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(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


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第五十三話:プロジェクト中断 (Project on Hold)

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


----------


ガン!ガン!ガン!


地上から、重い衝撃が、図書館全体を揺るがす。

ミリー議長率いる、日米合同の特殊部隊が、地下壕の、分厚い扉を、破城槌はじょうついか何かで、破壊しようとしている音だった。


「……野蛮な連中だ」

「司書」の女性は、忌々しげに、呟いた。「対話のテーブルを、自ら、ひっくり返すとは。これだから、愚かな人間は……」


まずい。

せっかく、建設的な話し合い(ブレスト)が、始まりそうだったのに。

現場ミリーたちの、暴走のせいで、全てが、台無しだ。

これは、完全に、俺の、マネジメント不行き届きだ。


俺は、「司書」に向き直り、深々と、頭を下げた。

「……すまん。うちの、現場の者が、先走ったようだ。責任は、全て、俺にある。すぐに、話をつける。だから……」


俺は、懇願した。

「……どうか、攻撃しないでくれ」


「司書」は、俺の顔を、値踏みするように、じっと見つめていた。

そして、かすかに、溜息をついた。

「……よかろう。だが、時間は、ない。彼らが、この『聖域』の扉を破るまで、もって、あと10分、といったところか」


彼女は、ホワイトボードに書かれた、KPIの項目③に書いた、GNH(幸福度指数)という文字を指さした。

「……この、けー、ぴー、あい、とやら。興味深い。特にこのぎーえぬ、えいち、『幸福度指数』。これを、どうやって、測定するつもりだったのかね?」


「え? ああ、それは……」俺は、必死に、記憶をたどった。「確か、国連の関連団体が、毎年、アンケート調査を……」


ガガガガガガガッ!


今度は、金属を、ドリルで抉るような、甲高い音が、響き渡る。

もう、時間がない。


「……単刀直入に、聞こう」

「司書」は、言った。「あなたなら、どうする? この、愚かで、矛盾に満ちた、人類という『失敗プロジェクト』を」


「……え?」


「我々は、全てを『リセット』しようとした。だが、あなたは、それを、止めた。ならば、聞かせてほしい。あなたなら、このプロジェクトを、どうやって、『改善カイゼン』する?」


彼女の目は、真剣だった。

それは、もはや、テロリストの目ではない。

自分の理想と、現実の乖離に、悩み、苦しむ、一人の、プロジェクトリーダーの、目だった。


どうする?

俺は、何て答えればいい?

人類の、改善方法?

そんな、壮大なテーマ、俺に分かるわけがない。


俺は、ただ、自分が、10年間、勤めてきた、あの、どうしようもない、日本の会社を、思い浮かべていた。

派閥争い。無駄な会議。責任のなすりつけ合い。

それでも、なぜ、あの会社は、潰れずに、やってこられたんだろうか。


俺は、口を開いた。

それは、佐藤拓也としての、実感だった。


「……たぶん」

俺は、言った。


「……飲み会、じゃないかな」

「…………は?」


「いや、だから、飲み会だよ」俺は、続けた。「仕事中は、あれほど、いがみ合っている、営業部の連中も、開発部の連中も、年に数回、忘年会とか、新年会とかで、一緒に、酒を飲むんだ。そうすると、不思議と、次の日からは、少しだけ、互いに、優しくなれる。……まあ、酔いが覚めたら、また、元通りなんだが」


俺は、ホワイトボードを指さした。

「あんたの言う、『人類の最適化』なんて、俺には、分からん。だがな、もし、俺が、このプロジェクトの担当者なら……。まずは、KPIの設定よりも、先に、やることがある」


俺は、マーカーを手に取り、プロジェクト名の横に、こう書き加えた。


【第一フェーズ:キックオフ・ミーティング 兼 懇親会】


「まずは、関係者全員で、一度、顔を合わせて、酒でも飲むことだ。それが、どんなに壮大なプロジェクトでも、一番、大事な、第一歩だよ」


俺の、あまりに、凡庸で、あまりに、日本的な、答え。

だが、「司書」は、その言葉を、まるで、初めて聞く、宇宙の法則のように、静かに、反芻していた。

「……の、み、かい……」


その時だった。


ゴオオオオオオオオオオオン!


図書館の、巨大な鉄の扉が、凄まじい音を立てて、吹き飛んだ。

閃光手榴弾スタングレネードの、閃光と、爆音。

煙の中から、ヘルメットと、戦闘服に身を包んだ、特殊部隊の隊員たちが、雪崩れ込んできた。


「動くな! 全員、手を挙げろ!」


彼らの先頭に立っていたのは、ミリー議長だった。

彼は、俺の姿を認めると、駆け寄ってきた。

「閣下! ご無事でしたか!」


そして、俺の隣に立つ、「司書」を、睨みつけた。

「……貴様が、ライブラリアンのリーダーか。投降しろ。さもなくば……」


「待て、ミリー君!」

俺は、ミリーの前に、立ちはだかった。

「彼女は、もう、敵じゃない。俺の、新しい、ビジネスパートナーだ」


「……は?」


ミリーも、特殊部隊も、「司書」自身も、全員が、固まった。

俺は、にこやかに、笑った。

そして、「司書」に、手を差し伸べた。


「……というわけで、だ」

俺は、言った。


「うちの連中、ちょっと、手が早くて、すまんな。この埋め合わせは、必ずする。だから、今夜あたり、どうだ? 銀座で、一杯」

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

最新話は本日の20時10分更新予定です。

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