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【連載版】愛してると言われても、頭上の数値は『殺意MAX』ですが?  作者: セトガワ


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2/11

2話 図書室の罠

 ああ、今日も世界はGapまみれだ。

 校門をくぐると、嘘は始まる。


「ごきげんよう。本日もまた、ソラリス様の優雅さが際立っていらっしゃいますわ」


キャリー・オルデント

【総合値】−411


【嫉妬】−92

【憎悪】−87

【反感】−82

【劣等感】−76

【憤怒】−74


 そう驚くことでもない。

 この学院の女子はほぼ全員、ソラリスのことが大嫌いだ。

 アーサー以外のサブパートナー三人も学院生で、しかも女子人気がある。

 彼女たちが嫌う気持ちもわかる。

 校舎の前までくると、アーサーが落ち着かない様子で立っていた。

 私と目が合うと、一瞬戸惑った様子を見せた。


【総合値】−445


【猜疑】−95

【警戒】−92

【恐怖】−88

【忌避】−86

【トラウマ】−84


 総合値は昨日と近くても、構成は全く違う。

 オークションの件がよほど効いたのだろう。

 かなりビビっている。


「ソ、ソラリス……。ちょっといいか」

「あら、どうかされました?」

「昨日の件だけど……オークションに出品してなかったじゃないか」

「ええ。でもアーサー様には、そちらの方が良かったのではなくて?」

 

 淡々と話す。

 逆にアーサーの方は、かなり言葉を選んでいる。

 ソラリスはメンヘラではあったが、純真でもあった。 

 アーサーに反撃などしたことがない。

 だからこそ、余計不気味に映るのだろう。


「……そうだが、さすがに嘘は看過できない。香水を返してくれ。そうすれば水に流す」

 

 私は素直に懐から香水を取り出す。

 それを空中にワンプッシュ。

 霧のように舞うそれを、手首で優雅に受ける。


「なっ!? どういうつもりだ!?」

「いい香り。これは嘘つき王子には勿体ないですわ」

 

 ここで強く睨みつける。

 アーサーは短い悲鳴を漏らし、一歩後ずさる。

 

「これは私がいただきますが、よろしいですね?」

 

 眉根をギュッと寄せてみた。

 アーサーは目を逸らしながら答える。


「す、好きに、使えばいいさ……」

「ありがとうございますっ!」

 

 敢えて猫なで声を出して礼を述べておく。

 得体の知れない女だと植え付けておくのが大事だよね。


 ☆

 

 昼休みの図書館で、思考を巡らせる。

『ソラリスの救済』は非常に難易度が高いゲームだ。

 まずイベントの数が膨大過ぎる上、ランダムだったりする。

 放課後の教室で起こるイベントがあるとして。

 固定ではないのだ。

 何種類もある。

 しかも日付やストーリーの進行で、細部が変化したりなど、とても把握はしきれない。

 加えて、ここは完璧にゲーム通りには進行しない。

 昨日のアーサーとのやり取りでわかった。

 やりこんだ私でも、決して油断はできない。

 ——ガタッ。

 椅子を引く音がする。

 もう一人の利用者である女子が、立ち上がって出ていく。

 手には本を持ったままだ。


「あっ。貴方、本を返さないと痺れますわよ!」

  

 つい声をかける。

 図書館の本は全て魔術紋が組み込まれており、部屋から持ち出すと手に電気が走る。

 

「平気です。わたしの持ち物ですから」

「それは失礼」

 

 彼女は無事に出ていった。

 所持品は本当だったようだ。


「これで一人か。のんびりできるわね。……彼らが来なければだけど」


 サブパートナーの内、本好きが二人いる。

 心構えはしつつ、読書を続ける。


「——ひどすぎるよ……!」

 

 五分もしない内に女子の嘆きが聞こえてきた。

 出てみると、さっきの女子が座り込んで泣いていた。

 そばには、ビリビリに破られた教科書。

 そうか、これはイベントであった——


「——なにか事件か!?」

 

 待ってましたとばかりのタイミングで巨躯な男子が駆けつけてくる。


「ソラリス……!? これはどういう状況だ?」

「私もわかりませんわ、レオン様」


 レオン・フォルナー。

 サブパートナーの一人で、読書好きの内の一人だ。

 今回は彼の方だったのね。

 まず目を引くのは190cmを超えるであろう体格。

 騎士団長の息子であり、制服の上からでも鍛えられているのがわかる。

 特徴的な赤髪と琥珀色の瞳。

 精悍で凜々しい正統派イケメンだ。

 

「トイレから戻ったら、わたしの大事な本が破られて捨てられていたんです……! しかも魔石を埋め込んだ栞もなくて!」

 

 メーターを見るまでもなく嘘だとわかる。

 ただ私にはであって、レオンは別だ。


「君、本はどこに置いていた?」

「図書室内です……」

「他に誰がいた?」

「中にはわたしともう一人だけ……でした」

 

 気まずそうに、女子は私の方を一瞥する。

 それを受けたレオンが義憤を覚える。


「まさか君がやったのか!」

 

 雷鳴のような怒声が響く。

 彼の瞳には正義感と使命感が宿っている。

 あぁ、これぞレオンだ。

 筋肉が制服を着ている男。


「レオン様、少しは頭を冷やしてはいかがでしょう」

「失礼な! 状況的に、君しかいないだろう!」

「私が犯人なら、なぜ図書室内に留まるのです? 彼女の悲鳴が上がるまで待って、現場に戻るメリットは?」

「ウッ……」

  

 反論できず、言葉に詰まるレオン。

 さて、彼も私に好意は抱いていない。

 でもアーサーとは少し違う。

 

 レオン・フォルナー

【総合値】−411


【使命感】−92

【義憤】−85

【独善】−84

【軽蔑】−80

【信頼】−70


 彼は熱血漢タイプだ。

 女性の心の機微がわかるような男ではないので、ソラリスとの相性は悪かった。 

 ちなみに【使命感】や【信頼】なんてのは、+にも化けるエネルギーだ。

 

「……そうだ、野次馬のフリで楽しむ奴もいるだろう?」

「野次馬をするにしても図書館からは出るでしょう。数人の友人と、後からくればいいだけです」


 レオンが再び黙り込む。

 さっきまでの威勢は消え、迷っている。

 この女子の目的は『レオンと仲良くなりたい』だ。

 原作では、ここでソラリスがヒステリックになり、犯人にされてバッドエンドとなる。

 クリアするキーは二つ。

 レオンを冷静な中立に立たせること。

 そして女子を心理的に追い詰めてボロを出させること。

 

「レオン様、見方を変えてください。被害者と容疑者という色眼鏡を外すのです。いまは二人の主張者がいるだけ。いいですね?」

「……わかった、努力しよう」

 

 レオンは素直にうなずく。

 根本として、弱きを助けたい精神は悪くないのだ。

 目がだいぶ節穴ってだけで。

 

「ではあなた、お名前は?」

「ロザルヌです……」

「私とあなたの関係性を話してみてくださる?」

「……差別されていました。我が家は爵位の低い貴族なので、いつも貴方に見下されて……」

「——差別!? 見損なったぞッ!?」

 

 すぐカッとなるレオンに対して、私はシッとひとさし指を唇に当てる。

 騒がないの、筋肉。

 さあ、ロザルヌの言葉はこれ。


【Gap100%】


 見なくてもわかっていたけど。


「私がいつ、どこであなたを差別しました?」

「そっ……そんなのいつもです! すれ違うときとかも!」

「名前も知らない相手を、ねえ」

「っ……」

 

 ロザルヌは上手く言葉が出てこないようだ。


「質問を変えます。トイレにいっていたのは何分くらいですか?」

「ご、五分とか、そのくらいです」

「私は五分であなたの本をここまで破って廊下に捨て、さらに魔石の栞も盗んだ」

 

 ロザルヌは目を泳がせながら、自信なさげにうなずく。


「ちなみに栞ですが、本当に学校に持ってきてましたか?」

「持ってきてました! 本にちゃんと挟んでいました!」

 

【Gap100%】

 

 栞は初めからないで確定ね。


「消えた栞は私が持っているか、どこかに捨てたことになりますね。まず私の身体検査をしましょう。それでなければ、ここから二分三十秒以内でいって戻れる範囲をすべて探しましょう」

「なぜ、二分半なんだ?」

 

 レオンが疑問を口にする。


「私、図書室にいたじゃないですか? 約五分で本をここまで破って廊下に捨て、栞を捨て、戻ってきていることになります」

「確かにそうだな……」

 

 この辺で、ロザルヌのチャートも確認しておこう。


 ロザルヌ・ボツリー

【総合値】−443


【焦燥】−98

【恐怖】−95

【保身】−92

【隠蔽】−88

【敵意】−70


 もう少しか。

 ロザルヌの目をジッと見つめ、私はプレッシャーを与え続ける。


「魔石の栞が見つかるかどうか。これが大事ですね。もし見つかれば、私が犯人で構いません。逆になければ自作自演でしょうね」


 ロザルヌは顔面蒼白になる。

 必死にこの場をどう切り抜けるかに集中している感じだ。

 

「あ〜っ、ごめんなさいっ。よく考えたら栞は挟んでませんでした!」

「主張がコロコロ変わるのであれば、差別の話も信憑性がなくなりますよ。その場合、私が本を破く意味はなくなります」

「いえ、やっぱり入ってました!」

「では先ほどの結論に帰結します」

「あっ……は、はい……」

 

 ごくり、と生唾を飲み込む音が二つ聞こえた。

 私以外の二人だ。

 なぜかレオンも緊張しているらしい。

 心が揺れまくっているロザルヌにダメ押ししておく。


「嘘をついていた方は退学は確実でしょう。それどころか牢獄に入る可能性もあります」

「ろ、牢獄……」

「私もプライドをかけて徹底的に戦いますよ。公爵家も動くでしょうね」

「ァゥ……」

 

 貴族は家柄の圧力に弱い。

 親の七光りみたいでかっこ悪いけれど、こういうときには有効だろう。

 小刻みに震えるロザルヌに、さらに揺さぶりをかける。

 今度は、逆に助け船を出す。


「いま謝罪するなら、全て水に流します。学校にも報告はしません。ここだけの話で終わらせてあげます。これが最後のチャンスです」

 

 ロザルヌは迷わなかった。

 地獄に垂れた一筋の蜘蛛の糸を掴むかのように、すぐに行動した。


「わぁぁああ!? ごめんなさい、すべてわたしの自作自演でしたッ! どうか、どうかお許しくださいソラリス様ぁぁ……!」

 

 床に突っ伏すようにして、彼女はわんわんと泣き始めた。

 こちらとしても、これ以上面倒ごとになるのは嫌なので良しとしよう。

 事件解決を受け、レオンは相当にショックを受けている。

 頭を抱え、動かなくなってしまった。

 

「一応、動機を教えてくださるかしら」

 

 まあ知っているけどね。


「わ、わたし……レオン様に気にかけて欲しくて……こんなことをしました……」

「俺だと!? 俺が事件の原因だったのか!」

 

 レオンは、モテてる自覚が薄いタイプだ。

 女性に多少興味あるけど、他にやることが多すぎて脳のキャパが足りてない。


「弱者のために。正義のために。素晴らしい心がけですが、一歩間違えれば悪になりますよ。私はあなたに犯人にされかけた」

 

 冷たく言い捨ててみる。

 この脳筋タイプには、回りくどい言い方は絶対伝わらないだろうし。

 レオンは頭を下げ、謝罪してくる。


「……すまなかった。疑って悪かった」

「許しましょう」

 

 彼に背を向けて歩き出す。

 そして、私の心臓が止まりかけた。


「——君、ソラリスじゃないだろ」

 

 核心的すぎる……。

 バレるの早すぎない?

 驚きながら振り返ると、レオンがなぜか勝手に勘違いしてくれる。

 

「俺はなんて意味不明なことを! ショックで頭がおかしくなってる……。聞かなかったことにしてくれっ」

 

 うなずいて立ち去るので精一杯だった。

 あんまりロザルヌのこと、馬鹿にできないかも。

 私も結構、プレッシャーに弱いタイプだよね。

 ……しかし、気を引き締めよう。

 原作では、こんな勘の良さはなかったのだから。


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  ヒヤリ !? 油断大敵!常住戦場! (。-`ω´-)ウム!
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