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(第一部完結!)転生したら合衆国大統領だった件について 〜平社員の常識で、世界を動かしてみた〜  作者: 御手洗弾正


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第十三話:プロジェクト発足

【免責事項】

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・事件などは、風刺を目的として創作されたものであり、実在のものとは一切関係ありません。


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共和党のタカ派議員たちは、稲妻に打たれたハトのような顔でオーバル・オフィスを退出していった。彼らの脳は「運動会」という単語と「中東和平」という単語の結合を拒否し、完全に処理能力の限界を超えていた。ある者は「大統領は、ついに神の領域に……」と呟き、ある者は「我々には理解の及ばない、深遠なメタファーに違いない」と勝手な解釈を始めていた。


嵐が去った後、執務室には俺、ハリソン首席補佐官、ミリー議長、そしてアシュリー補佐官の4人だけが残された。


部屋を支配していたのは、墓場のような沈黙だった。


最初にそれを破ったのは、ハリソン首席補-官だった。彼は、ゆっくりと、本当にゆっくりとこめかみを押さえながら、絞り出すような声で言った。

「……閣下。どうか、ご説明を。私が、何か聞き間違えたのでしょうか。今、あなたは……運動会、と仰いましたか?」


「ああ、言ったぞ」俺は頷いた。「会社の部署対抗運動会は、いつだって盛り上がるからな。一体感が生まれるんだ」


「会社……?」


「そうだ。いいか、ハリソン。今の我々は、巨大なプロジェクトを率いるプロジェクトチームだ。そして、イスラエルとパレスチナは、成果を出せずにいがみ合っている二つの事業部だと思え。こういう時は、一度仕事から離れて、一緒に汗を流させるのが一番なんだ。無駄な会議を100回やるより、一回の綱引きの方が、よほどチームビルディングに効果がある」


俺の完璧な「会社の論理」は、しかし、ハリソンには悪魔の呪文のように聞こえたらしい。彼は、今にも泣き出しそうな顔で訴えた。

「ですが、閣下!外交とは会社ではありません!アリエル首相に、パレスチナ自治政府のアッバス議長と二人三脚で走れと?サウジアラビアの皇太子に、イランの最高指導者と綱引きをしろと?正気の沙汰ではありません!プロトコルも、前例も、何もあったものではない!」


その時だった。ずっと腕を組んで天井を睨んでいたミリー議長が、再びポンと手を打った。

またか。俺は、嫌な予感がした。


「……いや、ハリソン君。君はまだ、大統領閣下の本当のお考えを理解できていないようだ」ミリーは、興奮に目を輝かせていた。「これは、運動会などではない。これは……『軍事演習』だ」

「はあ?」

「考えてみたまえ。世界の主要な指導者たちを、一箇所に、それも、我が国の巨大な軍事基地の真ん中に集めるのだぞ。彼らの護衛は最小限に制限される。彼らの通信は、全て我々の管理下に置かれる。これほど効率的な、ヒューミント(人間情報収集)の機会が、かつてあっただろうか?」


ミリー議長は、ホワイトボードを引っ張り出すと、再びペンを走らせ始めた。

「例えば、競技の一つ、『玉入れ』。これは、限られた時間内に、限られた資源(玉)を、いかに効率的に目標カゴに投入するかという、資源配分と兵站能力のシミュレーションだ。誰がリーダーシップを取り、誰が自分の手柄に走るか、一目瞭然だろう」


「『綱引き』。これは、言うまでもなく、同盟国間の結束力と、国力の純粋なぶつかり合いを可視化する。誰が最初に音を上げ、誰が最後まで諦めないか。そのデータは、今後の我が国の外交政策にとって、ゴールド以上の価値がある」


「そして、メインイベントの『パン食い競争』……。これは、あまりに深遠すぎる。おそらく、食料安全保障をめぐる各国の潜在的な競争意識を暴き出す、高度な心理テストか何かだろう……」


違う。違うんだ、ミリー。それはただ、俺が子供の頃、運動会で一番好きだった競技なだけなんだ。


だが、ミリーの暴走は止まらない。

「素晴らしい……!なんという計画だ!敵を欺くには、まず味方から。我々ですら、ただの運動会だと思い込まされていたとは!これは、平和の祭典の皮を被った、史上最大の**『公開情報戦』**なのだ!」


ミリー議長の熱弁に、ハリソンは完全に気圧されていた。残るは、常識人のアシュリーだけだ。俺は、助けを求めるように彼女に視線を送った。アシュリー、お前だけが頼りだ。言ってくれ、「ただの運動会ですよね?」と。


アシュリーは、俺の視線を受け止めると、静かに、しかしはっきりとした口調で言った。


「……承知いたしました、大統領閣下」


裏切ったな、アシュリー!


彼女は、自分のノートパソコンを開くと、驚くべき速さでキーボードを打ち始めた。

「プロジェクト・コードネーム『KADENA OLYMPIA』を発足します。開催目標は3ヶ月後。国務省、国防総省、CIA、NSA、そして日本の外務省と防衛省をメンバーとする、合同タスクフォースを直ちに編成します」


彼女は、顔を上げた。その目は、もはや狂気の淵を覗き込み、一周回ってプロフェッショナルのそれに戻っていた。

「つきましては、閣下。最初のタスクとして、各国首脳に送付する、公式な招待状の草案を作成したいのですが……競技種目の『玉入れ』の英語での公式名称は、“Ball Scramble”と“Basket Toss”、どちらがより国際儀礼に則っているか、ご決断いただけますでしょうか?」


俺は、もう、何も答えられなかった。

俺が放った一本の矢は、明後日の方向に飛んでいったまま、どんどん加速して、もう地球を何周もしている。


かくして、一人のサラリーマンの苦し紛れの言い訳は、米国の国家戦略となり、世界を揺るがす巨大プロジェクトとして、正式に発足してしまったのだった。

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