半年の経過忙しい日々と休息と古本屋
そして半年が経過した。
今の私は闇魔法Sクラス治癒術Sクラスの試験をパスしていた。
この上は特級魔法術師として扱われる。
上限はない故に上と下の実力の差も大きいのが特級魔法術師なのだ。
ここのギルドが把握している限りでは私のSクラス到達は最年少記録らしい。
協会の分析によると私の潜在魔力は想像以上に高いと分析され。
2年半前ここに来た時より100倍以上の魔力キャパシティーがあるとのこと。
前例がないそうで、時々呼び出されて調べられている。
そしてもう一つの特徴として、闇と光の属性を内包した冒険者は理論上いないそうだ。
四魔法と違って別の系統なので組み合わさる事はないそうだ。
まぁ実際ここにいるんだけれど。
そのことについてもあれこれ調べられている。
モルモットにされている気分であまり気持ちいいものではないけれど
恩もあるし、報酬もある、そして何より研究機関でない限り
知りえない情報もリークできてしまうのだ。
その中でもトップシークレットの情報に興味があった。
それは『禁呪指定魔法術』これは現在封印されていて
誰も知らないし、そんな禁呪の本があるのかどうかも怪しいらしい。
幻の魔法と言ったところかもしれない。だからこそ私の知的欲求は疼く。
手掛かりは未知の魔法陣、つまり現存しない魔法陣がカギとなるとか言っていた。
全ての魔法陣を網羅していなければ、探しようがない。そう言ったものらしい。
というわけで日々忙しくなっていたので、『銀翼の羽』の活動は控えめとなっていた。
私ではない治癒術師と組んでもいいのでは?と提案したが却下されてしまった。
しかも、やや怒り気味に。何故なのだろうか。
その代わり、Fレベルの頃に魔力を込めていた、あの皮袋に魔力を詰め
回復術5レベルの液体を他の布袋に移し替える。
これを何度も繰り返し量産した。
2人が気軽にじゃんじゃん使えるように常に用意していた。
魔力タンクの私には造作もない事だった。
ポーションとして売れば相当な金額になるけれども、仲間だから無料で行っている。
元々エルドさんの形見がなければできない事だし。
協会の検査の事も話していたので、その点は了承済みで
活動に参加できるときはいつも二人とも心配してくれる。
変なことされてない?とかだいじょうぶなの?とか。
『モルモットです。』とは言えないので。
簡単な検査とかなので大丈夫と伝えている。
と、こんな感じで割と忙しい日々が続いていた。
久々の何もない日。今日、私は古本屋に来ていた。
おじいさんは相変わらず居眠りをしているように見える。
わたしは、起こさないように、こっそりと店に入り本を探し散策していた。
「何か探し物かい…?」おじいさんが声をかけてきた
起こしてしまったかな…そう思いつつ。
「何か面白い本がないかと思ってきました。」
それぞれのSランクの知識もここで購入した魔法術書のお陰で試験にパスしていた。
「そうかい…ちょっと待っててね…」そういうと
おじいさんは、よぼよぼした足取りで奥へ行ってしまった。
私は何となく気になった魔法術書を手に取ってみた。
特に新しい発見はなさそうなので棚に戻した。
何回か繰り返していると
「待たせてしまったねぇ…」おじいさんは奥から本を手に戻ってきた。
その本は埃まみれになっていて
おじいさんはそれを手で払いながら
無造作にカウンターに置いた。
表紙と背表紙が帯でつながれていた。
こんなに古いのに新冊なのかな?と思った。
「どうかな…?興味はないかな…?」
そう言って本を差し出し、いつもの場所に腰掛けた。
手に取ると帯は勝手にほどけた。おじいさんの指先がピクリと動く。
表紙を見ると…見たことのない魔法陣が描かれていた。
「タイトルは…闇と光の…融合…」と書いてある
パラパラと本をめくってみる。えっ…これは…!
どれもこれも見たことのない魔法陣!闇か光の特徴を備えていれば見たらわかる。
見た限りどれも闇と光の陣の特徴があるものの、見たことが…無い…。
「とても興味があります。買います。おいくらでしょうか?」
私は冷静を装っていたが、その本を解読したい衝動に負けそうになりながら聞いた。
「ただでいいよ…いつも贔屓にしてくれてるからねぇ…」おじいさんは笑顔で言った。
「いえ購入します金額を言ってください。」私は納得がいかなかったので、そう言った。
「困ったねぇ…うーん…じゃあ銅貨一枚でいいよ…」おじいさんは言った。
私はバックパックから手づかみで金貨をつかみ取った、恐らく30枚ほどはあったと思う。
「では、銅貨一枚ですね。これで。」カウンターの上で手を開き金貨を優しく置いた。
「えぇぇ…いやダメだよぉ…こんなに貰っても…こまっちゃうよぉ…。」
私はそそくさとその本をバックパックにしまう。
「いい本をありがとうございました!また来ますね!」私は興奮していた、そのまま店を飛び出した。
「やれやれ…困った子だねぇ…。」そう言いながら、おじいさんは眼鏡のブリッジをクイと上げた。
「君は資格がある…その本を読む資格がね…」と囁き口角を上げニヤリと笑った。
私は急いで宿についた。バックパックを開くと本を取り出し。
むさぼるように読み始めた。
何かとの運命的な出会いは突然起こる
それは特別な瞬間ではなく
極普通の日常の中に埋もれていたりする