オーガ集落の殲滅依頼
リーフは協会の研究の休みをもらい
白と黒の魔術書を読み進めつつ
パーティーの活動をメインにした
私は『銀翼の羽』の活動は優先するようにした。
黒と白の魔法に関する記述を少しずつ読み進めながら。
時間はたくさんある。
今日はメンバー活動日。皆で冒険者ギルドに集まる。
「さて、今日も頑張ろうか。」アレイさんが言う。
「はい」私とミレさんは返事をした。
「依頼書の掲示板見てきます。」私が言うと。
「任せたよ。」「お願いね。」二人は返事をした。
以前はミレさんが依頼選別の担当だったけれど、今は私の役割となっていた。
1枚の依頼書が目に留まる。
内容はこうだった。オーガの集落の殲滅 報酬金貨108枚。
オーガは人型のモンスターで背丈は成人男性の2倍ぐらいあり筋肉質の魔物だ。
報酬が桁違いだけれど、当然だろう、オーガは人を好んで食する。
近隣の町でも被害は出ていたし、この町でも被害は出ていた。
恐らくこの報酬は各町が共同で出し合った合計なのだと思う。
問題は集落の壊滅だ。数体なら問題はないだろう。
集落となれば下手をすれば100体近い可能性もある。
前衛には向かない依頼、力で押し負けるからだ。後衛は…魔力がもたないだろう。
そこを魔力ポーションで補うと赤字になる。
クリアが可能なのは大規模な魔法集団パーティーだろう。
ただし規模が大きくなれば分け前も減るので、結果他の依頼の方がコスパがいい。
何とも厄介な依頼だ。しかし私には奥の手がある。
その依頼書を掲示板から剥がし二人の元へ戻った。
「これなんかどうでしょう?」依頼書を前へ出し二人に見せた。
2人とも難しい顔をする。
「これは、難しいというか私たちのパーティーと相性も悪そうだね…」アレイさんは言う
「そうねぇ」ミレさんも難しそうな顔をしている。
「最近の事情を考えると、ほっといてもいい内容の依頼ではないけど…
殲滅はできなくとも数は減らせたなら被害も減るだろう。
ダメなら依頼未達成でボランティアって事でいいかな?」アレイさんは言う。
「アレイらしいわね、まぁリーダーの決めたことなら逆らえないわ。」ミレさんが言う。
私が持ってきた依頼だ。私に異存はない。というかボランティアにする気はない。と思いつつ頷いた。
アレイさんが依頼書にサインをしギルドの受付嬢が依頼書をアクセプトの籠に入れる。
集落は丁度3つの村の中間地点で道のない草地の中だ。
このあたりの草は長くても膝下ほどなので特に進むに苦労はしない。
私たちは依頼書にあった集落の地点へ向かった。
暫く歩くと木の杭らしきもので囲まれている集落が見えてきた。
しかし杭は低く防壁の体はなさないだろう。縄張り誇示なのだろうか?
入り口らしき門のような物も確認できた。私たちはうつぶせになり草に身を隠した。
作戦会議だ。
「私がブレスをかけ続ける。ミレはいつもの高火力魔法で一体一体確実に始末して欲しい。
万が一押し寄せられたら一体なら私が足止めをする。多数できたら…リーフ君複数の敵の拘束は可能かい?」
「はい可能です。」私は答えた
「よし、状況を見極め、私が無理だと感じたら撤退。こんな感じでいいかな?」
私とミレさんは頷いた。
アレイさんのハンドサインで私とミレさんは駆け出し門の近くまで来た。
ここなら、いざという時撤退も可能そうだ。
当然オーガはこちらに気づき門から出てきた。
「神よ、我ら忠実なる羊にご加護を!エンチャントブレス!」アレイさんのブレスが私たちを包み込む。
「さぁいくわよ、気高き炎の精霊イフリートよ…我が契約に応え全てを焼き尽くせ!イグニスオールト!」
先頭の一体が消し炭になる。次々と門から出てくるオーガをミレさんは魔法で屠る。
集落内のオーガが気づいたのか、門に殺到している。しかし門の広さが狭いので一体ずつしか出てこない。
消し炭の山が門付近に出来上がっていた。
戦力の逐次投入は愚策中の愚策だ。木の杭だって乗り越えられるだろうに。
知能が低くて助かった。
「神よ、我ら忠実なる羊にご加護を!エンチャントブレス!」ブレスは数分しか持たないため、定期的にかけなおしている。
30体前後でミレさんは魔力が残り少ない事を申告した。
「これを。」私は懐から取り出した刻印済みの魔法石をミレさんに渡した。
ミレさんは?な顔をしたが石を受け取り、詠唱を続ける。
「気高き炎の精霊イフリートよ…我が契約に応え全てを焼き尽くせ!イグニスオールト!」
少し間が開いたため3匹ほど門を出てきていた。
「闇より、出でし眷属、汝の闇は、また我が闇なり、そのしるべを示し給え!テネブラールムバインズ!」
闇のリングがオーガの足を拘束したため3体は倒れ込み地面を叩き、もがいている。何とも間抜けな光景だ。
その隙にミレさんが3匹を上手い事処理し、再び門から出てくるオーガを
一体ずつ高温の炎の魔法で消し炭にしてゆく。
ミレさんは異変に気付く。
「魔力が減らない…どうなってるの?リーフちゃんの魔法石?」
「はい。魔力の心配はせず頑張ってください。」私は言った。
「分かったわ!」そう言うとミレさんはオーガを焼く作業を続けた。
実は渡した魔法石は刻印によって私と石の所持者に魔力の供給路を作り
魔力を流し込む仕組みになっているのだ。
周りには私が突っ立っているように見えるけれど、私の魔力はどんどん消費されている。
私は魔力タンクなので高位の魔法の連発にも平気で耐えられる。
いわばプロパンガスの私でコンロのミレさんが火を焚いている。こんなイメージでいいと思う。
120体ほど倒しただろうか入り口にオーガの姿は無くなった。
「おわったのかな?私が集落内を確認するから二人は待機していて。
もしまだ居たら門まで誘導するから。」そう言ってアレイさんは門から集落へ入っていった。
30分ほどするとアレイさんは帰ってきた。
「いなかったよ、これで依頼完了だね。」アレイさんは言った。
「…まだ出歩いている個体がいるかもしれません。」私が言うと、アレイさんは
「そうだね、念のため数時間ここで様子を見ようか。」と言ってくれた。
案の定時間を空けて3体来たのでその都度ミレさんが魔法で消し炭にした。
日が暮れ夜の帳が下りた。夜間、オーガは住処へ戻り休む習性があるので
殲滅したと判断してもいいかなと思った。
「よし、もういいだろう。ギルドに報告しに戻ろうか。」
そんなに遠くではないにしても夜道の草むらを歩くのも何だったしミレさんは相当疲れているはずだ
途中から魔力の心配がないとはいえ、高位の魔法を休むことなく撃ち続けたのだ。
何より早く帰りたい気持ちは皆同じのはず。
「私の魔法で帰還しましょう。」私は提案した。
「助かるよ」「助かるわ」そう言って2人は傍に寄ってきた。
私は杖を2回草むらにたたきつける。
「闇より、出でし眷属、汝の闇は、また我が闇なり、万物の理を曲げここに顕現せよ!ブリッジオブローゼン!」
黒く光る魔法陣は描かれ。
「テネブラールム!」詠唱を終えると町の入り口に3人とも帰還した。
「リーフ君ありがとう。ミレもお疲れ様、疲れただろう?」
「少しだけね。はい、これ助かったわ。ありがとうリーフちゃん」
そう言ってミレさんは刻印入りの魔法石を返してくれた。
「それじゃあ報告に行こうか。」私とミレさんは頷き冒険者ギルドへと向かった。
アレイさんが受け付けに依頼完了を告げに行った。
やれやれといった感じでお手上げポーズで私たちの元にアレイさんは戻ってきた。
どうやら殲滅確認の為に明日調査に向かい確認でき次第報酬を支払うとの事だった。
「言われてみれば尤もだけど、信頼して欲しいよねぇ」ため息交じりにアレイさんが言う。
私たち2人は同調した。
翌日確認隊が派遣され殲滅の確認が取れたため。
報酬が支払われた。
今回の報酬は金貨108枚。一人頭36枚の計算だ。
「いつもなら山訳の所だけど、今回はミレに負担かけたから、
私とリーフ君は30枚で48枚をミレの取り分にしたいんだ。」
怒ったのはミレさんだった。
「何言ってるのアレイ!リーフちゃんの魔法石のお陰で達成できた依頼じゃないの?
百歩譲ってアレイからの分け前は貰ってもいいけど!
リーフちゃんの取り分を割くとか頭おかしいんじゃないの?!」
ミレさんがキレているところは初めて見る。おっかない。
アレイさんも両手のひらを胸の前に出し、たじろいでる。
「私は研究所でもそれなりの金銭をいただいているので、昔と違ってお金には困っていません。
それにミレさんは昨日相当無理をされたと思います。アレイさんの申し出は妥当だと思います。」
私がそういうと。
「そう…リーフちゃんが言うなら…まぁ…それでいいわ。」ため息をつきながらミレさんは言った。
「よかった、話は纏まったね、では報酬を渡していくよ(汗)」アレイさんは早口で、分配の手の動きも早かった。
「はい皆お疲れさま、次は1週間後、またよろしくねー」そう言うとアレイさんは冒険者ギルドからそそくさと出て行った。
「さぁ私たちも返りましょうか。」そう言ってミレさんは優しく微笑んだ。
「はい。お疲れさまでした。」私はぺこりと頭を下げギルドの入り口まで一緒に歩いた。
それぞれの宿は違うので、私は私の宿の方へ歩き出しミレさんは、またねと手を振りミレさんの宿の方へ歩いて行った。
ミレさんのぶちぎれたところは初めて見たけれど、それだけ私の事を考えてくれているんだなと思い。
改めてミレさんも優しいと実感した。
『でも2人は知らない。私がエルドさんを既に蘇生していたことを。』




