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(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


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第四十九話:ただいま、東京 (Welcome Back, Tokyo)

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


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エアフォースワンが、厚い雲を突き抜け、高度を下げていく。

窓の外に広がる光景に、俺は、言葉を失った。

見渡す限りに広がる、コンクリートのジャングル。夜の闇を、宝石のように彩る、無数の光。そして、その中央を、赤い龍のように貫く、東京タワー。


東京。

俺の、故郷。


「……すごい」

隣の席で、アシュリーが、感嘆の声を漏らした。「これが、トウキョウ……。なんて、美しい……」


俺は、何も答えられなかった。

胸が、締め付けられるように、痛かった。

美しい? そうかもしれない。だが、俺にとって、この光の一つ一つは、残業の光だ。休日出勤の光だ。あの光の数だけ、俺のようなサラリーマンが、今、この瞬間も、パソコンの前で、必死に戦っている。


懐かしさと、切なさと、そして、ほんの少しの安堵感。

ああ、帰ってきたんだ。

俺は、ついに、日本に、帰ってきたんだ。


飛行機が、横田空軍基地に、静かに着陸した。

タラップの扉が開く。

日本の、11月の、冷たい空気が、俺の頬を撫でた。


タラップの下には、日本の首相と、外務大臣が、緊張した面持ちで、俺の到着を待っていた。彼らの後ろには、黒塗りの車列が、ずらりと並んでいる。


「ようこそ、ミスター・プレジデント」

日本の首相が、深々とお辞儀をしながら、俺の手を握った。

「……ああ」

俺は、それしか、言えなかった。


車列は、高速道路を、滑るように進んでいく。

窓の外を流れる、見慣れた景色。

「渋谷」「新宿」という、漢字の看板。

俺が、毎日、満員電車に揺られて、通っていた場所。


俺の胸に、ある、衝動が、突き上げてきた。

それは、アメリカ大統領としてではなく、一人の、日本人サラリーマン、佐藤拓也としての、抗いがたい、魂の欲求だった。


「……停まれ」

俺は、静かに、言った。

「車を、停めろ」


「か、閣下!?」隣に座っていたハリソン首席補佐官が、ギョッとした顔で俺を見た。「一体、どうされました! ここは、まだ、高速道路の真ん中ですが……」


「いいから、停めるんだ」

俺の、有無を言わせぬ口調に、シークレットサービスのリーダー、マクギーが、やむなく、車列を停止させた。高速道路のど真ん中に、アメリカ大統領の車列が、ハザードランプを点滅させながら、停車する。前代未聞の事態だ。


俺は、ドアを開け、車外に出た。

そして、高速道路の脇にある、非常階段を、駆け下りた。


「閣下! お待ちください! どこへ!」

背後から、マクギーたちの、悲鳴のような声が聞こえる。

だが、俺は、止まらない。


俺が、向かった先。

それは、高速道路の高架下に、煌々と、光を放つ、一軒の……コンビニエンスストアだった。


カラン、コロン。

自動ドアが開く、懐かしい音。

店内に漂う、独特の、おでんの匂い。

雑誌コーナーに並ぶ、最新号の「週刊少年ジャンプ」。


これだ。

これこそが、俺の、アメリカ(ホワイトハウス)にはなかった、全てだ。


俺は、一直線に、ドリンクコーナーへ向かった。

そして、それを、手に取った。

キンキンに冷えた、500mlの、ストロング系チューハイ。アルコール度数9%。俺が、仕事で疲れた夜、いつも、共に過ごしてきた、戦友。


レジに立つ、眠そうな顔の、アルバイトの青年は、目の前に現れた、SPを引き連れた、外国人の大男(俺)に、完全に、固まっていた。


俺は、ポケットから、くしゃくしゃの1ドル札を取り出した。(残念ながら、日本円は、持っていなかった)

そして、片言の日本語で、言った。


「……コレ。オネガイシマス」


その時だった。

コンビニの外が、急に、騒がしくなった。

パトカーのサイレン。ヘリコプターのローター音。そして、野次馬たちの、怒号。


「何だ、この渋滞は!」

「大統領が、コンビニに!? なぜ!?」


どうやら俺は、日本の首都高を、完全に、麻痺させてしまったらしい。


だが、そんなことは、どうでもよかった。

俺は、チューハイの缶を開けると、その場で、一気に、呷った。

喉を焼く、強いアルコール。炭酸の刺激。そして、人工甘味料の、安っぽい味。


「……うめえ……」


涙が、こぼれた。

故郷の、味がした。


その頃。

皇居の地下深く。

ライブラリアンと名乗る、謎の組織は、モニターに映し出された、信じがたい光景を、ただ、呆然と、見つめていた。


『……ターゲットは、高速道路上で、車列を放棄』

『……現在、コンビニエンスストアにて、アルコール飲料を、摂取中……』

『……理解不能。この行動の、戦略的意図は、一体……?』


彼らの、完璧な計画は、まだ、始まってもいないのに、一人のサラリーマンの、あまりに人間的な「寄り道」によって、早くも、崩れ始めていた。

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

最新話は本日の11時10分更新予定です。

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