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(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


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第五十五話:研修とオンボーディング (Training and Onboarding)

【免責事項】

この物語はフィ-クションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


----------


エアフォースワンの機内は、世界で最も気まずい空間と化していた。


機内の一角、豪華な会議室では、俺と「司書」の女性が、テーブルを挟んで向かい合っていた。テーブルの上には、ジェームズが淹れた完璧な紅茶と、俺が日本のコンビニで買った「白い恋人」が、並べられている。

これは、新しい仲間をチームに迎え入れるための、「オンボーディング・ミーティング」だ。


そして、その会議室のガラス張りの壁の向こうでは、ミリー議長とハリソン首席補佐官が、まるで檻の中の猛獣を見るかのように、こちらの様子を窺っている。機内の至る所には、特殊部隊の兵士たちが、銃を片手に、いつでも突入できる体勢で、息を殺していた。


「……さて」

俺は、気まずい沈黙を破り、ナプキンに、ボールペンで、簡単な図を描いた。

「まずは、我が社……いや、我が国の、組織図オーガニゼーション・チャートについて、説明しよう」


俺は、ナプキンの中央に、大きな四角を描き、「俺(社長)」と書いた。

そこから、線を伸ばし、「ハリソン(総務部長)」「ミリー(警備部長)」「アシュリー(社長秘書)」と書き込んでいく。


「司書」は、その、あまりに単純化された、世界のパワーバランスの図を、銀縁の眼鏡の奥から、真剣な目で見つめていた。


「君の、今後の役割ロールだが」俺は、続けた。「君は、どの部署にも属さない、社長直轄の、特命担当だ。いわば、『経営企画室長』だな。君には、『人類の最適化』プロジェクトの、具体的なKPIの設定と、進捗管理を、任せたい」


「……けーぴーあい」

「司書」は、その未知の言葉を、反芻した。「……それが、私の、タスクか」

「そうだ。期待しているぞ」


俺は、日本から持ってきた、「白い恋い人」の箱を、彼女の前に押し出した。

「これ、つまらないものだが、良かったら」


「司書」は、その白いパッケージを、まるで古代の遺物でも見るかのように、じっと見つめていた。彼女の、完璧な論理で構築された知性が、この「白い恋人」という、詩的で、非論理的なネーミングを、どうにかして、理解しようと、フル回転しているのが分かった。


その時、彼女は、ふと、顔を上げた。

そして、俺に、初めて、個人的な質問を、投げかけた。


「……一つ、聞いてもいいかな。ミスター・プレジデント」

「ああ、なんだね?」

「あなたは、なぜ、あの時、『謝罪』したのだ? 全世界に向けて」


俺は、一瞬、言葉に詰まった。

なぜ?

決まっている。会社のサーバーがクラッシュしたら、担当部署の責任者が、謝罪会見を開くのは、当たり前だからだ。


「……それが、俺の、仕事だからだ」

俺は、そう、答えた。

「責任者として、ユーザー(国民)に、迷惑をかけた。ならば、謝るのは、当然の、責務だろう」


「責務……」

「司書」は、その言葉を、噛み締めていた。「……理解、できない。責任とは、回避するものだ。罪とは、他者になすりつけるものだ。それが、我々人類の、歴史ではなかったのか?」


彼女は、混乱していた。

彼女が、世界をリセットしようとまでして、断罪しようとした、「人類の愚かさ」。

その、愚かさの、頂点にいるはずの男が、今、目の前で、あまりに、あっさりと、「責任」という言葉を、口にしたからだ。


「……ミスター・プレジデント」

彼女は、言った。「あなたの、『会社』とやらは、一体、何なのだ? その、『カイシャ』の論理を、もっと、知りたい」


俺は、にやりと、笑った。

(よし。新人研修は、うまくいっているな。彼女は、我が社の、企業理念コーポレート・フィロソフィーに、興味を持ち始めたぞ)


その頃。

エアフォースワンの、別の区画。

ハリソンとミリーは、レオ・シュタイナーからの、緊急の報告を受けていた。


『……分かったぞ!』レオの声が、スピーカーから響く。『奴らのサーバーの、ゴミ箱の中に、消しそこねたファイルが、一つだけ、残っていた!』

「何だと!?」

『奴らの、本当の、名前だ! ライブラリアンなんてのは、偽名だ!奴らの組織の、本当の名前は……』


レオは、一度、言葉を切った。そして、信じられない、といった声で、続けた。


『“ヘルメス・トリスメギストス”……。古代の、伝説的な、錬金術師の名だ。……連中は、本気で、世界を『錬成』し直すつもりだったんだ……!』


その報告を聞きながら、ミリーは、ガラスの向こうで、俺が「司書」に「白い恋人」の食べ方を、身振り手振りで、教えている光景を、ただ、呆然と、見つめていた。


「……ハリソン君」ミリーが、呻いた。「我々は、とんでもないものを、この飛行機に乗せてしまったのかもしれんぞ……」


飛行機は、夜明けの、ワシントンD.C.へと、降下を始めていた。

世界で最も危険な「契約社員」を、乗せて。

そして、彼女が持つ、世界の真理に触れる、古の知識と、共に。


俺は、まだ、何も知らない。

自分の部下になった女性が、ただの天才ハッカーではなく、人類の歴史を裏から操ってきた、秘密結社の、リーダーだということを。

そして、彼女との奇妙な「新人研修」が、やがて、世界のあり方そのものを、変えてしまう、壮大な「プロジェクト」の、始まりに過ぎないということを。

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

最新話は本日の11時10分更新予定です。

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