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(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


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第五十八話:リストラクチャリング (Restructuring)

予約の用意をしてたら間違って公開してしまいました。

取り消しができないようなので、本日四度目の更新となります。

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


----------


『……あなた自身の、『リストラクチャリング(組織再編)』だ、ミスター・プレジデント』


その言葉が、オーバル・オフィスに響き渡った瞬間、俺の血の気は、完全に引いた。

リストラ。

それは、日本のサラリーマンにとって、死の宣告に等しい言葉だ。肩たたき。窓際族。そして、解雇。

まさか。俺は、クビになるのか? 大統領を?


「……ど、どういうことかね、司書君」俺の声は、震えていた。「君は、俺に、この会社アメリカを、辞めろ、と……?」


だが、「司書」は、静かに、首を横に振った。

「いえ、違います、ミスター・プレジデント」

彼女は、持ってきた企画提案書の、一枚のページを、俺の前に差し出した。

そこに描かれていたのは、複雑な、組織図だった。


「これは、解雇ではありません。『業務プロセスの、最適化』です」

彼女は、まるで、凄腕の経営コンサルタントのように、語り始めた。


「私は、この数日間、あなたが推薦してくれた、壮大な叙事詩……『課長 島耕作』から、社長が退任する『会長 島耕作』までを、全て、読破しました」

「……全巻!?」

「はい。そして、一つの、結論に、達しました」


彼女は、俺を、まっすぐに見つめた。

「あなたの行動原理は、島耕作という人物の、それと、酷似している。あなたは、個人の『誠意』や『人間関係』といった、極めてウェットで、非論理的な要素で、全てを、解決しようとする。そして、奇跡的に、それで、成功してしまっている」


「だが」彼女は、続けた。「それは、あまりに、属人的すぎる。再現性が、ない。あなたの会社アメリカの経営は、あまりに、不安定な、ワンマン経営です。これでは、いずれ、破綻する」


彼女は、新しい、組織図を指さした。

「そこで、提案です。大統領の、権限を、再定義し、より、合理的で、持続可能な、『ガバナンス体制』を、構築するべきです」


彼女が提案してきた内容は、俺のサラリーマンとしての常識を、歓喜させるものだった。


提案①:『稟議りんぎ制』の導入

「今後、大統領の重要な意思決定は、閣議での口頭承認ではなく、全て、『稟議書』による、書面決裁とします。起案は、担当部署。それを、関係各部署に回覧し、全てのハンコ……いえ、サインが揃ったものだけを、最終的に、大統領が決裁する。これにより、独断による、誤った意思決定のリスクを、低減できます」


提案②:KPIによる、大統領の業績評価

「大統領の業務も、KPIによって、定量的に、評価します。『外交関係改善率』『国内支持率の安定性』『GDP成長率』など、四半期ごとに、目標を設定。もし、目標が未達の場合、大統領には、『改善計画書(PIP)』の提出を、求めます」


提案③:権限の、大幅な委譲アウトソーシング

「外交、軍事、経済。それぞれの専門分野は、その道の、プロフェッショナルに、権限を委譲します。大統領の仕事は、彼らの報告を聞き、稟議書に、最後のサインをすることだけ。あなたは、『ハンコを押すだけの、簡単なお仕事』に、専念していただく」


俺は、涙が出そうだった。

なんだ、これは。

俺を、クビにするどころか、俺の、仕事の負担を、限りなく、ゼロに近づけてくれる、夢のような、提案じゃないか。

責任は、分散され、意思決定は、ボトムアップに。そして、俺は、ただ、ハンコ……いや、サインを押すだけの、お飾りの社長に。


これこそが、俺が、日本で、二十年間、夢見てきた、理想の、『何もしないで、給料だけもらう、窓際族』の、最終形態だ!


「……素晴らしい!」

俺は、思わず、立ち上がって、拍手していた。

「司書君! 君は、天才だ! このプラン、今すぐ、採用しよう!」


「か、閣下!お待ちください!」

ハリソン首席補佐官が、悲鳴のような声を上げた。「そ、そんなことをすれば、大統領の権限は、骨抜きに……!合衆国憲法に、違反する可能性すら…!」


「黙れ、ハリソン君!」俺は、一喝した。「これは、我が社の、新しい、コーポレート・ガバナンスだ! 異論は、認めん!」


俺の、鶴の一声で、アメリカ合衆国という、世界最強の国家の、統治システムは、日本の、どこにでもあるような、典型的な、ハンコ社会へと、その姿を、変えてしまうことが、決定した。


「司書」は、その、黒いドレスの奥で、かすかに、笑ったように、見えた。

彼女は、気づいていた。

彼女が、島耕作から学んだ、最も、重要な、奥義。

それは、「会社を、本当に、支配する方法は、社長になることではない。社長を『お飾り』にし、その、決裁権を、自分が握ることだ」という、究極の、社内政治術であることを。


彼女は、武力でも、テロでもなく、一冊の、企画提案書だけで、世界最強の国家を、事実上、乗っ取ってしまったのだ。


俺は、そんなこととは、露知らず。

ただ、これで、ようやく、毎日、定時で、帰れる、と。

子供のように、喜んでいた。

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

最新話は明日の7時10分更新予定です。

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