表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/74

第三十五話:PDCAサイクル (The PDCA Cycle)

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


----------


【03:00】


PEOCのメインスクリーンが、二つに分割された。

片方には、タイムズスクエアのカウントダウンタイマー。

もう片方には、ホットドッグ屋台の内部に突入した、爆弾処理班(EOD)のヘルメットカメラの映像が、激しく揺れていた。


「……爆弾を確認! かなり複雑な構造だ!」

「タイマーは、外部からの遠隔操作と連動している! 解体には、最低でも15分はかかる!」

「くそっ、間に合わん!」


現場からの、絶望的な報告。

PEOCの空気は、再び氷点下にまで下がった。

見つけたのに、間に合わない。これ以上の地獄があるだろうか。


【02:30】


「……万策、尽きたか」

ミリー議長が、壁に拳を叩きつけた。

「……ニューヨーク市警に、タイムズスクエアからの、緊急避難命令を……」

ハリソン首席補佐官が、震える声で指示を出す。だが、もはや手遅れだ。あの雑踏を、2分で避難させることなど、神にもできない。


俺は、その光景を、ただ見つめていた。

ダメだ。このままじゃ、ダメだ。

このプロジェクトは、失敗する。

会社のプロジェクトが失敗する時、いつもそこには、一つの共通点があった。

それは、「計画(Plan)」と「実行(Do)」だけで、物事を進めようとすることだ。


だが、優秀なプロジェクトマネージャーは、必ず、その先を見る。

「評価(Check)」と「改善(Action)」。

そう、PDCAサイクルだ。


俺は、マイクを掴んだ。PEOCの全員と、そして、現場で死闘を繰り広げている爆弾処理班の耳に、俺の声を届けるために。


「……現場の、EODチームに告ぐ」

俺は、できるだけ、落ち着いた声で言った。

「君たちの、勇気ある行動に、感謝する」


ヘルメットカメラの映像が、一瞬、こちらを向いた気がした。


「だが、今の計画プランでは、間に合わない。我々は、計画を、改善アクションする必要がある」

「改善、だと……? 大統領、一体何を…?」


「君たちの任務は、もはや爆弾の『解体』ではない」

俺は、きっぱりと言った。

「任務を変更する。これより、爆弾を『梱包』し、『輸送』せよ」


「……はあっ!?」

現場の隊員だけでなく、PEOCの全員が、耳を疑った。

「梱包して、輸送……? どこへです、閣下!」


俺は、タイムズスクエアの地図を指さした。

「……ここだ。ハドソン川だ。タイムズスクエアから、最も近い、巨大な『水』は、そこしかない」

「川に……叩き込む、と? しかし、ダーティーボムです!放射性物質が……!」


「分かっている!」俺は、叫んだ。「だが、ニューヨークの中心で爆発するよりは、マシだ! 川なら、被害を最小限に抑えられる! 放射性物質の拡散も、限定的だ!」


【01:20】


それは、完璧な解決策ではなかった。

最悪と、その次に最悪な選択肢の中から、マシな方を選ぶ、苦渋の決断。

だが、それが、ビジネスというものだ。それが、プロジェクト管理というものだ。


「しかし、どうやって運び出す!? 担いで走るには、重すぎる!」


「だから、『カイゼン』するんだ!」

俺は、ホットドッグ屋台の映像を指さした。

「その屋台には、車輪がついているだろう! それを、そのまま、台車として使え! 爆弾を屋台ごと、ハドソン川まで、押していくんだ!」


あまりに、単純。

あまりに、馬鹿げた、アイデア。


だが、絶望の淵にいた爆弾処理班のリーダーは、その言葉に、賭けた。

「……了解コピー! 全員、屋台を押せ! ハドソン川まで、全力疾走だ!」


メインスクリーンに、信じがたい光景が映し出された。

ニューヨーク、タイムズスクエアのど真ん中を、数人の特殊部隊員が、ホットドッグの屋台を、猛スピードで押しながら、爆走している。

周囲の観光客たちは、何かのパフォーマンスか何かだと思い、スマホでその様子を撮影していた。


【00:30】


「行けええええええええっ!」

PEOCの全員が、まるでスポーツ観戦のように、スクリーンに向かって叫んでいた。

俺も、拳を握りしめていた。


【00:10】

屋台が、川岸のフェンスに到達した。


【00:05】

隊員たちが、屋台を傾ける。


【00:03】

爆弾が、夜の闇に、放り出される。


【00:01】

それが、水面に到達する。


【00:00】


タイマーが、ゼロになった。

そして、ハドソン川の水面下で、巨大な水柱が、音もなく、立ち上った。


静寂。

PEOCの誰もが、息を止めて、その光景を見つめていた。


やがて、ミリー議長が、震える声で、呟いた。

「……被害は?」

「……ニューヨーク市警より報告! タイムズスクエアにおける、人的被害……ゼロ!」


その瞬間、PEOCは、ワールドカップで優勝したかのような、爆発的な歓声に包まれた。

閣僚たちが、抱き合い、涙を流している。


俺は、その場に、へたり込んだ。

疲れた。

もう、本当に、疲れた。

俺は、ただ、日本の会社で、月末の報告書に追われながら、安い居酒屋で、ビールじゃないビールが飲みたい。


だが、そんな俺の肩を、ジェームズが、そっと叩いた。

彼は、いつの間にか、また新しいティーセットを用意していた。


「……お見事でした、閣下」

彼は、完璧な笑みを浮かべて、言った。


「これにて、第一のゲームは、我々の勝利ですな」


……第一の?

その言葉に、俺の背筋を、冷たい汗が、再び流れ落ちた。

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

最新話は本日の20時10分更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ