若き男爵、追放された悪役令嬢を助けたら知らない内に王配になっていた件
「「「プゥ~クスクスクス」」」
「おや、エディ君、どうしたのかね?どこかに賊でもいるのかね?」
「伯爵殿・・・これは誤報ですか?」
俺はブッカー男爵家のエディ、寄親の伯爵邸から緊急の狼煙が上がったから兵を整え参上したのに、このざまだ。
「しかし、汚い鎧だな。王都で見た騎士とは大違いだよ。それじゃ、娘と婚約できないな」
「お父様、冗談でもやめて下さい!」
「そうですわ。旦那様、あんな傭兵あがり」
「こりゃ、失敬。プ~クスクスクス」
「はあ・・・」
思わずため息が出る。
今日で3回目の空招集だ。
奴ら、パーティーの余興で呼びやがる。
「「「「プゥ~クスクスクスクス」」」
やめたいな。そりゃ、俺は都の貴族学園に行っていないが。
親父と兄上が領地見回り中に崖崩れで急逝し、俺が跡目を継いだ。
まさか、跡目を継ぐ事なんてないと思ったから傭兵、冒険者といろいろやっていた。
この国は陛下の強権で成り立っている。しかし、今は病で伏せている。
その後を継ぐ王太子殿下と貴族派の筆頭、公爵令嬢が結ばれてガッチリ体制を固めれば平和の世は続くだろう。
トボトボと兵を従え館に帰る。
「男爵殿、もう、行くのやめませんか?」
「いんや、次、招集がかかったら俺一人で行くわ。俺だけ笑われるよ」
「男爵殿・・」
しばらく進むと、峠道で、騒ぎが聞こえて来た。馬のいななきと男達の怒号だ。
「若、失礼、お館様!馬車が何者かに襲われています!」
「どうしますか?まだ、伯爵殿の領地ですが」
「って、関係ないだろ?捨て置けないぜ」
襲われているのは商隊か?盗賊がいるのか?それとも時代遅れの盗賊騎士か?
地方領主は自力の武力で問題を解決する特権を認められている。
それを悪用して、商隊を襲い独自の通行料を取る輩が横行していた。
それを今上の陛下が鎮圧したのだ。俺が生まれる前の話だ。
馬車は十名の騎士?に襲われている。
こちらは総勢数十名、倍の人数で斬りかかる。
馬車にはメイドと高貴っぽい女が乗っているのが確認できた。
「おおーーい、馬車の方に加勢するぜ!」
「あ、有難い」
「オラ、ハンナちゃん。頼むぜ」
「ヒヒーーーン!」
ハンナとは俺の愛馬の名だ。
「な、こちらは王太子殿下の命を受けた者だ!」
「あ、そう、皆、そう言うのよね」
シュン!ゴン!ゴン!
しかし、奴ら戦い方に慣れていない。こちらは多勢で一人に斬りかかる。
「卑怯者、一人に対して三人でかかるのか?」
「そーだよ。卑怯だよ。卑怯村の村長だよ~ん」
やけに綺麗な鎧だな。剣も立派だ。
これは厄介ごとか?
こう言った時は勢いに任せた方が良いと俺の爺さんも言っていた。
あっという間に奴らを殺した。
これ、鎧とか剣ももらえないかなと思っていたら、老侍従からお礼を言われた。
御者を兼ねていたようだ。
「ご加勢有難うございます。ちょうど、追いつかれたところで危なかったです。
馬車に乗られている方は、ヴァイセンベルク公爵家のクリスチナ様でございます」
馬車の中から鈴のような音色で流れるような綺麗な発音の声が聞こえた。
「爺、私からもお礼を言います。馬車を下ろして下さい」
「は、はい」
何だ。扇で顔を隠しながら、爺に手を取られて貴婦人、いや、令嬢か?
降りてきた。
蜂蜜色の金髪が風にたなびく。
扇の上からのぞかせるグリーンの目は垂れ目で優しそうに見える。
「危なきところ、ご加勢、有難うございます。私はヴァイセンベルク公爵家の長女クリスチナでございます」
「私は、ブッカー家エディと申します。男爵を拝命しております」
何だか。偉い者を助けたな。
「お強いのですね・・」
「いえ、盗賊との小競り合いを経験しております」
面倒だ。ここは伯爵の領地だ。
伯爵の屋敷にご案内しようと申し出た。
「いえ・・・実は保護を申し出ましたが断られましたわ」
「えっ、それは無いでしょう」
「はい、それに伯爵殿は私兵をお持ちではありませんわ。不安でございますわ」
そう言えば、伯爵家は平和になってから騎士を解雇したな。
「どうか、私とメイドと、爺をかくまって下さいませ。王宮と公爵家を追放されたのについて来てくれましたわ」
「護衛騎士たちは?」
「実はグルでしたわ。王太子殿下の手の者が来たら、逃げ出しましたわ」
何か、王太子の名がバンバン出てくるが・・・
まあ、良い。
流されるか。
屋敷についた。俺のお袋と弟妹たちに丁寧に礼をする。
「よろしくお願いいたします」
「ヒィ、王都の御姫様だわ!」
「ワーイ、御姫様だ」
「綺麗、まるで絵本の王女様みたいだ」
「これ、失礼だ」
「宜しいのですよ」
それから、クリスチネ様は我屋敷に滞在された。
妹に刺繍を教えたり。
「御姫様、上手だわ」
「フフフフ、タニャーちゃんも初めてにしては上手いわ」
弟に憧られたり。
「うわー、綺麗・・・」
「フフフ、ハインツ君、こっちに来て下さいませ。王都のお話をしてあげるわ」
「はい!」
お袋の手伝いをしたり。
「ご夫人、帳簿の手伝いをさせて下さいませ」
「まあ、クリスチネ様、有難うございます」
俺は、また、伯爵から訳の分からない招集を受けた。
さすがに、少人数で行く。
これで、空招集が7回目の時に、クリスチネ様が俺の腕を取る。
こんなに近づいたのは初めてだ。
思わず心臓の鼓動が高まる。
「さすがにもう宜しいのではないですか?パーティーの余興ですわ」
「でもな。これで領地を取られたら家来が路頭に迷う」
「ウ・・ウグググ、ウグ、お腹が痛いですわ。どうか、薬草を探して下さいませ。私、高山に生えているという月見草でないと効かないのですわ」
「分かった!」
・・・・・・・
帰って来たら、館が警戒態勢になっていた。
「おう、どうした皆!」
「お館様、それが数週間前から王都で戦乱が起きております!」
「何だって!」
「その余波がここまで来ました。伯爵様の館が襲われました!」
しまった。と思っていると、クリスチネ様がささやく。
「大丈夫ですわ。ご家来衆は貴方がいなくても最善の策をとりますわ」
話を聞くと、王都で陛下が崩御され。王太子と公爵家の庶子がそれぞれ王と王妃に即位したが、王党派と貴族派で別れて戦乱が起きたそうだ。
「まさか・・・・そう言えば、クリスチネ様、腹痛は?」
「あれ、いたたたたた」
どうも怪しいが、薬を飲ませた。
「ウフ、有難うございます」
何か色気があるな。嫌、ダメだ。そんな目で見てはいけない方なのだ。
しばらく領地は厳戒態勢だ。
また、盗賊騎士が復活しているようだ。
元々、この国の貴族はお互いに紛争ばかりしてきた。
領主なのに盗賊行為をする。
ヒドい所では、屋敷の前を通る女神教の神職を殺して訓練する家門もあったそうだ。
領地を通る商人は襲え。いやなら護衛を雇えやが常識だったそうだ。
という事はブッカー家も商隊を襲っても良い事になるか?
「エディ様は如何されますか?」
「いんや、同じ事をしたら悪手だ。なんとなくそう思う。ここは貴族道精神に基づいて行動する」
「ウフ、それが良いですわ」
貴族道精神、あまりにゴロツキな貴族、騎士が多いので、作られた法令だ。
その法令に基づくことを貴族道精神、騎士道精神とか言う。
古い法令を書庫から出す。
「第一条、貴族、騎士は平民だからといってその妻、娘を犯してはならない・・・何だこりゃ、爺さんの代はどんだけ国荒れていたのだよ!」
ポイと投げ捨てた。
もう、いや。
しばらくしたら、伯爵一家が落ち延びて来た。
伯爵夫人は言う。
「ちょっと、エディ、娘と婚約させてあげるから領地奪還しなさい!」
伯爵父娘もいい加減な事を言う。
「君が来なかったから、我家は陥落したのだ。賠償と謝罪をしなさい」
「え、まあ、仕方ないわ。私、貴族学園に行ったけども、婚約してあげるわ」
すると、カゲで、クリスチネ様が優しそうなお顔でとんでもない事を言う。
「エディ様、ここは謀殺がよろしいかと」
「よろしくない!」
「では、あばた顔の娘と婚約なさるのですか?」
「いや、ヒドい事言うな。文字を読み書き出来るのは貴重だから役人仕事をさせるよ」
「それがようございます。私が面倒を見ますわ」
それからしばらくして、伯爵一家はヒドい事を言って我家を出た。
「フン、寄親に対する義務を果たしていない!食事も最低だ。せっかく娘を婚姻させてあげようとしたが、君は逃がした魚は大きかったと思い知る事になる」
いや、待て、それは、実際は、小物だったという諺ではないか?
「クリスチネ様、一体、どうしたのですか?」
「はい、王太子派に呼ばれて王宮の下級役人になったみたいですわ。私がお義母様から許可を受けてブッカー家の名前で仕官が出来るように手配しましたわ」
「そうか、あっ」
気がついたら、お袋は引退していた。猫とのんびりひなたぼっこをしている。
「お袋!いいのかよ?」
「はあ、楽だわ。後は孫が出来たら言う事を無しよね。ねえ、ミイちゃん」
「ニャン!」
まあ、お袋が良いのならそれで良いが、クリスチネ様は神妙な顔で俺に尋ねる。
「ところでエディ様、今は戦国の世です。これを沈めるには如何したら良いでしょうか?」
「そうだね。まず。王都からだね。商人を襲う貴族を王都の騎士団で各個撃破をして一族処刑だ。そして、その恐怖を地方に知らしめて、従わない諸候を討伐する。
数十年かかるかな。大貴族を討伐して王権を強化する。ハッ、申し訳ございません」
「フフフ、よろしくてよ」
クリスチネ様の実家は公爵家で貴族派筆頭だ。
「お父様は、義妹ばかり可愛がりましたわ・・・・もう、公爵家は私の家ではございません」
「そうですか・・・」
それから領地の治安を守っていたら 我が領地に商人が多く来るようになった。
「ここは無駄な税を取られないし」
「難癖をつけて略奪もされない」
「ここを中継地点にしようか?」
「「「「賛成!」」」
良かった。略奪しないことで栄えるようになった。
俺は軍務に勤しみ。
クリスチネ様は内政に勤めるようになった。
弟妹にも仕事を教えてくれるから助かるわ。
と思っていたら3年経過して、そろそろ4年目という時期に
王都から迎えが来た。
騎士団長がクーデターを起して、王と王妃は国外退去、公爵家も寄家を統制できずに、勝手に戦争を起しているから、王として不向きだ。
と良識派貴族から総スカンを食らっているらしい。
王族の血を引くクリスチネ様を女王としてお迎えしたいとの事だ。
「クリスチネ様、おめでとうございます」
「では、エディ様、王都まで護衛をして下さいませ」
「はい、もちろんです」
俺は馬車に乗り。愛馬のハンナも馬車の横に並んで一緒に行く。
何だか。3年間の付き合いだったが、いなくなると寂しいものだ。
「ブッカー家には忠誠の証として、伯爵の領地を差し上げるように命じますわ」
「有難い。いや、陛下、有難うございます」
「まだ、早いわ」
それから、王宮に着き。
クリスチネ様は即位をされた。
声明を出す。
「これより、王国が定めた税金以外を取ることを禁止します。破った貴族は領地と爵位を没収ですわ。
その執行人にブッカー男爵家のエディ様に命じます」
はあ?俺、王都に住むの?
「ほお、この戦乱で略奪行為をしていないブッカー殿なら安心だ」
「適任だな」
「まさに騎士道の鏡」
褒められた。何故?
司会をしている侍従が大声で言う。
「では、戦乱中につき。簡易ではありますが、女王陛下の結婚式を挙げさせてもらいます」
え、いつのまに、そう言われたら寂しいな。
「エディ・ブッカー殿前へ」
「はあ?」
「陛下の隣に」
「騎士道の鏡のブッカー殿が王配なら王国は安泰だ」
パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!
俺、もしかして、クリスチネ様にはめられたのか?何故、俺?
「お嫌ですか?」
「嫌じゃないですが・・」
それから俺は、王都近辺で略奪行為をした大小の貴族を討伐した。
王都から地方へ、悪い事をしたら討伐されると伝わる。
王権が積極的に司法に介入したことで強化され。
とりあえず。道を歩いていたら盗賊に会う確率は格段に減り。
人の物を盗むことは悪い事だと一般常識になったのさ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
☆20年後
「これが、クリスチネとの出会いだ」
「ええ、そうよ。馬車で助けられたときに、この殿方なら守ってくれると思ったのよ。
それがいつしか恋に、そして愛になったのよ」
子供達に、母とのなれそめを話した。
長男、長女には話した。「ウへー」と顔に出されたな。
今話しているのは末っ子の第二王女様だ。
しかし、話を聞いたら泣き出した。
「グスン、グスン、もっと、熱烈な愛だと思いましてよ。
お父様、お母様、お願いですわ。嘘であると仰って下さい。
お父様がお母様を助けたときに、元伯爵殿、今は王宮の便所番の夫婦の領地に預けようとしただなんて、お父様の初めの婚約者候補が、その娘の有名な行遅れ令嬢だなんて、夢がありませんわ」
「いや~、何かごめん」
娘は更に続ける。
「助けだされた時に、お互い相思相愛になり。
父上は秘めた恋心を封印して、お母様と釣り合いが取れるように騎士道精神に邁進して、お母様は、そんなお父様を更に好きになって・・・そんな、なんとなくという軽い気持で騎士道精神を守ろうとしたのですか?
国中が応援して結婚したとなっていますわ。戯曲もそうなっていますわ」
「フフフフ、母の思い出だけは譲れませんわ。ねえ。貴方」
「ああ、結果として愛しているから問題ない」
「グスン、グスン」
「マリーよ。今は泣くんだ。泣いて良いんだよ。こればかりは譲れないな・・・忙しくても穏やかな日々だった」
「グスン、そうなのですか?」
娘よ。今は泣くが良い。ジワジワとじっくり来る愛もあるのだよ。
と伝わったかな。
最後までお読み頂き有難うございました。




