エマさんの初討伐
翌朝私達は冒険者ギルドの掲示板の前にいた。
エマさんは一通り依頼書に目を通し一枚の依頼書を持ってきた。
グリフォンの鉤爪一対 報酬は金貨60枚と書かれている。
私は首をひねった。グリフォンは聖なるモンスターに分類されている。
この依頼はグリフォンを一体討伐してこい。というのと同義だった。
ライオンの胴体に鷹の上半身で空を自由に飛び回る大きな翼に鋭い鉤爪を持つ恐ろしい魔物だ。
生態は4体ほどの群れをなし巣を持っていて山岳地帯を好んで根城にしている。
グリフォンは貴金属を収集する性質があり巣の中には卵と共に
金銀宝石等の財宝が貯められていることが多いと聞く。
数匹のグリフォンが巣の近くに定住しようとしたドラゴンを退けたという話もある。
「これは、少し割に合わない気がしますが…。」私は言った。
「剣術指南の先生が言っていたけど、グリフォンって手強いんだよね?
ワクワクするよね。」剣を振り回す仕草をしながら笑顔でエマさんは言う。
なるほど、エマさんは分かっていて、この依頼書を選んだ。
しかし実践初でこのクラスの魔物とやりあうのはどうなのかなと私は思った。
「僕は、これをやってみたいんだ!いいよね?ね!ね!」
エマさんは目を輝かせながら私に詰め寄る。
好奇心に勝てないのは私もよくわかる。仕方ないか…。
「わかりました、でもグリフォンは本当に強いので、気を付けてくださいね!」
そう念を押すと、「もちろん!」エマさんは足取り軽く冒険者ギルドの受付へ
依頼書持って行きサインをした。
「それでは出発!」そう言ってエマさんは馬宿へ向かおうとした。
「ちょっと待ってください。まさか馬を借りようと思っていませんよね?」
私が言うと、「山岳地帯までは距離があるから馬で行くよ?」エマさんは言った。
「えっとですね、グリフォンは馬を鉤爪で攫え巣に持ち帰るような魔物です。
鉤爪でやられただけでも死んでしまいますよ?」
「じゃあ徒歩なのかい?」エマさんは言った。
「そうなりますね。」私はそう返す。
「歩いて行くのもいいね!じゃあ出発しようか!」エマさんは嬉しそうに言う。
切り替えも早い。
私たちは山岳地帯。と言っても標高1000mくらいなのだが。
北への道を進んでいった。
道中いくつもの宿で宿泊し山岳地帯へと足を踏み入れた。
「ここからは気を引き締めていきましょう。」私は言った
エマさんは盾を片手に散歩気分で「そうだねー♪」と返してくる。
大丈夫かな…これ下手すると全滅しかねない。私は思った。
暫く進むとエマさんが足を止め私を制止する。
「上空に一体羽ばたく大きな影が見える。」そう言うと真剣な面持ちに変わった。
『ピュイー!』1鳴きすると急降下をしてきた。
グリフォンは既に、こちらを補足していたのだ。
私は杖で1回コツンと地面を叩きグラビティーを唱えようとした時
既にグリフォンは目前にいた。『間に合わない!』と思った瞬間
エマさんが私を抱え横へと転がった。
私の頬に沿って一筋の傷ができ血が滲む。
「大丈夫かい?!」エマさんは私を気遣う。
「はい、軽傷です。」ほほの血を手で軽く拭う。
「僕ではなくリーフを狙うとは腹立たしいやつだ!」
そう言い盾を片手にエマさんは剣を構える。
私は岩陰に潜むと上空に戻ったグリフォンはエマさん目がけてダイブしてきた。
『ピュイー!』
「そう来なくちゃ…ね!」そう言うと鉤爪を盾で上手く弾き
グリフォンの慣性に上手く合わせ素早く剣を翼に突き立てた。
ズズズズと剣によって片翼がもぎ取れる
グリフォンは片翼をもがれ地面をズザザーと砂埃と跡を残しながら岩にぶつかった。
『ピュイー!ピュイー!』激痛に叫びながらもがくグリフォン。
「アトリビュートストライク!」そう叫ぶとエマさんは水平に剣を構えグリフォンの胸を貫く。
『ピュ…ィ……』
「僕が今楽にしてあげるよ。」
そう言うと剣を滑らせるように押し込みツバがグリフォン外皮に当たる。
剣はグリフォンの心臓を貫き絶命させた。
そのまま鉤爪の根元を剣で切り離し一対をバックパックにしまい込んだ
エマさんは剣を2度3度振りグリフォンの血を払い
剣を鞘に納めた。
私のもとへ駆けよるエマさん。
「リーフ大丈夫かい?」バックパックからエマさんのハンカチを取り出し
私の頬の血を拭ってくれた。
「すみません、大口を叩いておいて、足手まといは私…」最後まで言う前に
エマさんは私の唇に人差し指を立て
「それは言いっこなし、僕達はパーティーだからね、僕が助けてもらう事もあると思う
今回は偶々僕が適任だった。それだけだよ。」
そう言うとエマさんは私の血を拭ってくれたハンカチをバックパックにしまい。
「さぁ戻ろうか、お嬢様♪」そう言って私に優しい笑顔で手を差し伸べた。
私はその手を取り立ち上がった。
「はい、戻りましょう。」
お礼を述べたら、また止められそうだったので辞めておいた。
「我らが親愛なる神よ、傷つきし子羊の肉体をあるべき姿へ戻し給え、ヒール!」
詠唱すると私は頬に手を当てた。深くなかったものの、傷は綺麗さっぱり無くなっていた。
「いいねそれ!僕が怪我した時もお願いするとしよう♪」
2人は並んで帰途についた。




