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悪意ある依頼

エマさんと私は伯爵と伯爵長男の乗る馬車に同乗していた。

馬車は深い森の中順調に進んでいる。

冒険者ギルドで受けたボディーガードの依頼の最中だ。

「御者!馬を止めよ!」伯爵ブラッドフォードが言う。

「わかりました。」御者は馬を止める。

「馬車を下りよ!」依頼主の言う事だ従わない道理はない。

馬車室にいた私たち4人は馬車を降りる。

「クライヴ隊長!おるか!」森へ向かい伯爵ブラッドフォードが叫ぶと

「ハッ!!ここに!!」そう言いながらスラっとした甲冑騎士が現れた。

「配下の者は?」伯爵ブラッドフォードがクライヴに問う

「勿論で御座います…。クライヴ隊前へ!」

伯爵ブラッドフォードへ一礼し周辺四方へ聞こえるよう号令すると

馬車を囲むように森の中からガチャガチャ甲冑を着た兵士たちが30名ほど現れた

御者は「ヒェェ…」と恐れおののいている。

それもそうだろう皆、殺気を放っている。

「始めるぞ。」「ハッ!」伯爵ブラッドフォードが言うとクライヴ隊長は呼応した。

時は遡る。

「これなんかどう?リーフ!」ご機嫌でエマさんは依頼書を見せてきた。

「えーと伯爵と、その長男の護衛で金貨600枚。」私は読み上げた。

「僕はね護衛してもらったことはあるけど護衛したことはないんだよね!

やってみたいんだよねー…護衛!」天真爛漫な笑顔で私の方を見ている。

護衛というのは様々な状況を考え臨機応変の対処が必要となるので

個人的には受けたくはない。しかしエマさんの、この笑顔である。

「正直私たちの見た目で断られる可能性は高いと思いますが、それでも受けますか?」

私が問うと。

「その時は実力を見せればいいさ。リーフが以前僕に見せたように。」

ウインクしながらエマさんは言う。

「はぁ…私は実力見せ付け役ですか。」「手っ取り早いでしょ♪」

このエマさんノリノリである。

「わかりました。では受付へ行きましょう。」私がそう言うと。

エマさんは両手を天に掲げ万歳をしている。

そんなに?

私は思った。

受付に行くと伯爵様の面接があるそうだ。

伝令が出て行き暫くすると、ギルド前で馬車の止まる音がした。

ギルドのドアが開く。開けたのは私と同じ年頃の少年だ。

「父上どうぞ。」と少年は片ひざを折り中へ招き入れたのは

身なりはいいが、デブでハゲのおっさんだった。

「伯爵ブラッドフォード様ようこそ足を御運び下さいました。」受付はそう言うと

少年と同じように片膝を折り胸に手を当て挨拶をする。急いで私たちも急ぎ同じ態勢をとる。

「して、請け負うたのは、どの者達か?」伯爵ブラッドフォードは受け付けに問うた。

「この者達です。」受付は私たちの方へ手を向ける。

「小娘2人か、ふむふむ、良かろう。」私達をじろじろ見ながら言い馬車へ戻っていった。

私はてっきり断られると思ったが、すんなりOKが出た。

私は受付に促され依頼書にサインをしエマさんとドアへ向かう。

少年は立ち上がり胸に手を当て「父と私の護衛どうぞよろしくお願い致します。」

そう言うと一礼をした。

「不祥わたくし共も精一杯お守りいたします。」

私とエマさんは少年と同じ動作をした。

聡明なご子息だ。私は思った。

馬車へ行くと伯爵は急かす。

「どうしたエドワード!早く護衛と共に乗りなさい!急いでいるのだ!」

伯爵は息子を怒鳴りつける。

「申し訳ございません父上。それではお二人から先にお乗りください。」

そういうと少年は馬車室のドアを開ける。

「失礼致します。」私達はそう言うと、そそくさと馬車室に乗った。

少年も後を追うように急いで馬車室へと乗り込んだ。ドアを閉めると。

「お待たせ致しました、父上。」

「まったく…グズグズするでない!エドワード!」伯爵がいうと

「もうしわけ御座いません父上…。」そう言うと少年は伯爵の横に座った

私たちは対面に座っている。

「御者!馬を出せ!」「はい。承知いたしました。」そのやり取りと共に馬車は動き始めた。

息子は聡明なのに、それに比べ、このハゲデブ…感じ悪いなと私は思った。

そして馬車は街を出て森を走っていた。

時は元へ戻る。

「私はね、お前の弟エリクを跡継ぎにしたい。グズのお前はここで死んでもらうぞ!

護衛の依頼を請けたそいつらの手によって!という形でなぁ!」

伯爵ブラッドフォードは大声で言い放つと高価そうな剣をスラリと抜いた。

振りかぶり、エドワードへ振り下ろす。エドワードは目をつむる。

キィン!!!

エマさんの居合が伯爵ブラッドフォードの剣を折った。

「貴様何をする!私はブラッドフォード伯爵なるぞ!」

「私は何も悪い事はしていない…自らの子息を手にかけようとするとはなにごとだ!

貴様には人の心がないのか!しかも冒険者の仕業に見せかけてだと!恥を知れ!」

エマさんはキレている。

「な…何をしておる!クライヴ!こ…奴らを片付けよ!」

「ち…父上…。」エドワードは膝から崩れ落ち泣いていた。

それはそうだ。ぞんざいな扱いを受けて尚、信頼している者

しかも身内である父親に裏切られる。

というか死を宣告されたというのは絶望以外の何物でもなく至極当然だろう。

ハゲデブは尻もちをつき後退してゆく。

「我が主の剣を折るとは、なかなかやるな

伯爵ブラッドフォードが臣下クライヴがお相手する。」

そう言いクライヴは剣を構える。

「いいだろう!」

エマさんも剣と盾を構える。

のほほんと私は割って入る。

「コホン。えーと、この企みは後ろの兵の方々も皆さん承知なんですよね?」

私は言うが答えが返ってこない。

「そうですか…答えが沈黙ならばYESと受け取ります。」

私は杖で地面を一回コンと叩き杖をくるりと一回転させ水平に構える

鳥たちがバサバサッと逃げる。

「ドーナツ型半径10mから30mグラビティー!」

そう言うと周囲の森の木を兵士ごと圧し潰す。

更に杖を下へググっと地面へ押し込むよう向ける。

グシャッ!ベキッ!ゴキッ!「ギャァァ!」兵士は叫び

範囲の木々が粉々に砕け、地面はドーナツ状に穿っている。

そこには血と肉と砕け散った骨と木と葉っぱと平たく綺麗になった

鉄の板と化した鎧だった物が散らばっていた。

「ふぅ。悪者(クズ)を全力で叩き潰すのは気分がいいですね。」私はチラリと伯爵を見る。

ハゲデブはチビっていた。ざまぁない。

「あとはエマさん。よろしくお願いします。」

私はそう言うとエドワード少年の涙をそっと拭ってあげた。

震えながら泣き続けている。この心の傷は一生消えないだろう。

私は思わず少年を抱きしめていた。

「さて、僕に後は任されたわけだけれども。手加減せずに一瞬で決める。

人間のクズと正々堂々打ち合うのは武門の恥だからね。」

そう言うとスッとエマさんは剣をクライヴに向かて水平に構える。

「いくぞっ!!アトリビュートストライクッ!!」そのまま踏み込むと

クライヴの体に大きな風穴があいていた。正確には頭と首、膝から下だけが

ゴトリと地面に落ちた。

「やれやれ宝剣に穢れた血が付いてしまったよ。」

2・3度剣を振り血を払い飛ばしエマさんは剣を鞘に納めた。

私はエドワード少年が泣き止むまで抱きしめ続けた。

「この場で貴様を始末したいところだが、王に裁いてもらうがいい伯爵よ。」

そう言うと、お漏らしハゲデブをエマさんは蹴りとばす。

エドワード少年は泣き疲れ、いつの間にか眠っていた。

私は杖を地面にコンと叩き「ゼログラビティー」と詠唱し

重さの無くなったエドワード少年を馬車に乗せ横にあった毛布を掛けてあげた。

「さっさと馬車に乗れ。」そういってエマさんは伯爵を馬車の方に蹴り飛ばした。

「ひぃぃすみません!すっ…すぐ乗りますっ…。」

そう言って馬車に乗り込んできた。

「すみませんが伯爵は足元で丸まってください。」

私は圧をかけつつ、一応お願いをした。

「わかりました!わかりました!何でもしますから!命だけは!」

そう言いながら座席と座席の間の足元に伯爵は蹲り丸まった。

エマさんは黙って座席に座り。ハゲデブのおっさんの上に足を乗せた。

「ヒィッ!!」ハゲデブのおっさんは体をびくつかせた。

小便臭いな…私は思った。

「申し訳ありませんが御者さん、ランドンのお城までお願いできますか?」

私はそう声をかけると呆気に取られていた御者さんは正気を取り戻し

「はい!わかりました!」と馬車を反転させランドン城へと向かった。

城につくと衛兵に止められたので仔細を話し、王様に面会を願い出た。

伯爵の不祥事という事で、面会はすぐに下りた。

寝ているエドワード少年を衛兵に託し。

王の御前で私達と馬車の御者はありのままを話した。

ブラッドフォードは当然ありもしない話をでっちあげていたが

現場へ早馬を送らせ現場の状況を王へと伝えると

王はブラッドフォードを牢へ幽閉するよう沙汰を下した。

後にエドワード少年からも話を聞いた王はエドワードを

次期伯爵家、後継ぎと認めエドワードは伯爵となった。

顛末はこうだ。

第1奥方との間に生まれたのがエドワード。

第2奥方との間に生まれたのが弟エリクだった。

ブラッドフォードは第2奥方を溺愛していたため弟エリクを跡継ぎにしたかったそうだ。

王の恩情で第2奥方とブラッドフォードは国外追放。

何も知らなかったエリクは兄の伯爵家に留まる事となった。

後にエドワード伯爵は1000枚の金貨を依頼料と謝礼金として、私たちに渡し

「大変お世話になりました、お恥ずかしい所もお見せしてしまいお恥ずかしい限りです…

何か御座いましたら、私を頼ってください伯爵の名に懸けて全力であなた方をお助けいたします。」

そう言うと伯爵となったエドワードは胸に手を置いて礼をした。

ハゲデブのやつなんかより伯爵の風格がある。私は思った。

「その時はお願いするね♪」エマさんがそう言いながら礼をしたので私も礼をした。

その後屋敷で手厚いもてなしを受け私達は宿へと戻った。

「あーあ…世継ぎ騒動とかやだねー。」そう言いながらエマさんは窓の外の遠くを見ていた。

エマさんも旧プリンセスだ何か思う所があるのかもしれない。

そう思ったが私は口に出さなかった。

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