経過観察と伝達
翌朝私は町はずれの人気のない所にいた。周囲を見回し誰もいない事を確認して
「闇より、出でし眷属、汝の闇は、また我が闇なり、万物の理を曲げここに顕現せよ!ブリッジオブローゼン!
テネブラールム!」
私は、とある町の入り口にいた。
そのまま町の宿屋へ向かう。出入り口の扉から入り階段をのぼり、ある部屋の前で止まった。
コンコンとノックをし名乗る。
「『銀翼の翼』のリーフです。」
扉が開き出てきたのはエルドさんだ。
「おぉ、どうぞ中へ。」そう言うとエルドさんは私を部屋に招き入れた。
「さぁ座ってください。」エルドさんは椅子へ誘導するように手を伸ばす。
椅子は一つしかない。
「椅子は一つですが…。」私が言うと。
「私はこのまま立っていても平気です。」エルドさんが答える。
「お体は大丈夫なのですか?」
「えぇ、あの日あの時は自分の体でないような違和感がありましたが。
1週間たった今、その違和感もほとんどなくなりました。」そうエルドさんが言ったので
遠慮なく私は椅子に座った。魂が器に馴染んでいる。あの魔術書の通りだ。
「すみません、予定が1週間伸びました。正確には6日後です。銀翼の翼の活動日はその日となりました。
ちなみにエルドさんの事は何一つ言っていません。所謂サプライズです。ところで治癒術の方は試されましたか?」
「そうですか。私も色々治癒術を試しましたが、まだ本調子とはいかないようで
私としては、残念でもあり朗報でもあります。6日もあれば、本調子に戻るでしょう。」エルドさんは言った。
「宿賃、そろそろ切れますよね?今日は帰還の日と、その件について来ました。
手を出してください。」私は立ち上がりエルドさんに言った。
エルドさんは俯き無言だった。「申し訳ない…」暫くの沈黙の後そう言って手を差し出した。
私はバックパックに手を伸ばし中に入っていた金貨15枚を渡した。
「いけません、これは、多すぎます!」エルドさんは言った。
「私も銀翼の翼のパーティーメンバーですし、今後手助けして頂くことも多々あるでしょう。
お気になさらず、お受け取り下さい。」そう返すとエルドさんは戸惑っていたが、受け取った。
「わかりました、今後の依頼で、あなたへの恩を返すことを誓いましょう。」跪き、胸の前で両の手を組み
祈る姿勢で私に言った。
「そんな恭しい態度やめてください。今後、接しにくくなります。」私は焦っていった。
「そうですね、失礼しました。遠慮なく使わせてもらいましょう。」笑顔でエルドさんは答えると
隅の棚の上の袋に金貨をしまった。
「一つお尋ねしても?」振り返りながらエルドさんは言った。
「はい。」
「私は確かに死んだ。あなたが蘇生してくださった。どのような…」
エルドさんはそう言いかけたところで、私は彼の言葉を遮った。
「申し訳ありません。言いたくないですし、言えません。」きっぱりと断った。
「そうですか…恩人のあなたへの無粋な質問をしたことを、お許しください。」
胸に片手を当て頭を下げエルドさんは謝罪をした。
「そう思われるのは当然だと思います。…こちらこそ話せず、すみません。」私は頭を下げた。
「おやめください。わかりました。私は神の奇跡に遭遇した。そう思っておきます。」エルドさんの言葉に私は。
「はい、そうしておいてもらえると助かります。」と返した
「それでは6日後お迎えに来ますので朝までに支度を整えておいてください。」
「委細承知しました。しばし研鑽を重ねつつ楽しみに、お待ちしております。」エルドさんは言った。
「それでは失礼します。」私はぺこりと頭を下げると。
「あなたに神のご加護がありますように。」そう言うと私を部屋から送り出してくれた。
私はその町の人気のない場所を探し、辺りを確認してから。
「闇より、出でし眷属、汝の闇は、また我が闇なり、万物の理を曲げここに顕現せよ!ブリッジオブローゼン!
テネブラールム!」
私は、元の町の入り口に戻った。
まだお昼頃だった。私は宿屋へ歩いてゆき部屋に戻った。
「あと1週間。」そう呟くと、私は荷造りを始めた。
荷造りは夕方には終わっていた。