 カゲロウは彼がポケットに隠していたバラを取り上げ、強引に嗅がせる。

 しばらく抵抗していたが、次第におかしくなる。


「うははー! 重いですよぉ!」

「どけて欲しいですか?」

「はい、どけて欲しいですぅ!」

「では誰に頼まれて私にバラを嗅がせました? 正直に答えたら、もっと楽しくなりますよ」

「ジーク様ですー!」

 

 これで言質は取れたので、今度はアーサーのところに戻る。

 動揺している彼に優しく尋ねる。


「正直にお答えください。今回のプロポーズ、殿下に提案したのはジーク様ですね?」

 

 アーサーは苦しそうに目を瞑りながら、一度頷いた。

 正直に答えてくれたのは私としても助かる。

 私は再び王に話す。


「ジーク様は公爵家の力を使って、殿下を次期王の座に就かせたかったのです。そして自分は影の王になるつもりでした」

「妄言ですっ。陛下、彼女は思い込みが激しいのです」

「だがジークよ……。バラを仕込んだのは事実であろう?」

 

 これにはジークも沈黙するしかなかった。

 チェックメイトまではあと一歩だ。

 もうここで、一気に畳みかけてジークを倒したい。

 そこで私は勝負に出る。


「陛下、もし犯人がジーク様でなければ、私は死罪でも構いません。その代わり、彼が真実を話したら罪を軽くしていただけませんか?」

 

 私の視線の先には、顔面真っ青の給仕がいる。

 あのおじさんも、まさか自分がこんな選択を迫られることになるとは思っていなかっただろう。

 王も真実を知りたいようで、迷うことなく私の進言を受け入れてくれた。

 そして給仕に対して、厳しい重圧もかける。


「……よいか、王家の総力を使って事件を調べ上げる。貴様がいつどこで、誰と会っていたかもな。嘘は通じないと心得よ」

「は、はい」

「だが、もし真実を語るのであれば特別に罪を軽くしてやろう。後から重罰を課したりもせぬ。落ち着いて、正直に話せ」

  

 給仕の彼は床を見つめ、それから王や私たちの顔を順番に見ていく。

 覚悟が決まったのは、目つきを見ればわかった。

 衣擦れすら聞き取れる静寂の中、彼は真実を告げる。

 

「私に殿下毒殺を依頼したのは――――ジーク様です」


 私が小さく拳を作るのとジークが発狂するのは同時だった。


「ちくしょうちくしょうちくしょう!! ふざけるなマヌケ野郎がっ、デタラメを言ってんじゃねえ!」

「この者を捕らえよ!」

 

 王の一声で兵士たちが一斉に動き出す。

 ジーク自身は、私と同じく弱いタイプなので、抵抗してもあっという間に取り押さえられた。

 彼は連行される際、人柄が変わったように悪態をつく。

 もちろん、私に対してが一番酷かった。


「ソラリス、覚えていろよ! 必ず復讐にくるからなッ」

「ええ、次は地獄でお会いしましょう」


 ジーク・ディストレイル

【総合値】-500


【殺意】100(-)

【憤怒】100(-)

【憎悪】100(-)

【屈辱】100(-)

【後悔】100(-)



 ここまで綺麗な数字って中々出せるものじゃないと思うの。

 さようならジーク。

 私は彼にはなむけのカーテシーをしてから、優雅な足取りで三人の元へ向かった。

  

お読みいただき、ありがとうございます。

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