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4.呪いの魔女

 レゼフィーヌはパーティー会場へと向かうシルムに声をかけようか迷った。


「シル――」


 レゼフィーヌは手を上げ、シルムを呼ぼうとした。

 だけどその時、彼女はシルムの手に小さなプレゼントの箱があることに気付いた


 どうしよう。


 レゼフィーヌの胸に不安がよぎる。


 誕生パーティーに行くのだから、自分もプレゼントを持っていないと駄目かもしれない。

 レゼフィーヌも一応、ポーラへのプレゼントとして小さなクマのぬいぐるみを用意していたけれど、それは部屋に置いてきてしまった。

 今から部屋に取りに戻るとメイドのハンナに見つかってしまうかもしれない。


「あ、そうだ!」


 レゼフィーヌはくるりと振り返ると、窓辺に咲いているピンク色の薔薇に駆け寄った。

 今朝咲いたばかりの薔薇はみずみずしく、太陽の光を反射してピンク色に輝いている。


 (よし、この薔薇にしよう)


 レゼフィーヌは咲いている薔薇の中でも特に色つやのいい花にそっと手をかざすと、小さく呪文(スペル)を唱えた。


「精霊召喚!」


 眉間に力をこめ、手を前に出すと、まるで蛍のような小さなピンク色の光が現れた。

 これは薔薇の花の精霊。小さな精霊だけど、赤ん坊にを守るにはちょうどいいサイズだ。

 レゼフィーヌは、魔女についての書物や魔法書を読み漁って真似をしているうちに、いつの間にか自分でも少し魔法が使えるようになっていた。


「よしっと」


 レゼフィーヌは小さな精霊をてのひらで大事に包みこんだ。

 この国では魔法を使えるものはごく少数だし、赤ちゃんもこの珍しい精霊のプレゼントを絶対に喜んでくれるに違いない。

 レゼフィーヌは小さな精霊を連れてパーティー会場へと向かった。


(お継母様はどこかしら)


 レゼフィーヌが入り口の前でうろうろとしていると、門番の一人がレゼフィーヌを止めた


「待て、貴様。どこの魔女だ?」


 (へっ、魔女?)


 レゼフィーヌは自分の格好を見た。黒い帽子に黒いワンピース。

 部屋の中で魔女ごっこをしていたせいで、レゼフィーヌは魔女の格好のまま部屋を出できてしまっていたのだ。

 レゼフィーヌが何と言おうか戸惑っていると、奥から慌てた様子で年老いた兵士が駆けてきた。


「これはこれはレゼフィーヌお嬢様! この格好はどうなさいました? 早く着替えないとパーティーはもう始まっておりますよ」


「え、ええと」


 まずい。このままだと部屋に返されてしまう。


 (何かうまい言い訳をしないと)


 考えこむレゼフィーヌの前に、ドヤドヤと黒いローブの女性たちが入ってきた。

 産まれたばかりの赤ちゃんに祝福を授けるためにと集められた十二人の魔女たちだ。


 それを見てレゼフィーヌは咄嗟に思いついた。


「え、ええと、実は私、魔女たちのふりをして祝福を授けるっていうお役目を言いつかってるの」


 口から出まかせを言うと、門番二人は顔を見合わせてうなずいた。


「なるほど、そうだったのか。侯爵様も粋な演出をなさる」

「それならどうぞ、こちらが魔女たちの入り口ですのでお入りください」


 レゼフィーヌは侯爵令嬢にふさわしい優雅な笑みを浮かべ頭を下げた。


「ありがとう」


 大広間に着くと、パーティーはすでに始まっており、魔女たちが産まれたばかりの赤ちゃんに祝福を授けているところだった。


 (うわあ、本物の魔女だわ)


 魔女の祝福が目の前で見れるなんて、なんて素晴らしいのかしら。

 レゼフィーヌは胸をときめかせながら魔女たちの末席についた。招かれざる十三人目の魔女として……。


「ポーラ様、ご誕生おめでとうございます。領民に愛される徳の高い姫になられますように」


「ご誕生本当におめでとうございます。姫様も侯爵夫人のように美しく華麗に育たれますように」


 だけどレゼフィーヌは自分の番が近づいてくるにつれて、背中がゾクリと寒くなっていくのを感じた。


 (なんだか嫌な感じがする。この気配は一体何?)


 顔を上げると、侯爵夫人が抱いている赤ちゃんの上に、黒っぽい瘴気がかかっているのが見えた。


『ヒメはもうすぐシヌ……』


 黒い瘴気からそんな声が聞こえてくる。


 (えっ!?)


「赤ちゃんは死ぬ?」


 レゼフィーヌが思わず口に出すと、その場にいた全員がこちらへ振り返った。


「レゼフィーヌ! あんたどうして」


 侯爵夫人が真っ青な顔で叫ぶ。


 レゼフィーヌはキョトンとした顔で侯爵夫人に尋ねた。


「ねえ、お継母様、どうして赤ちゃんは死んじゃうの?」


「あなた、何言ってるの。自分が何を言っているのか分かっているの!?」


 強い口調でたしなめる侯爵夫人。


「だってあの黒いものが言っているもの」


 レゼフィーヌは赤ちゃんにかかっている黒い瘴気を指さした。


 (どうして? お継母様は――他のみんなはあの黒いものが見えないの!?)


 「ぶ、無礼な。お前、産まれたばかりの妹に何を言うのだ!」


 アリシア侯爵が青筋を立ててレゼフィーヌを怒鳴る。


「だって」


 レゼフィーヌが戸惑っていると、どこからか声がした。


『大丈夫よ。私が十六歳まであの赤ん坊を守ってあげるわ』


 先ほどレゼフィーヌが召喚した薔薇の精霊の声だ。

 レゼフィーヌはその声を聴いてひらめいた。

 

 (そうだ。精霊の力で守ってもらえばいいんだ)


「受け取って。これで赤ちゃんは十六歳までの命になるわ」


 レゼフィーヌは精霊を赤ん坊に投げつけた。


「眩しい!」

「何だこの光は!」


 周りの人々が口々に言い、目を抑える。


 (良かった。これで赤ちゃんの命は助かったはず)


 レゼフィーヌはほっと胸をなでおろした。

 だけど周りの人々は勘違いしたままだ。


「何かを投げつけたぞ」

「呪いの魔法か!?」

「あの魔女をひっ捕らえよ!」


 レゼフィーヌは首を傾げる。

 どうして精霊魔法が呪いになるのだろう。

 もしかしてこの人たちは光魔法と闇魔法の違いも分からないのだろうか。


「誰か、この者をひっ捕らえよ」


 アリシア侯爵の声に、護衛の兵士がレゼフィーヌの腕をつかむ。


「この呪いの魔女を外につまみ出せ!」


 どうしてだろう。

 自分は赤ちゃんを――妹を助けようとしただけなのに。


 だけれどもレゼフィーヌは弁解をする暇もなく護衛の兵士に体を引きずられ、大広間から退場した。



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