とある聖騎士の独白
世の中には死ぬことよりもつらいことが沢山存在する。
託された命は無駄にできない。
今回は、そんな聖騎士の独白のお話。
砂漠では昼夜の気温差が激しい。
日が沈んでからは、すぐ野営の準備をした。
アレイさんは火を起こし、砂地なので長いペグを打ち込みテントを張った。
初めの見張りはアレイさんが買って出たのでミレさんと私はテントへ
私は寒さで目が覚めてしまい寝られなくなってしまった。
外へ出るとアレイさんが火を絶やさないよう薪をくべていた。
とにかく凍えていたので私は火のそばへ歩いて行った。
アレイさんが気づく。「どうしたんだい?ねむれないのかな?」
パキッと火の中の薪が音を出した。
「さ…寒くて…」私にも自分の体がガタガタ震えているのがわかる。
「火にあたるといい。」「はい。」触れ合わない程度に距離を開けアレイさんの横に座った。
「…」「…」無言が続く。聞こえるのはパキッパキッと薪がはぜる音だけ。
私の体は少しずつ温まってきた。
「思い出すんだよ。」アレイさんが口を開いた。
「…何をですか?」
「少し私の昔話をしてもいいかな?」ゆらゆらとした炎のあかりが
アレイさんの寂しそうな顔を照らしていた。
「はい。私でよければ。」聞かないといけない。そんな気がした。
「護衛の件断った時は助け船ありがとうね。」少しアレイさんの表情が柔らかくなった
「君が加入した時少しだけエルドの事を話したと思うけど、覚えているかな?」
「はい。前のリーダーさんですよね?」
「うん。僕と彼は王国宮廷部隊の仲間でね、とても仲が良かった。
エルドは、いつも孤児を気にかけていた。今の僕がそうだったように。」再び表情は暗く沈んでいく
私はじっと話に耳を傾ける。
「王は質素倹約がモットーでね。孤児院への補助金を減らしていったんだ。
エルドは司祭の仕事の合間に孤児院を見て回っていたからね
子供たちが、やつれていくのを見ていた。
ある日エルドは近衛兵の制止を振り切り謁見の許可を取らず。
臣下の礼、つまり跪きもせず。王に直談判をしたんだ。大罪だよ」
私はごくりと息をのんだ。
「エルド司祭の処刑。それが王の下した決断だった。
僕はね王に忠誠を誓ってはいたんだけれど
エルドを見捨てる事は出来なかった。王への忠誠より友の方が大事だったからね。」
私はアレイさんから静かだけど、抑えきれないような憎しみを感じ取っていた。
「僕は牢獄に捕らわれていたエルドを救出した。
その時牢を守る兵を何人も手にかけた。
戦いは数だからね、囲まれたらゲームオーバー。
返り血で血まみれになった僕は助けたエルドに詰められた。
お前は衛兵を殺す人殺しなのか!と。
僕は頷いたよ。
お前を見捨てたら、どの道俺は友を見殺しにした人殺しだからな。
剣についていた返り血を振り払い飛び散った。
そう答えたらエルドは泣き崩れていたよ。
追手は、来なかった指名手配もされなかった。
王はメンツが大事だったんだろうね。
僕たちの存在は王国宮廷部隊から抹消された。
2人して辿り着いたのが今の町なんだ。」
私は何か触れてはいけないものに触れている気がした。
「冒険者ギルドに登録したんだ2人して。
僕はパラディンでエルドは治癒術師だったから
後衛を募集したらミレが来たんだ。
それからは、毎日がとても楽しかった。堅苦しい事もないし
職務に縛られることもない、いつでもエルドと、つるむことができたし。
よく一緒に教会へ行ったりもした。
僕はやんちゃ坊主たち、エルドは君みたいな子の相手をしていた。
あいつは依頼で稼いだ財の殆どを、あの町の孤児院に寄付していた。
あの町の人たちは皆優しいと思わないかい?」
「はい。そう思います。」私は答えた本当にそう思っていた。
「僕はエルドのお陰だと思っている。」アレイさんは優しい目で遠くを見つめていた。
「けれど、僕はあいつを見捨てたんだ依頼の途中でね。」
アレイさんは俯くとまた瞳は闇の中へ落ちていった。
「ある古代遺跡の最深部の調査だったんだ、道中は何という事はなかった。
拍子抜けしたくらいだったよ。
最深部へ辿り着くと、そこには召喚陣が描かれていた。
エルドは、それを一目見ると、みるみる顔が青ざめていった。
彼は、その召喚陣の紋様を見て瞬時に全てを理解したんだろうね。
僕はね召喚陣の事を何も知らないバカだった。
魔法陣は一部でも消すと機能を停止する。
だから僕は剣で陣を切り裂いた。
おい!!!エルドは突然大声を出した。
少し離れたところにいたミレは驚いてこちらを見た。
ヒュッと音がした瞬間僕の首と胴体と足は鋭い鎌に切断されていたと聞いている。
召喚陣は陣を傷つけるのが召喚のトリガーだったらしい。後に調べたんだ。大事なことだからね。
召喚されたのは『バフォメット』ヤギの頭を持ち翼を携え大鎌を持った神であり悪魔。
「「我が主よ、その寛大なる慈悲において我が願いを聞き届け、この者に再び命を授けたまえ!リザレクション!!」」
エルドの詠唱が室内に響き渡る。
途切れかけていた意識がぼんやりと元に戻った。
僕に覆いかぶさっていたのは上半身のエルドだった。横には彼の下半身が転がっている。
意識は急激に戻った。
エルドッ!!エルドォォ!!俺は叫んでいた。
俺の体は治癒していた。エルドがもっていた例の治癒刻印の水をぶっかけてくれたらしい。
に…逃げろ…こ…こいつは…無理だ…ミレと…に…逃げろ…ゲホッ…血を吐きながら、かすれた声でエルドは俺に訴えてた
俺は頭が真っ白になった。
気が付けば俺は神に剣を向けて立っていた。
「「ヤロウ…ぶっ殺してやる!!」」俺は完全に頭に血がのぼっていた。
『どうでもいい、どうなってもいい』という事はああいう時の事なんだろうな。今になって思う。
「「「これはリーダー命令だ!撤退しろ!アレイ!」」」今まで見たこともない形相、大声で彼は叫び僕は冷静になった。
あいつは半身になり、こと切れる前の状態で、だ、考えられないよね。
最後にエルドに投げつけられた刻印の皮袋を手にミレを小脇に抱え僕は走っていた。
「リーダーの命令は絶対だ。忘れるなよアレイ。」
時にうんざりするぐらいくどく、あいつから言い聞かされていた言葉だった。
脳裏にエルドの言葉と顔が反芻し、その呪縛が僕を走らせていた。
僕とミレはダンジョンから脱出した。そのまま僕は倒れて1週間意識が戻らなかったそうだ。」
「つまらない話をしてしまったね…すまない。
私は一人になるとどうしても、あの時の事を思い出してしまうんだ。」そう言って目を伏せた。
独白を終えたアレイさんは、いつものアレイさんの雰囲気に戻っていた。
「あれぇ何でリーフちゃん起きてるのぉ?」交代時間になったのでミレさんが寝ぼけ気味に起きてきた。
私はひやひやした、もう少し早く起きてきたら大変なことになってたよミレさん。私は心底ほっとした。
「あぁ、寒くて起きてしまったみたいだ、もう温まったと思うから寝られそうかな?」
私はコクリと頷いた。
「悪いけどミレ、火の当番交代してもらっていいかな?」
「わかったわぁ…ふぁー」ミレさんは、まだ眠そうだ。
私は毛布にくるまりテントで横になった。アレイさんが後から来て背中合わせに寝転んだ。
毛布越しだったけど背中はくっついていた。おやすみなさい…。私は眠りに落ちた。