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(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


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第十六話:開会式

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


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沖縄、嘉手納空軍基地。

亜熱帯の湿った空気が、世界で最も場違いな祭典の熱気を運んでいた。滑走路の脇に特設されたグラウンドには、万国旗がはためき、ブラスバンドが陽気なマーチを奏でている。だが、その周囲を固めるのは、最新鋭のパトリオットミサイルと、迷彩服に身を包んだ日米の兵士たちだ。


来賓席には、日本の首相が、PTA会長のように居心地悪そうに座っている。その隣で、ミリー議長は双眼鏡を手に、戦況を見守る司令官の顔をしていた。


やがて、主役たちが姿を現した。

専用機からタラップを降りてきたのは、スーツ姿の外交官ではない。アディダスやナイキの、真新しいジャージに身を包んだ、世界各国の指導者たちだった。


ベンジャミン・アリエル首相は、イスラエルの国旗をあしらった青と白のジャージで、その表情は硬い。パレスチナ自治政府のアッバス議長は、緑を基調としたジャージで、不安げに周囲を見回している。サウジアラビアの皇太子、イランの外相、エジプトの大統領……。彼らは皆、生まれて初めて経験する「運動会」という名の外交儀礼に、戸惑いと猜疑心を隠せないでいた。


俺は、朝礼台…いや、特別に設えられた演台の上に立ち、開会を宣言した。マイクを通した俺の声が、不釣り合いなほど陽気に響き渡る。


「選手宣誓! イスラエルチーム代表、ベンジャミン・アリエル首相! パレスチナ・アラブ連合チーム代表、マフムード・アッバス議長! 前へ!」


二人は、困惑した顔で、のろのろと前に進み出た。俺は、アシュリーが用意した宣誓文を、彼らに手渡した。


「……我々選手一同は、スポーツマンシップにのっとり、正々堂々、最後まで戦い抜くことを誓います!」


二人の老獪な政治家が、子供のような宣誓文を、棒読みで読み上げる。その光景は、あまりにシュールで、歴史的な茶番劇だった。


そして、運命のチーム分けが始まった。

「これより、赤組・白組のチーム分けを行う!」

俺が高らかに宣言すると、シークレットサービスが、二つの箱を持ってきた。一つは赤組の箱、もう一つは白組の箱だ。

「自分の国が、どちらのチームに属するか。それは、この『運命のくじ引き』が決める!」


各国首脳は、神妙な面持ちで、箱の中に手を入れる。

「イスラエル……赤組!」

「サウジアラビア……白組!」

「イラン……赤組!」


会場が、どよめいた。イスラエルとイランが、同じチームだと?

ミリー議長が、隣に立つハリソン首席補佐官に、興奮気味に囁いた。

「見たか、ハリソン君。これが大統領の狙いだ。敵対する国家を、あえて同じチームに入れることで、強制的に協調性チームワークを試しておられるのだ…!」


そして、最初の競技が始まった。

第一種目:二人三脚。


くじ引きの結果、最悪の組み合わせが誕生した。

イスラエルのアリエル首相と、イランのロウハニ外相だ。

二人は、互いに殺意のこもった視線を交わしながら、特殊な磁気式結束バンドで足首を繋がれた。その周りを、イスラエルのモサドと、イランの革命防衛隊の護衛が、銃に手をかけながら並走している。


「On your marks! Set!」


号砲が鳴り響く。

他のペアが、ぎこちなく走り出す中、アリエルとロウハニは、一歩も動かない。いや、動けない。互いに、相手の逆方向へ進もうとしているからだ。

「右だ!」「いや、左だ!」

二人の怒号が、グラウンドに響き渡る。


俺は、その光景を見ながら、懐かしい気分に浸っていた。

ああ、うちの会社の運動会と一緒だ。営業一課と営業二課が、いつもこうやっていがみ合ってたっけな。


だが、その時だった。

業を煮やしたアリエルが、ロウハニの肩を突き飛ばした。ロウハニも、負けじと突き返す。ついに、中東の二大国家の代表が、嘉手納基地のグラウンドの真ん中で、ジャージ姿のまま、取っ組み合いの喧嘩を始めてしまったのだ。


世界中のメディアのカメラが、その歴史的な瞬間を捉える。シークレットサービスが、慌てて二人を引き離そうとする。ミリー議長が「始まったか…!これが、閣下の狙っていたカオスだ!」と叫んでいる。


俺は、頭を抱えた。

まずい。まずいぞ、佐藤拓也。これは、新入社員の歓迎会で、酔った部長たちが喧嘩を始めるのとは、訳が違う。


俺は、マイクを掴むと、とっさに叫んだ。それは、日本の学校の体育教師が、言うことを聞かない生徒たちに向かって叫ぶ、あの言葉だった。


「こらー! お前ら、連帯責任だぞ! 全員、グラウンド10周だー!」


静まり返るグラウンド。

アリエル首相も、ロウハニ外相も、そしてサウジアラビアの皇太子も、全員がぽかんとした顔で、俺を見ていた。


俺は、自分が何を言ったのか、よく分かっていなかった。

だが、その一言が、この奇妙な運動会を、さらに混沌の深淵へと突き落とすことになるのを、まだ誰も知らなかった。

ありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマーク・評価などいただけますと幸いです。

次回は本日の21時に更新予定です。

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