第七十話:プロジェクト完了報告 (Project Completion Report)
【免責事項】
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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【残り1時間】
PEOCのメインスクリーンに、バルト海の、衛星映像が映し出された。
海の中から、一筋の、白い軌跡が、天へと昇っていく。
ミサイルだ。
それは、数分後、目標とされたヨーロッパの都市から、遥か離れた、無人の、公海上に、着弾した。
水柱が、高く、上がる。
人的被害、ゼロ。
その光景を、俺たちは、ただ、静かに、見つめていた。
人類の、危機は、去った。
「……さて」
俺は、静寂を破った。
「……最後の、仕事だ」
俺は、レオに、命じた。
「レオ君。イワノフに、繋げ。
クライアントへの、『プロジェクト完了報告』を、しなければ、ならんだろう」
スピーカーから、ノイズと共に、
あの、冷たい、声が、聞こえてきた。
だが、その声には、隠しきれない、焦りが、滲んでいた。
『……どういうことだ。
なぜ、目標から、外れている……。
ヴォルコフは何をしている!』
俺は、静かに、語りかけた。
それは、無茶な要求を繰り返す、クライアントに、
最終通告を、突きつける、
プロジェクトマネージャーの、声だった。
「……イワノフ大統領。
プロジェクト『世界を救え』に関する、
最終報告だ」
俺は、淡々と、告げた。
「貴社の、現場担当者である、ヴォルコフ艦長と、協議の結果、
商品の、納品先について、一部、仕様を変更させていただいた。
これにより、双方の、リスクを、最小限に、抑えることに、成功した」
『……何を、言っている……?』
「さらに、だ」俺は、続けた。
「今回の、プロジェクトにおける、
彼の、多大なる、貢献に、報いるため、
我が社は、彼とそのご家族に対し、
最高水準の、『福利厚生』を、提供することを、決定した。
もちろん、費用は、全額、こちらで、負担する」
『……貴様……!』
イワノフの、声が、怒りに、震えた。
彼は、全てを、理解したのだ。
自分の、完璧な、恐怖による支配が、
アメリカの、謎の、福利厚生によって、
完膚なきまでに、打ち破られたことを。
「さて、イワノフ君」
俺は、最後の、提案を、した。
「このプロジェクトは、これにて、完了だ。
君と、俺との、『共同経営』の話だが……。
このまま、パートナーシップを、続けるか、
それとも、ここで、手切れにするか。
君に、選ばせてやろう」
俺は、ちらり、と、部屋の隅に立つ、「司書」に、目をやった。
「……ただし、言っておくがな。
君が、この話を、蹴った場合、
俺の、次の、ビジネスパートナーは、彼女になる。
彼女の、『人類最適化計画』は……。
率直に、言って、君のやり方より、
遥かに、『過激』だぞ?」
それは、究極の、二者択一だった。
俺という、訳の分からない『狂王』と、手を組むか。
それとも、俺以上に、何を考えているか分からない、『魔女』と、
敵対するか。
『…………』
長い、長い、沈黙。
そして。
『……よかろう』
スピーカーから、聞こえてきたのは、
完全な、敗北を、認めた、男の声だった。
『……君の、勝ちだ、ミ-スター・プレジデント。
……次の、取締役会の、
日程を、決めようじゃないか……』
電話が、切れた。
【00:00:00】
24時間の、タイムリミットが、尽きた。
俺の、神としての、時間は、終わった。
俺は、椅子に、深く、沈み込んだ。
終わった。
全て、終わったんだ。
その時、俺の前に、執事のジェームズが、
一枚の、羊皮紙を、差し出した。
それは、俺が、24時間前に、サインした、
『最後の稟議書』。
そして、その下に、もう一枚、
新しく、用意された、書類があった。
【アメリカ合衆国大統領 辞任届】
「……お疲れ様でした、閣下」
ジェームズは、静かに、言った。
「あなたの、お役目は、これで、終わりです。
ここに、サインを」
これだ。
これこそが、俺が、求めていた、
全ての、結末だ。
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最新話は明日の7時10分更新予定です。




