第六十六話:顧客プロファイル (Customer Profile)
【免責事項】
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。
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【残り21時間】
ホワイトボードの前に立つ、俺。
その後ろには、固唾を飲んで、
俺の一挙手一投足を見守る、
アメリカの、最高頭脳たち。
俺は、マーカーを手に取り、
震える手で、ボードの、一番上に、
大きな四角を描いた。
そして、そこに、
今回の、プロジェクト名を、書き込む。
【プロジェクト:潜水艦、見つけまSHOW】
「……閣下」
アシュリーが、小さな声で、耳打ちする。
「……最後の『SHOW』は、おそらく、『SHOWCASE』の、誤りかと……」
「いや、SHOWTIMEの『SHOW』だ」
俺は、きっぱりと言った。
(……まずい、ただの、誤字だ。
だが、もう、後には引けない……!)
俺は、咳払いをして、続けた。
「いいか、諸君。
どんな、困難なプロジェクトも、
楽しむ心を、忘れてはならない。
これは、ショーなんだ。
世界中が、注目する、最高の、ショーだ」
ミリー議長が、
「なるほど……。
我々の士気を、高めるための……」
と、また、勝手に、納得している。
俺は、描いた四角から、
三本の線を、下に、伸ばした。
「このプロジェクトは、
大きく、三つの、フェーズに、分けられる。
フェーズ1:情報収集
フェーズ2:包囲網の形成
フェーズ3:交渉と、無力化
だ」
完璧な、WBS(作業分解構成図)の、始まりだ。
会社で、いつもやっていた、やり方だ。
俺は、フェーズ1の「情報収集」から、
さらに、線を伸ばした。
「さて、ここからが、本題だ。
タスク1.1、情報収集。
具体的に、どうやって、潜水艦の情報を、集める?
アイデアを、出してくれ。
ブレインストーミングだ」
シーン……。
PEOCが、静まり返る。
将軍も、長官も、顔を見合わせるばかりだ。
「……おい」
俺は、苛立った。
「会議で、黙っているのは、
そこに、いないのと、同じだぞ!
何か、発言しろ!」
俺の、体育会系の、部長のような、一喝に、
海軍の、提督らしき、老人が、
おずおずと、手を挙げた。
「……か、閣下。
通常、潜水艦の探知には、
P-8哨戒機による、ソノブイの投下や、
衛星からの、磁気探知、
あるいは、敵国内の、協力者からの、
情報などを、利用しますが……」
「よし!」
俺は、その言葉を、ホワイトボードに、書きなぐった。
ソナー → 市場調査
衛星 → ビッグデータ解析
協力者 → 顧客への、直接、ヒアリング
「……完璧だ。
市場調査と、データ解析は、すぐに、始めろ。
だが、一番、重要なのは、
この、『顧客ヒアリング』だ」
俺は、振り返った。
「今回の、我々の、一番の『お客様』は、誰だね?
イワノフ大統領か?
違うな。
現場で、実際に、商品(核ミサイル)を、
動かしている、潜水艦の、艦長だ」
俺は、ホワイトボードに、
新しい、項目を、書き加えた。
【最重要タスク:顧客プロファイルの作成】
「この、艦長の、ことを、徹底的に、調べるんだ。
彼は、どんな人間だ?
年齢は? 家族は?
好きな食べ物は、何だ?
趣味は、ゴルフか? 釣りか?
最近、どんなことで、悩んでいる?
彼の、『真のニーズ』を、探るんだ!」
俺の、あまりに、突飛な、
営業マンのような、指示に、
PEOCの全員が、完全に、固まっていた。
だが、その、静寂を、破ったのは、
これまで、黙って、俺の会議の進め方を、
観察していた、「司書」の、声だった。
「……面白い」
彼女は、立ち上がると、俺のホワイトボードの、
「顧客プロファイル」の文字を、指さした。
「……その、視点は、なかった。
我々は、イワノフという、『王』ばかりを見ていた。
だが、実際に、駒を動かすのは、
現場の、『兵士』だ」
彼女は、レオに向かって、言った。
「レオ。聞こえているね?」
『……ああ』
「イワノフのような、完璧な支配者が、
このような、重要な任務を、
ただの、狂信者に、任せると思うかね?」
『……いや。ありえねえ』
「そうだ」司書は、断言した。
「彼が、選ぶのは、
最も、忠実で、
最も、冷静で、
そして、最も、『弱み』のある、人間だ。
家族、病気、あるいは、隠された、スキャンダル……。
イワノフが、確実に、コントロールできる、何かを、
持っている、人間に、違いない」
レオの、キーボードを叩く音が、
PEOCに、響き渡った。
彼の目が、再び、狩人の、目に、変わっていた。
『……分かった。
探すものが、見えた。
ロシア海軍の、全将校の、個人ファイルを、洗う。
潜水艦を、探すんじゃない。
『完璧すぎる、艦長』を、探すんだ』
俺が、ただ、営業の基本に立ち返っただけの、
その、一言。
「お客様のことを、知ろう」。
その、あまりに、平凡な、ビジネスの、常識が、
絶望的だった、プロジェクトに、
再び、光を、灯そうとしていた。
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最新話は本日の20時10分更新予定です。




