表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/74

第十八話:綱(The Rope)

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


----------


午後の日差しがグラウンドに照りつける中、運動会のメインイベントが始まろうとしていた。

チーム対抗・綱引き。

それは、戦略も、小細工も通用しない、純粋な力のぶつかり合い。団体競技の華だ。


グラウンドの中央には、船舶の係留にでも使うのかというほど、太く、頑丈な綱が横たえられている。その両端を、赤組と白組に分かれた、世界の指導者たちが握りしめていた。


くじ引きの結果、とんでもないチーム分けが実現していた。

赤組には、イスラエルのアリエル首相とイランのロウハニ外相が、憎しみを押し殺した顔で並んでいる。先ほどの「連帯責任ダッシュ」で奇妙な連帯感が生まれたのか、彼らの間には火花と、ほんの少しの相互理解(?)のようなものが漂っていた。その他、フランス、カナダなどが脇を固める。


対する白組は、サウジアラビアのムハンマド皇太子を筆頭に、エジプト、トルコといった中東の大国が揃い、ドイツやイギリスが加わる布陣だ。


俺は、審判用の台の上から、メガホンで叫んだ。

「両チーム、準備はいいか! 俺が笛を吹いたら、全力で引くように! いいか、怪我だけはするなよ! 特に、腰を痛めやすいから、しっかり腰を落として!」


俺の、PTA会長のような心からのアドバイスは、彼らの耳には届いていないだろう。彼らの目は、もはやただの運動会のそれではない。目の前のライバルを、文字通り、自陣に引きずり込むことしか考えていない、戦士の目だ。


ミリー議長は、双眼鏡を構えながら、興奮気味に呟いている。

「すごいぞ……。これは、G7と中東諸国のパワーバランスを可視化する、究極のシミュレーションだ。誰が最初に手を抜き、誰が最後まで仲間を鼓舞するか……。全てのデータが、CIAに送られている」


やめてくれ、ミリー。これはただの綱引きだ。


俺は、意を決して、笛を口にくわえた。


「用意!」


両チームが、ぐっと綱を握りしめ、腰を落とす。アリエル首相の隣で、ロウハニ外相が「シオニストめ、足を滑らせるなよ」と呟くのが聞こえた。アリエルも「イスラム主義者こそ、祖国の恥になるな」と返す。


「……はじめ!」


ピーッ!


笛の音が鳴り響いた瞬間、地響きのような雄叫びとともに、綱がギリギリと軋む音を立てた。

中央の赤いリボンが、白組側へ、ぐぐぐっと動く。サウジアラビア皇太子が、まるで石油リグでも掘り当てるかのような凄まじい形相で、綱を引いていた。


「いかん、赤組が押されている!」

俺は、思わずメガホンで叫んだ。日本の会社では、こういう時のヤジと応援が、一番大事なのだ。

「赤組、頑張れー! もっと腰を落とせ! フランス、お前は顔だけだぞ! イラン、もっと食いしばれ! イスラエル、いいぞ、その調子だ!」


俺の無礼千万な応援に、マクロン大統領が鬼のような形相でこちらを睨んだ気がしたが、気のせいだろう。


赤組は、劣勢だった。だが、その時だった。

赤組の最後尾で、それまで静かに綱を握っていたカナダのトルドー首相が、叫んだ。

「声を合わせるんだ!タイミングを合わせろ!『オー、エス!オー、エス!』」


その掛け声に、最初に反応したのは、意外にもイランのロウハニ外相だった。彼は、トルドー首相の掛け声に合わせ、「オー、エス!」と叫びながら、渾身の力で綱を引いた。すると、隣にいたアリエル首相も、まるで負けじと「オー、エス!」と叫ぶ。その声は、フランス、そして赤組全体へと伝播していった。


「「「オー、エス! オー、エス! オー、エス!」」」


リズムが生まれた。バラバラだった力が、一本の綱に、一つのベクトルとなって集約されていく。

中央の赤いリボンが、今度は、ゆっくりと、しかし確実に、赤組側へと引き戻されていった。


白組が、焦り始める。

「何をしている!引け!」

「タイミングが合わん!」


そして、勝負は、一瞬で決まった。

赤組の、最後の「オー、エス!」の掛け声とともに、白組の先頭にいたサウジアラビア皇太子が、体勢を崩して尻餅をついたのだ。それをきっかけに、白組は、まるでドミノ倒しのように、次々と崩れていった。


勝者、赤組!


赤組の指導者たちは、その場にへたり込みながらも、互いの健闘を称え、抱き合った。アリエル首相は、ロウハニ外相の肩を、乱暴に、しかし力強く叩いた。ロウハニも、憎まれ口を叩きながら、その手を振り払いはしなかった。


一方、白組の指導者たちは、泥だらけで、互いを罵り合っていた。

「お前のせいだ!」「いや、お前こそ!」


俺は、その光景を見下ろしながら、深く頷いた。

そうだ。これなんだ。

同じ釜の飯を食い、同じ目標に向かって力を合わせ、共に勝利の喜びを分かち合う。あるいは、共に敗北の悔しさを味わう。

それこそが、部署間の壁を取り払う、最高のチームビルディングなのだ。


俺は、満足感に浸りながら、メガホンを再び握りしめた。

「……素晴らしい戦いだった! 両チームに、拍手! では、これより、最終競技……個人戦、『パン食い競争』に移る!」


その言葉に、それまで健闘を称え合っていたアリエル首相とロウハニ外相が、同時に、ハッとした顔で、互いを見つめ合った。

彼らの目から、チームとしての連帯感は消え、再び、個人としての闘争心が、炎のように燃え上がっていた。


どうやら、平和なチームビルディングは、ここまでだったらしい。

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

次回は本日の21時に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ