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(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


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第六十二話:最後の稟議書 (The Final Sanction)

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


----------


オーバル・オフィスは、奇妙な三角形の、睨み合いの舞台となっていた。


俺の右手には、ペン。

目の前には、「司書」が差し出した、俺の権力をすべて奪う、「白紙の委任状」。

そして、その横には、執事のジェームズが広げた、古びた、羊皮紙の巻物。


「……ジェームズ君」俺は、かろうじて、声を絞り出した。「これは、一体、何なんだ……?」


「その名の通り」ジェームズは、静かに答えた。「『最後の稟議書』でございます」


彼は、巻物の上に書かれた、流麗な筆記体の文字を、指でなぞった。

「これは、合衆国建国の父、ジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファーソンらが、極秘に起草し、代々の執務長のみに、その存在が受け継がれてきた、究極の、緊急時大統領権限法。……コードネームは、『プロトコル・ゼロ』」


「プロトコル…ゼロ…?」


「はい」ジェームズは、頷いた。「国家が、外部からの侵略や、内部からの腐敗によって、その存亡の危機に瀕し、かつ、議会や裁判所といった、通常の統治システムが、機能不全に陥った、最後の、最後の、最後の手段。この稟議書に、大統領が、署名した、その瞬間から……」


彼は、一度、言葉を切り、俺の目を、まっすぐに見つめた。


「……大統領は、24時間という、限られた時間のみ、合衆国憲法、及び、全ての法律を超越する、絶対的な、権限を、手にします。議会の承認も、裁判所の令状も、不要。ただ一人で、国家の、全ての資源を、自由に、動かすことができるのです。軍も、諜報機関も、その全てが、大統領の、ただ一言の、命令の下に、入ります」


絶対的な、権限。

独裁者。


俺は、ゴクリと、唾を飲んだ。


だが、ジェームズは、静かに、続けた。

「……しかし、閣下。その力には、あまりに、重い、代償が、伴います」

「代償…?」


「はい。このプロトコルを発動させた大統領は、24時間が経過し、危機が去った、その瞬間に、自ら、大統領職を、辞任し、その後、一切の、公職から、永久に、身を引かねばならない、という、掟です」


俺は、言葉を失った。

それは、古代ローマの、独裁官ディクタトルの、故事に倣ったものだった。国を救うために、全てを手にし、そして、国が救われたら、全てを捨てて、静かに、去る。


俺の目の前に、二つの、選択肢が、置かれた。


一つは、「司書」が提示した、『白紙の委任状』。

これにサインすれば、俺の責任は、ゼロになる。俺は、ただの、お飾りの社長として、ハンコを押すだけの、平和な毎日を送ることができる。だが、この国の、いや、世界の運命は、この、底の知れない、女性の手に、委ねられる。


もう一つは、ジェームズが提示した、『最後の稟議書』。

これにサインすれば、俺は、24時間だけ、神になる。世界の、全ての、責任を、この両肩に、背負うことになる。そして、その地獄のような24時間が終わった後、俺は、大統領を、クビになる。


俺の、サラリーマンとしての、魂が、揺れていた。

究極の、選択。


責任を、完全に、放棄する道か。

それとも。

究-極の責任を、一度だけ、全て、引き受けた上で、全てを、失う道か。


(……辞任……。クビ……。ということは……)


俺の頭の中に、一つの、希望の光が、灯った。

(……大統領を、辞めたら……。俺は、日本に、帰れるんじゃ、ないか……?)


その、甘い、誘惑。

だが、そのためには、24時間、この世の、全ての、重圧と、向き合わなければならない。

無理だ。

俺に、そんなこと、できるわけがない。


俺は、震えるペンを、握りしめたまま、二つの書類を、見比べた。


その時だった。

PEOCとの、緊急回線が、開かれた。

スピーカーから、レオ・シュタイナーの、切羽詰まった、声が、響き渡った。


『……おい! 聞いてるか、大統領! ロシアの、潜水艦が……!』

『……今、バルト海で、国籍不明の、潜水艦が、一隻、浮上した! 奴らの、通信を、傍受した!』


「……何だと?」ミリー議長が、叫ぶ。


『……奴らは、言ってる……。アメリカが、ウクライナ問題に、即時、介入しなければ……』


レオの声が、震えていた。


『……ヨーロッパの、主要都市、一つに、核を、撃ち込む、と……!』

『……リミットは、24時間だ……!』


静寂。

そして、絶望。


俺は、顔を上げた。

オーバル・オフィスの窓の外は、もう、夜の闇に、包まれていた。


俺の、選択の時間は、終わった。

神になるか、奴隷になるか。

いや、違う。


会社を、救うために、全てを、背負って、散っていく、伝説の、プロジェクトマネージャーになるか。

それとも。

全てを、コンサルタントに丸投げして、生き恥を、晒し続けるか。


俺は、ペンを、動かした。

そして、そのペン先が、一枚の、書類の上に、静かに、置かれた。

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

最新話は本日の11時10分更新予定です。

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