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【連載版】愛してると言われても、頭上の数値は『殺意MAX』ですが?  作者: セトガワ トウ


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22/26

22話 洗脳王子と招待状

 連休の間はしっかりと策を練り、週明けの学校から私は動き出した。

 昼休みに入ると私は屋上にいき、待ち合わせしている相手が来るのを待つ。


「お待たせ、ソラリス」

 

 アーサーが爽やかな笑顔でやってくる。

 以前とは違って、表情に嘘くささがない。

 システムで総合値を確認すると余裕でプラスで、ひとまず胸を撫で下ろす。

 今のところ、ジークから悪い吹き込みをされているわけじゃなさそうね。


「急にお呼び出ししてすみません。どうしてもこの間のお礼がしたかったのです」

「別にいいんだよ。パートナーを助けるのは当然の役目だから」

「これは感謝の印です。クッキーを焼いてみたのですわ」

「君が作ったの? ぜひいただきたい!」

 

 私はクッキーの入った袋を彼に渡す。

 本当に私が作ったもので、特に変なものを入れたりはしていない。

 アーサーは嬉しそうに袋を開けると、すぐにクッキーを摘んで一口食べる。

 この行動だけでも、かなり私に対する信用は高めなのはわかる。

 王子たるもの、人からもらったものを簡単に口に入れるのは禁じられている。

 この迷いのなさをみると……いけるかもしれない。

 深い信頼を築いてしまって、ジークが入ってくる余地をなくしたい。

 アーサーはクッキーを美味しそうに飲み込むと、急に真面目な顔に変わる。


「以前、君に香水をあげただろう? 実はあれ、嫌がらせの品だったんだ……申し訳ない」

「ええ、もちろん気づいておりましたわ。でもなぜ、急に謝る気になられたのです?」

「……僕はあらゆるものに不誠実すぎた。君にもそうだし、自分自身にも」

 

 アーサーは毒気の抜けた顔で空を眺め、静かに語りだす。


「僕は兄弟と比べて劣っている。王なんて初めから諦めていた。でも戦う前に諦めるのは違う……そうジークが教えてくれたんだ」

 

 あぁ、よくない……。私は胸にざわざわとした嫌な感覚を覚えた。

 少年のようなキラキラとした目でアーサーは続ける。


「僕はジークと一緒に王になる! そしてこの国を変える。そう決めたんだよ」

 

 アーサーをよく知っている大人たちは彼を女好きの放蕩息子と評価する。

 つまりダメ王子認定されている。

 でも人は多面性のある生き物で、その幅の広さには個人差があるのだ。 

 アーサーは上下に広く幅があるタイプ。悪にも正義にもなり得る素質があった。

 ジークが彼に目的意識を抱かせて、良い方に引っ張りあげた。

 拍手喝采の素晴らしい話だわ。

 ジークが誠実で素晴らしい部下であるのなら──実際はまるで違う。

 この間の件でわかったように、あの男は目的のためならば相手が婚約者であろうと利用して食らい尽くす。

 キラースパイダー……蜘蛛は仲間だって食べる。交尾後に繁殖相手を栄養にすることも厭わない。

 私はもちろん、アーサーだって捕食対象だろう。

 今は優秀な武器だから、大切にそばに置いているだけだ。

 厄介なのは、すでに蜘蛛の糸は張りめぐされていてほとんど完成している。

 

「聞いてくれよ。ジークって本当にすごい男なんだ。バートリ家の件も、彼がいち早く気づいてくれた。この間の侵入のタイミングだって、すべて彼の指示のもとだった」

「不思議なほど、タイミングが合っていましたよね。まるで彼の計算通りだったかのように」

 

 チクリと毒を入れてみるが、アーサーは彼のことを疑うどころか絶賛し始める。


「そう、未来が見えているみたいに動くんだ! おかげで僕の評価は今、貴族の間ですごく上がっている」


 晩餐会での父の発言だろう。

 ……それにしても、私は甘かった。

 アーサーを引きずり込めると考えていたけれど、すでに洗脳は完了している。

 何年もかけて、コントロールしてきたのかもしれない。簡単にこれを解くことはできない。

 ただ解かなくては、勝ち目はない。


「ジーク様って素敵な方ですね。私も負けていられませんわ」

「君だってすごく素敵になったよ。以前とは別人だ。今の僕は、君に心から選ばれたいと思う」

 

 【Gap50%】

 半分嘘で半分本当か。

 なぜここまで言い切るか。

 きっとジークから、私と結ばれるのが最善だと叩き込まれているからね。


「なんだか照れるな……。もういくよ」 

 

 はにかんだ表情をして、アーサーは屋上から出ていく。

 その背中を見送りながら、私はため息をついた。


「──あいつ、なんかキモくね?」

 

 その声は、屋上にぽつんと突き出た階段塔の上から届いた。

 以前もそうだったように、またカゲロウがあそこで寝ていたらしい。

 全然気づかなかった……。


「盗み聞きは趣味が悪いのではなくて?」

「俺がいたとこにお前らが来たんだよ。むしろ睡眠妨害の被害者だ」

 

 彼は立ち上がると、ジャンプして私の前に着地する。

 その跳躍力の高さには舌を巻く。


「あの王子、別人すぎねぇか。もっと性格悪かっただろ」

「以前から表の顔はあんな感じよ。裏までそれに染まりそうなのは驚いたけど」

「珍しいパターンだな」

「そうしたのはジークね。近いうち、それについて話があるわ」

「そんとき暇だったら付き合ってやんよ」


 彼はそう告げて、屋上から出ていく。

 自分勝手で掴みどころがないけれど、それも良さの一つなのかしら。

 カゲロウについて、もっと深く知っておきたい。

 そして彼は、確実に味方に置いておきたい。

 あれこれ考えながら歩き、教室に入ろうとしたときに声をかけられる。


「ソラリス様、あれから体調に変化などありませんか?」

「あらジーク様。私は平気ですわ、お気遣いありがとうございます」

 

 なんとジークの方から私に接触してきた。

 素早くシステムを起動して内面をチェックする。

 【愉悦】と【執着】の二つがトップにきている。

 私に拘りながらも、その過程を楽しんでいるってことかしら?

 サイコパスの一種なんでしょうね。


「先日の晩餐会でノルディ公爵様が私やアーサー様を褒めてくださり、貴族界で再評価されております。感謝の言葉をお伝えください」

 

 あの流れでは、父も仕方なく賛美するしかなかったのだ。

 

「もちろんですわ。晩餐会には他の王子の方々も参加しておられました?」

「はい。全員、参加していましたね」

「では他の王子にプレッシャーを与えたのですね。私も参加したかったですわ。さぞ爽快でしょうし」

 

 羨ましそうな口調で話すと、少しだけジークの反応が止まった。

 彼の感情を確認すると、さっきの二つを抜いて【困惑】が上がっていた。

 おそらく私の意図を読み計りかねている。

 いまの発言だと、私は他の王子が嫌いにも聞こえるからだ。


「……少し先の話ですが、次の王に立つのは誰がふさわしいと思いますか?」 

「私としては、アーサー様に勝って欲しいですわ」

「安心しました。当然、僕も同じです。もし僕らが協力したら、可能性が高まると思いませんか」


 ここは安易な受け答えはしたくない。

 全面的に協力すると伝えれば、ジークは必ずその証拠を求めてくる。

 ボカす必要がある。


「そうですわね。私もできる限りの範囲で、彼を支えられたと思います」

「でしたら」

「ごめんなさい。それは難しいですわ」

 

 ジークは面食らって動作が止まる。冷静沈着な彼には珍しい。

 それもそのはず、自分がなにも言ってない内から提案を断られたからだ。 

 そして私には、その内容は聞かずともわかっていた。


「他の方とのサブパートナー解消はできませんの。父の思惑もありまして、私の一存では決められません」

「……そうですか」

 

 アーサーだけにすれば、ノルディ公爵家は完全に第二王子派に傾いたと噂が広まる。

 そしてアーサーが他の王子と対等に戦えると盛り上がるだろう。

 でもダメだ。

 それでは最終的に私は負ける。ジークは必ず公爵家を配下にしようとアーサーを通して圧力をかけるだろう。

 私が推すときは、アーサーの心がこちらに完全に傾いたときか、あるいはジークを側近から外せたときね。


「ただ覚えておいてください。どっちつかずな態度は、結局は誰からも信頼されません」

「肝に銘じておきますわ」

「お時間、ありがとうございました」

 

 恭しく一礼して、ジークは去っていく。

 あちらも悩んでいるのだろう。

 私を仲間に引きずり込むか、あるいは潰すか。

 席に戻ると取り巻きたちがワッと集まってきた。


「今、なにを話していたのです!? やはりセリア様のことでしょうか?」

「退学なさったのですってね……!」

「ソラリス様を危険な目にあわせたのですから当然ですわっ」

 

 噂が回るのは早い。

 ここには親が貴族の人も多いので尚更だ。

 あれからセリアの家は、色々と大変らしい。

 最悪没落だけれど、そこはディスレイル家が入って上手くカバーしている。

 実質、ディスレイル家はバートリ家の力を利用できるようになった。

 

 その日、家に帰るなりメイドが父からの伝言を告げてくる。


「今週末は建国祭なので、見合うドレスを用意しておくようにとのことです」

 

 私宛ての招待状もちゃんと送られてきていた。

 その招待状を見つめながら、私はなにかが起きる予感を感じ取っていた。



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