『君から届く最後の通知』
“好き”って、永遠に続くと思ってた。
でも、どんなに想っても終わりは突然やってくる。
この物語は、「あのとき言えなかった言葉」を胸にしまったまま、
少しだけ大人になった女の子の、ひとつの恋の記録です。___瑠璃樹
私たちは、いつものように通話をしていた。
だけどその夜の彼は、どこか元気がなかった。
私は気になって、そっと声をかけた。
「どうしたの?なんか元気ないよ。」
「大丈夫だよ。なにもない。」
いつもの優しい声なのに、その夜は少しだけ冷たく感じた。
通話の向こうで、何かを隠すように息を潜めている気がした。
話題を変えようと、私は少し明るい声を出す。
「てかさ、明日本当に楽しみだね!」
「そうだね。」
明日は私たちの“1年記念日”。
そして、クリスマスでもある。
本当なら一番幸せな日になるはずだった。
でも、私は我慢できずに言ってしまった。
「やっぱり今日、なんか変だよ。」
彼は一瞬沈黙して、
「ううん、何もない。本当に。」
と、また笑ってごまかした。
絶対に何かを隠している――そう感じながらも、
「明日になれば、きっと元気になってる」
そう信じて、その夜は通話を終えた。
⸻
次の日。
私は彼との待ち合わせ場所に、少し早く着いた。
手袋の中の手は冷たく、それでも胸の奥は温かかった。
だって今日は、1年記念日だから。
でも――彼は来なかった。
冷たい風が頬を撫でる。
街のクリスマスソングが、やけに遠くに聞こえた。
そのとき、携帯の通知音が鳴った。
画面には、彼の名前。
心臓が跳ねる。
指が震える。
開いたら、戻れなくなる気がした。
それでも私は、彼の名前をタップした。
「ごめん。思い出が増える前に別れたい。」
世界が止まった。
その場で私は、膝から崩れ落ちた。
昨日までの私が信じていた“明日”は、もうどこにもなかった。
この日のために、ダイエットもして、美容院にも行って、
苦いサプリも頑張って飲んで、
朝早く起きてメイクして、ヘアアレンジも練習した。
全部、彼のために。
“好き”を伝えたくて、可愛くなりたくて、頑張ったのに。
なのに――
こんなにもあっけなく終わるなんて、思ってもなかった。
でも私は、受け入れるしかできなかった。
「分かった。今までありがとう。こんなに愛せたのは貴方だけだよ。」
そうメッセージを送り、私はゆっくりと歩き出した。
信号の光が滲んで、冬の夜が一段と冷たく感じた。
⸻
それから5年が経った。
私は仕事帰りの交差点で、ふと立ち止まる。
前から歩いてくる男性の隣には、綺麗な女性がいた。
笑っている彼を見て、すぐに分かった。
――あの日の、彼だ。
忘れていたはずなのに、
心の奥が一瞬であの日の痛みに戻された。
付き合った日、もらったプレゼント、たくさんの会話。
それらの記憶は、もうぼんやりとしているのに、
“別れた瞬間の感覚”だけは、今も鮮明に残っていた。
あの時感じた気だるさ。
心に穴があくような、静かな痛み。
でも、もう泣かない。
信号が青に変わる。
私はスマホの画面に映る自分を見て、ふっと笑った。
あの日の涙よりも、今の私のほうが少し強い気がした。
今はただ、彼のいいところだけを、
私の心の中に、静かに残している。
恋って、終わった瞬間に「昨日までの自分」も消えてしまう気がする。
でも、悲しみのあとには、ちゃんと新しい日常がやってくる。
“君から届く最後の通知”があったから、
私はもう、誰かを怖がらずに愛せるようになった。




