パーティー加入それぞれの想い
新メンバーつまり私の歓迎会は酒場で行われた。
私は気になっていた。
ミレさんは魔術師だ。しかし何度も会っているのにアレイさんの職業を知らなかったのだ。
パーティーに加わった今も知らない。
これから共に冒険をしようというのに、これは困る。
私は意を決して2人に聞いてみた。
「あの……アレイさん、ミレさん。お尋ねしてもよろしいでしょうか?」と私。
「なんだい?リーフ君」とアレイさん。
「その……アレイさんの職業を聞いても問題ないでしょうか……?」
二人は顔を見合わせた。「すまない、まだ言ってなかったね」そう言うと、アレイさんは快く答えてくれた。
「私の職業は『パラディン』つまり聖騎士だよ」とアレイさんが答えた。
「え?!聖騎士…ですか?」と私は驚いた。
聖騎士とは戦士としての修練を積み、教会からの加護がなければなれる職業ではないのだ。
『アレイさんは信心深い人だ…。』そう思っていると、アレイさんは言った。
「今から聞く事は、嫌だったら答えなくていいからね。」
「君、人が苦手じゃないかな?」
私は固まった。私というものを見透かされた気がしたからだ。
「…。」言葉は出なかった。彼は続けた、
「私はね、教会によく通うんだ。いつも教会には併設された孤児院の子たちがよく遊びに来ている。
でもたまにいるんだ、ひたすら祈りを捧げている子が。周りの子達とは一線を引いている子がいるんだ。
そういう子は祈りを捧げ終え目を開けたと思うと、
光の消えた目で孤児院へと戻っていく、そして本を読む。それを繰り返している。」
体中から冷や汗が噴き出した。何故なら、それは以前の私そのものだったからだ。
『この人は危険な人かもしれない』私は警戒した。
「ギルドで君を見かけた時ピンときた、嗚呼、あの子たちを同じ目だ…と。
私はそれ以来君の事が気になって仕方がなかった。力になってあげたいと強く思ったんだ。
これは私のエゴで、何ら崇高な考えとかは無い。
それでギルドの受付嬢さんから君の色々な情報を聞いてね。そして頼んだんだ。」とウインクをした。
「んー…その先は言わなくてもわかるよね。」そう言うとミレさんと顔を合わせ微笑んだ後ふたりはこちらを向いた。
私は全身の力が抜けるのを感じた。冷や汗も止まっていた。
ギルドに来てからの事が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
言葉を探った。今までないくらいに言葉を探った。出てきたのは単純なセンテンスだった。
「あ…有難うございます。」口に出すと胸の内に今まで感じたことが無い、
初めての気持ちが沸いていることに気づいた。でも、それが何なのかはわからなかった。
「礼を言われるようなことじゃないよ、私がやりたくてやったことだからね。」
とアレイさんは、またウインクしつつ言った。
ミレさんも微笑んでいた。
私はこのパーティーでやっていけるのだろうか……先ほどまで感じていた、そんな不安。それは杞憂であった。
「では改めて、これから宜しく頼むよリーフ君」とアレイさん。
「よろしくね、リーフちゃん」とミレさん。
『この人達とならきっとうまくやっていける』そう思った。
2人の言葉に私も笑顔で答えた。
普通私の笑顔は社交辞令で作る笑顔。でもその時の笑顔は掛け値なしの本当の笑顔だったと思う。
「そうそう、メンバーになったからには聞いてほしい事がある。」
真顔になりつつ少し寂しそうな顔をしてアレイさんは語り始めた。
「私たちはね元は3人パーティーだったんだ。
私たち二人に加え治癒魔術師のエルド。彼は宮廷の司祭で治癒魔術師だった男だ。」少し誇らしげな表情に変わっていた。
「凄腕でね彼はSランクの冒険者だったんだ。『銀翼の羽』のリーダーも彼だった。」胸をドンと叩く。
常に冷静で論理的かつ効率を好んでいた。私たちは常に彼に従って動いた。
君に治癒液を作ってもらった袋、あれも、ただの水袋に彼が魔法陣を刻印したものでね。
私がいるからと言って油断はするな何があるかわからないから非常用にと、持たされていたものだったんだよ。」
「今では形見になってしまったんだけどね…」そう言うとアレイさんは視線を落とし目を閉じた。
ミレさんも同じだ。
アレイさんはパン!と顔を叩き、気持ちを切り替え、にこやかな笑顔で語りかけてきた
「重い話になってしまってすまなかった、このパーティーには治癒魔術師が必要だったんだ。
改めて…コホン。」咳払いをしたのち
「仲間になってくれてありがとう。」
そう言うと彼は右手を私に差し出した。
私はそれを握り返した。人のぬくもりが伝わってきた。
握手を解くと「さぁ取り合えず何か食べようか」
と彼は言うと酒場のウエイターを呼んでいろいろ注文していた。
今まで気が付いていなかった酒場の賑やかな雑音が私の耳に戻ってきた。
私はミルクを注文し、『銀翼の羽』のメンバーとして食事をした。
私は料理の味を気にしたことはなかった。
でも、その時の料理は初めて美味しいと感じたのを記憶している。