第三話:雷神にマネージメントはまだ早い
戦国武将とアイドルマネージャー、ここからどんな関わり方をしていくのでしょうか。
ギシ…ギシ…
カシャン…カシャン…
鉄と革が擦れ合う鈍い音が、断続的に響いていた。
そんな聞き慣れない音に目を覚ます。
立花軍の陣に入れてもらった翌朝。
外では兵士たちが慌ただしく動き回っている。
まさか、もう戦か…?
命の危険がすぐそこにある場所で、よく熟睡できてたなと自分の馬鹿らしさにびっくりしながら、
簡素な麻のテントをくぐり外へ出る。
ちょうどその時、走って移動中の誾千代と鉢合わせた。
「お、おはようございます!」
誾千代「小野!ご無事で!」
――ご無事で?
たぶん、“無事に朝を迎えられてよかった”という意味だろう。
この時代、敵がいつ来るかもわからない、獣もいるかもしれない
そんな状況で寝て起きることすら命懸けなのかもしれない。
「い、戦ですか…?」
誾千代「秋月にはまだ動きはなく、出陣はせぬ!」
秋月――それが敵方か。
「じゃあ、みんな何してるんです? 戦でもないのに、走り回って」
誾千代「最近、秋月の離反で兵が動揺しておる。続いて逃げ出す者も多いのだ。」
「それで離反を企てた一派が捕らえられ、道雪様のもとへ連れて行かれている。私はその知らせを受け向かっておる。」
戦ではないと聞いて少しホッとした。
だけど、“戦が先延ばしになっただけ”という現実に、胸の奥がざらつく。
このままじっとしていたら余計に怖くなりそうで、俺は誾千代の後を追った。
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立花道雪 陣中
縄で手を縛られ正座させられた捕虜たちが数十名。
その正面で腕を組み、静かに見つめる道雪。
誾千代が隣に立ち、俺も少し離れて見守った。
道雪「おぬしら、家に残した妻子をどうするつもりで逃げたのだ?
自分の行いが、どれほど家族を苦しめるか、考えたことがあるか?」
……怖い。
けれど、それ以上に胸の奥を刺すような問いだった。
俺は妻子を持ったことはないからわからないが、
彼らにとっては死より重い言葉なのかもしれない。
ただ俺は道雪の言葉に疑問を持った
――このまま彼らをどうするつもりなんだろう。
まさかこのまま“家族を思い出させてから殺す”なんてことは…
いや、道雪はそんな冷酷な人じゃない。そう信じたい。
隣の兵士に小声で聞いてみた。
「道雪様、あのまま殺すつもりなんですか?」
兵士「……いつもああなんだ。長い話をして、牢に1日閉じ込めて、そのあと殺す。」
兵士「裏切りを許せないんだろうな。後悔させてから殺したいんだと思う。」
そんなはず、ない。
昨日、初めて会ったときの道雪は、確かに怖かったけど――
それは“覚悟のある人間の静かな迫力”だった。
そう思っていた時、道雪の声が響く。
道雪「もうよい。下がれ!」
捕虜たちは牢へ連れられていき、それを見つめる誾千代の表情は複雑そうだった。
俺は誾千代に近づいて、つい口を開いた。
「道雪様、ああして1日牢に入れてから殺すらしいですね。いつもそうなんですか?」
誾千代は眉をひそめ、悲しげに答えた。
誾千代「違うのだ。道雪様がしたいことは、そんなことではない。」
誾千代「本当は、ご自分のもとを離れようとする者を生んでしまったことを、己の未熟と受け止めておられる。」
「……つまり、本当は殺したくなんてない?」
誾千代は静かに頷いた。
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俺にも似たようなことがあった。
《Happy☆ness》で一番人気だった元メンバー、さら。
あるドラマ撮影のときのことだ。
――撮影1日目。
「さら、さっき挨拶してなかったよね」
「台本、めっちゃ前に送ってたんだから覚えてこようよ。NG出しすぎ。」
口うるさく言いすぎて、さらの機嫌は悪くなり周りに気を遣わせてしまうことになった。
ADさんにまで「さらちゃん、お疲れですよね…」と気を遣われたほど。
その夜、缶ビールを開けながら、YouFubeでとあるドラマのメイキング映像を見た。
みんな笑ってる。
俺のさらへの言葉をもう一度振り返ってみた。
さらにもっと売れてほしくて、スタッフさんに気に入ってもらうために注意していたことだが、
確かにさら本人からしたらただの、注意してくる人だったのかもしれない。
俺だけが、“矯正”しようとしてたのかもしれない。
「怒るより、モチベ管理の方が大事なのかもな…」
そう思って、さらに電話をかけた。
「今日は言いすぎた、ごめん。でも俺はさらにもっと売れてほしい。
“さらちゃん、いい人だね”って思ってもらえるように。
俺はマネージャーだから、さらの味方ってことは忘れないで。」
電話口の向こうで、小さなため息。
ダメだったか。
そう思い2缶目のビールに手を伸ばそうとした時、
くすっと笑う声。
『別に敵だなんて思ってませんよ。
でも小野さん、全然そばにいないから知ってる人誰もいなくて不安になります。ひどいです、もう。笑』
キタコレ。心の中で踊った。
「明日はなるべく近くにいるよ。笑」
「でもさらとも話したいけど、スタッフとも話さなきゃだから、そこは勘弁!」
その日は少し談笑をして、明日のスケジュールの確認をして電話を切った。
翌日、さらの表情は柔らかかった。
わからないところを聞いたら、昨日よりもハッキリと伝えてくれて事前に調整ができる。
共演者とも自然に話して、撮影もスムーズ。
“モチベーション管理”――それを実感した。
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もしかしたら、道雪も“伝わってないだけ”なんじゃないか。
そう思っていた時、誾千代が「道雪様に報告へ行く」と言い、俺もついていった。
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道雪「小野か。よく眠れたか。」
「おはようございます。さっきのは、離反した人たちですよね?」
道雪「ああ。だが……わしは分からぬ。
なぜ彼らが離れようと思うたのか。
わしが“この戦勝てる”と思わせられなかったからかもしれぬ。」
この一瞬で老けたと思うくらいに、悲しい表情をしていた。
俺の知識、戦国時代の人たちに通じるのかはわからないが役に立てたいと思った。
「モチベーション管理で離職率を下げたいんですよね?わかります…」
道雪「もち…餅…なんだ…?」
道雪はしばらく腕を組んで俯いて考え込み、理解してくれたのか頷きながら顔を上げた。
道雪「おそらくお主が言いたいことはわかる…里庶家律とやらをさげる?をしたいとわしも思うておる。」
「道雪様、捕虜の人たちにもう一度会いませんか?」
道雪「会って、それからどうするのだ。わしはもう言いたいことは言った。応えなかったのは奴らだ」
「でも、それって“言っただけ”ですよね?
捕虜の人たちからしたら家族を使った脅しにしか聞こえてないと思うんですけど!」
道雪様は、あのとき言っていた──「家に残した妻子をどうするつもりで逃げたのだ」
あれは道雪から”逃げたお前らの妻子を殺す”と言われたように聞こえたと思う。
道雪「わしが脅しておると…?長らく話しておったのに奴らにはわしが敵に見えておるのか…!?」
「そうだと思います…道雪様ただでさえ怖いので…」
道雪「お主が言っておることが見えてきたぞ!つまり、奴らにわしが長らく話しても、わしが思うておることを分かってもらわないと意味がないということか…!」
「はい!道雪様は”喋っていただけ”で捕虜の人たちに伝えきれていたわけではなかったんだと思います!まずは会話をしましょう!」
一瞬、道雪の眉がピクリと動いた。
刀に手をかけかけたようにも見えたけど――多分、半分くらいしか現代語を理解してなかったのだろう。
道雪は小野から少し煽られていることには気づかなかった。
道雪「誾千代、捕虜の元へ向かう、酒の準備もしろ!」
「はい! 会話をしましょう、道雪様!」
誾千代が微笑む。
そして三人は、再び捕虜のもとへと向かった。
次回は、立花道雪が戦国武将の中でも"理想の上司"と言われている部分が初めて出てきそうです...!




