表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/74

第十七話:連帯責任(Joint Responsibility)

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


----------


俺の「グラウンド10周!」という叫びは、日本語だった。

隣にいた通訳が、一瞬、人類の終わりでも見るかのような顔で固まった後、震える声でそれを各国首脳のイヤホンに同時通訳した。


“This is a joint responsibility! All of you, ten laps around the field! Now!”


静寂。

嘉手納基地のグラウンドを支配していたのは、沖縄の抜けるような青空と、海風の音、そして、世界で最も権力を持つ男たちの、純度100%の困惑だった。


最初に動いたのは、意外にも、日本の首相だった。

PTA会長席から、お茶を飲むのも忘れて成り行きを見守っていた彼は、俺の「連帯責任」という言葉に、日本人として刻み込まれたDNAが反応したらしい。彼は、すっくと立ち上がると、お付きの者を制止して、一人でグラウンドに降りてきた。そして、おもむろに、走り始めたのだ。


日本の首相が走るなら、走らざるを得ない。

フランスのマクロン大統領が、やれやれといった表情で溜息をつきながら、それに続いた。ドイツのショルツ首相も、カナダのトルドー首相も、まるで悪夢でも見ているかのような顔で、のろのろと走り出す。


そして、当事者であるイスラエルのアリエル首相と、イランのロウハニ外相は、互いを睨みつけながら、まるで決闘でもするように、同時に走り始めた。


こうして、歴史上、最も権威があり、最もシュールで、そして最も平均年齢の高いマラソン大会が、幕を開けた。


各国の首脳たちが、真新しいジャージの裾を揺らしながら、嘉手納基地のトラックを走っている。その周りを、各国のSPやシークレットサービスが、同じペースで並走している。彼らの手は、いつでもジャケットの下の銃を抜けるように、警戒を解いていない。さながら、動く要塞だ。


「……見事だ」

ミリー議長が、俺の隣で、感嘆の声を漏らした。

「何がです?」俺は、もうツッコむ気力もなかった。

「『連帯責任』……なんと恐ろしい言葉だ。これは、個人ではなく、グループ全体に罰を与えることで、内部からの相互監視と、規律の遵守を強制する、高度な統治術だ。旧日本軍が用いたという、あの悪名高い…」


違う。これは、日本の学校の先生が、言うことを聞かない生徒を黙らせるための、ただの脅し文句だ。


俺は、地獄のような光景から目をそらした。

アリエル首相とロウハニ外相は、もはや競争になっていた。二人三脚での失態を取り戻そうと、互いに抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げている。5周目を過ぎたあたりから、二人とも明らかに息が上がっていた。


7周目。ついに、ロウハニ外相の足がもつれた。彼は、トラックに倒れ込み、動けなくなった。

それを見たアリエル首相は、一瞬、勝利を確信したかのようにスピードを緩めた。だが、彼はなぜか、倒れたロウハニの元へ引き返すと、乱暴にその腕を掴んで、引き起こした。


「立て、イスラム主義者め」アリエルは、息も絶え絶えに言った。「貴様に負けるのは癪だが、こんな形で勝っても、後世の笑いものだ」

「……シオニストめが」ロウハニも、悪態をつきながら、アリエルの肩を借りて立ち上がった。「借りが、できたな」


二人は、憎まれ口を叩き合いながらも、なぜか互いに肩を貸し、よろよろと、残りの3周を歩き始めた。


その光景を、双眼鏡で見ていたミリー議長が、声を震わせた。

「……見たか、ハリソン君。あれが、大統領閣下の狙いだ。共通の『理不尽な苦しみ』を与えることで、敵対する者同士の間に、奇妙な『共感』を生み出しておられるのだ。これはもはや、外交ではない。神の領域の人間心理学だ……」


10周を終えた指導者たちは、汗だくで、疲労困憊だった。だが、不思議なことに、開会式の時のような、殺伐とした空気は消えていた。全員が、一つの巨大な理不尽を、共に乗り越えた「戦友」のような顔をしていた。


俺は、マイクを握りしめた。

「……よし。よくやった」俺は、体育教師の口調で言った。「では、休憩の後、午後の部を始める! 次の競技は、メインイベント! チーム対抗、綱引きだ!」


その言葉に、アリエル首相とロウハニ外相が、同時にニヤリと笑ったのを、俺は見逃さなかった。

どうやら俺は、彼らから些細な憎しみを消し去る代わりに、「赤組対白組」という、もっと根源的で、純粋な闘争心に、火をつけてしまったらしい。


平和への道は、まだ遠い。

だが、少なくとも、今はただの運動会になっていた。それだけでも、まあ、良しとしなければならないのだろう。俺は、もうどうにでもなれ、と思っていた。

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

次回は明日の11時に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ