ドラゴンキラー
ここウェルズランドの東には暖かい海流が流れており
そのお陰で万年雪の国とはならずに済んでいる。
北の山岳地帯の標高が高い所では一年を通して溶けない雪もある。
北の山岳地帯グリフォンの巣のルートを迂回するように行くと
アイスダンジョンがあった。
その名の通り氷系の魔物の巣窟となっているダンジョンで
内部は自然と出来た天井からぶら下がっている大きなつららや
そこかしこに水が凍って出来た氷柱等の自然の織り成す複雑で
神秘的なダンジョンだ。
杖でコンと1回氷床を叩き「イルミネイト!」私が唱えると
結界に包まれた眩い光を放つ状態が頭上に展開する。
これは白魔法に分類されている魔法の一つで
水素と水素をぶつけて融合させるという反応、核融合という
自然現象によって齎されている光だそうだ。
「これは、少し眩しいね。」エマさんが言うので
私は氷床を杖でコンと再び叩いた。「ゼログラビティー」
するとその光球は3mほど上空へと舞い上がった。
「うん、見やすくなった、それにしても光が氷に反射して綺麗だねー…」
エマさんは抜き身の剣を横に構え見回して言った。
その剣はダンジョンの氷の魔力に反応するように
灼熱の剣と化していた。私はエマさんの剣に手をかざす様にしている。
何故なら暖かいからだ。
このダンジョンは氷の魔力で満ちており
その凍てつく寒さでダンジョン踏破者の体力をじわじわと削ってゆく。
でもエマさんの宝剣薪ストーブがあればその心配はなさそうだ。
道なりに進んでゆくと現れたのはフロストスパイダーの群れだ。
特にどうという事はないザコモンスター、エマさんは剣一振りで
一体ずつ蹴散らしてゆく。
群れを蹴散らした後再び横に構える。私が薪ストーブ代わりにしているのを
察しているに違いない。私は猫背になり両手を剣にかざすという
間抜けな格好でエマさんの後をついて行く。寒いから仕方がないのだ。
暫くすると道は3つに分かれていた。
「うーんどこを進もう?」エマさんは言う。
「分かれ道はエマさんに任せます。好きなように進んでください。」
私は言った。
「それでは右にするよー」エマさんが言ったので私は頷いた。
進んでゆくとアイスウルフの群れが現れた。
狼の習性で群れで獲物を襲う。
「リーフは下がっていて。」そう言うとエマさんは剣と盾を構える。
1匹がエマさんに襲い掛かるキィン!エマさんは氷の牙を盾で弾く。
別の個体が横からエマさんに奇襲をかける。
咄嗟に剣の柄でアイスウルフの頭を強打した。
頭が砕け落ちると体も共に砕け落ちた。
「弱点は頭ってことだね。」そう言うと
アイスウルフの群れに突っ込みザシュッ!ザシュッ!と次々と灼熱の剣で
踊るように頭部を撫で切りしてゆく。
数分も経つとアイスウルフの群れは粉々の氷の塊となっていた。
「もう大丈夫だよ、行こうか。」エマさんは言い歩き出した。
私は剣で手を温めながらエマさんについて行った。
少し広い場所に出るとホワイトウィルムがいた。
ホワイトドラゴンの幼体だ。
こちらに気づいたようで鎌首をもたげた。
「先手必勝!」そう言うと敵に向かって駆けだしていた。
ホワイトウイルムは翼をばさりと一回はばたかせると
息を吸いこんだ。ブレスか!
ホワイトウイルムは前方にブレスを吐いた。
エマさんは横の氷柱を蹴り飛ばした。氷柱は砕け散ったが
反動でエマさんは敵の横に回り込む。振り向きざまに
「本命はこっち!」ザシュッ!とホワイトウイルムの首を切断した
首はゴロリと地面に転がり、本体は動かなくなった。
「うん、絶好調。」まだ勢い止まず氷床を滑りながらエマさんは言った。
すると上の方からバッサバッサと白い巨大なドラゴンが翼を羽ばたかせ降りてきた。
グァァァァァァゴゥォ!!!!大きな唸り声をあげる。
恐らく母親だろう。この咆哮は激しい怒りを表れだ。
息を大きく吸い込むブレスだ!この位置だとエマさんに直撃する。
私は急ぎ杖を氷床に叩き付けくるりと回し
「半径20mグラビティー!」詠唱というか叫んだ。
カゴォ!!地響きと共にホワイトドラゴンを氷床に叩きつける。
「エマさん!」私は叫んだ。
「いくよ!」そう言うと跳躍しホワイトドラゴンの首に刃を入れる。
そのままざっくりと首を切り離す。
その瞬間私はグラビティーを解いた。でなければエマさんも潰れてしまう。
「終わりだよ。」そう言いエマさんは着地した。
ビキィッ!ビキッ!氷音と共に首の傷が再生されてゆく。
「噓でしょ…」エマさんは愕然とする。
ドラゴンはその場で体を回転させテールスイング、エマさんを吹き飛ばす。
「カハッ!」エマさんはドラゴンの尻尾の強打と壁に当たり背中を更に強打し血を吐いた。
私はエマさんに駆け寄りながら詠唱した。
「我らが親愛なる神よ!傷つきし子羊の肉体をあるべき姿へ戻し給え!ヒール!」
そしてエマさんの胸部に両手を添えると癒しの光がエマさんに広がってゆく。
「あ…有難う、ゴホッ!ペッ」と気管に入った血を吐き捨てると
「助かったよリーフ。」エマさんは言った。
同時に私は「グラビティー!」周囲に力場を発生させた。
ギィィィッ!!ドラゴンは鋭い氷の爪で何度も力場を引っかき
ガァン!!テールスイングで攻撃してくる。
「エマさん、狙いは心臓です!心臓を貫けば行けるはずです!」
「わかった!」エマさんは返答する。
次の瞬間息を大きく吸い込んだ。ブレスだ!ブレスは力場を貫通する。
「エマさん2手に分かれましょう!」
エマさんはコクリと頷くと。同時に力場を開放し
共に反対側へと走った。
「こっちだ!」私は叫ぶと走りながら杖を氷床に打ち付け
「グラビティー!」と叫んだ。
胴体部分だけドズンと地面に叩きつける。
しかし首はフリーなのでブレスは私を追ってくる。
凍る!そう思った瞬間。
「アトリビュートストライクッ!」ズシュッ!!と鈍い音を立て反対側でエマさんは
ホワイトドラゴンの心臓目がけ剣を突き刺していた。
ブレスが消える。
助かった…私はそう思い。へたり込んだ。
おしりが冷たい。
「大丈夫だったかい!」エマさんが駆け寄ってきた。
ホワイトドラゴンはピクリとも動かない。
「やれたみたいですね。私が言うと。」
「しっかり心臓貫いたよ。さぁ手を。」エマさんは私に手を差し出す。
2人は横たわっているホワイトドラゴンに歩み寄った。
「それではエマさん開胸を。」私が言うとエマさんは頷き。
剣をドラゴンの胸に突き立てツーと横に捌いた。二人で手分けしてドラゴンの胸部を開く。
内部はジャリジャリしていた、かき氷のようだ。
「あったこれだね!」エマさんは言った。
「では私が折りますね。」
杖でコツンと氷床を叩き「グラビティー」と唱えると
ゴキッ!!と根元からあばら骨が折れた。「ゼログラビティー」
エマさんの身の丈の二倍ぐらいある肋骨を氷床に置いた。
その工程をもう1回繰り返し合計2本の肋骨を入手した。
「それでは帰還魔法を使いますので魔法陣が出たら外枠の内側にいてくださいね。」
「えっ?そんな魔法リーフは覚えてるのかい?」
そう言えばエマさんの前では使ったことが無かったかも?と思いながら頷き
コンコンと氷床を杖で2回叩く
「闇より、出でし眷属、汝の闇は、また我が闇なり、万物の理を曲げここに顕現せよ!ブリッジオブローゼン!」闇の光が魔法陣を作り出す。ちらとエマさんの方を見る
ちゃんと内側にいるのを確認し。
「テネブラールム!」詠唱を終えると2人はランドンの冒険者ギルドの前にいた。
足元にはホワイトドラゴンの肋骨2本。
「便利だねこれ!グリフォンの時は何で使わなかったの?」エマさんは言った。
何でだろう…失念していたとしか言いようがない。
「さぁ報酬をいただきに行きましょう。」私は誤魔化すように言うと。
杖を一回叩き「ゼログラビティー」肋骨2本を宙に浮かせ手を添えギルドのドアを開けた。
そのまま中に入り2本の肋骨をギルドカウンターの上に置いた。
「それでは依頼報告です。ホワイトドラゴンの肋骨2本です。ご確認を。」
「わかりました少しお待ちください。」伝令が外へ駆けて行った。
暫くしてご老人と一緒に戻ってきた。
ご老人は手に丸い形状の魔法道具らしき物を持ってきていた。
「ご確認を。」受付がご老人に言う。
「どれ…。」ご老人は丸型の魔法道具らしき物を肋骨に当て全体をトレースする。
2本共に終わるとご老人は「間違いないね。」と言った
「どの方かな?」ご老人は言う。
「こちらの方です。」私に手を向ける
「お嬢ちゃんかい?強いんだねぇありがとねぇ。」そう言うと
後ろから屈強な男が箱を抱えて入ってきた。
ドン!とカウンターに置くと中からジャラジャラ音がした。
男は箱を開けると金貨が詰まっていた。
「920枚あるよ数えるかね?」ご老人は言った。
「いいえ大丈夫です、報酬ありがたく頂戴します。」
「そうかい、ありがとうねぇ」そう言いながらご老人は外へ出てゆく
屈強な男は肋骨を抱えご老人を追いかけるように外へ出て行った。
「それでは、これにて。」ギルド受付の人に言うと
私は杖を一回コンと軽く叩き「ゼログラビティー」と呟いた。
重さの無くなった箱を手に取るとエマさんと共に宿へと帰っていった。




