白と黒と光と闇そして自由
好奇心旺盛なリーフは見たことのない魔法陣に大興奮で
部屋に戻ると、すぐに魔術書を読み始めた
私は1ページ目から読み始めた。
『この本を見ているという事は、君は私と同じ白と黒の使い手だろう。
ようこそ、我が思考の中へ。歓迎する。
さて白魔法と黒魔法、相反するが表裏一体。この世界の万物の法則を支えているのは
この2つの魔法である。私はこれを第一世代又は原初の魔法と呼んでいる。
これは神が構築したものだと私は考えている。
宗教だとか、そう云った神の事ではない。
この世界の外には広い世界があり、その外には更に広い世界が広がっている。
これが無限に続いている。つまり世界に果てはないのだ。
空には星がたくさんあるだろう。あれらはより大きな世界の枠組みの外に存在する
別の世界の存在である。これらを構築した者、若しくは者たちこそが、私の神の定義だ。
話をこの世界に戻そう。
後に火や水、風と土といった4大元素による魔法が確立された。
これらは第二世代の魔法だ。大きな世界の理の中で生まれた二次的な魔法だ。
そして治癒魔術は、白魔法の一部である。
あくまで最後に生み出された魔法、生命に影響を与える魔法。
つまりは生命が誕生がしてからの、まだ歴史の浅い魔法だ。
世界の真理からしたら一番とるにたらぬ、くだらぬ魔法だ。
しかし矮小なる人間という生き物にとっては
最も大事と思われている魔法でもある。
この世界の日常では実用的だからな。』
初めは意味が分からなかった。あまりに常識と乖離しているから。
私が今まで祈りを捧げてきた神は否定され
Sランクまで努力した治癒魔術がつまらない魔法扱い。
私は少し不愉快に感じていた。
しかしこの著者の真理についての考察や結論は
とても面白い。直感的に理にかなっていると思った。
2ページ目だ。
『私はひねくれ者でね、つまらない魔法の研究から記述していこう。
魂のありかは、死を迎えた者の死後おおよそ10日後まで、その肉体に留まる傾向がある。
これは種族や年齢などに左右されるが平均すると、その数値となる。
しかし稀に、物体や魔法陣から魔術刻印等、残留思念が強ければ強いほど長期に留まる事を確認している。
私は200年前に死した者を蘇生した経験がある。
なに、少しばかり聞きたかったことがあったのでね。その後、本人が望んだので私が魂を消去した。
つまり私の観測した範囲では200年経っても魂は思念となりとどまっていることがある
ということだ。特に物考える人間という生物は業も深ければ執念も深い。
私もその人間だという事を考えると嘆かわしくもあり哀れだ。
しかし私は何れその壁を克服しようと思っている。
私にならできるはずだ。なぜなら私は白と黒の使い手だからだ。
魂のありかの見分け方を記述しよう。
生物ならほぼ十中八九肉体にあるのは前述した。
残留思念から魂を検出する方法がある。魂のスキャンとでも言っておこうか。
君ならできるはずだ。対象に手をかざし黒のエーテルを探る。
手のひらを突き抜けてくる感じがあれば第一段階クリアとする。
次に白のエーテルを探る。対象の中心から水滴を垂らした水面のように
波紋が広がるビジョンを感じ取れたなら、魂はそこに存在する。
片方でも該当しなければ、そこに魂はないと断言しよう。
逆に言えば共に該当すれば、魂はそこに存在する。』
私の脳裏に浮かんだのはエルドさんの皮袋。
アレイさんの話から推測すると、相当強い思念が残っていてもおかしくない。
分かるのか?できるのか?私は好奇心には勝てない。
預かっているエルドさんの布袋に手をかざした。
黒魔法は闇魔法だよね…闇魔法の読みかたでエーテルを探る。
なかなか感覚がつかめない1時間ほど集中たところ。
きた!手のひらを突き抜けるような波動!
次は白魔法だから治癒魔術の要領でやってみる。
一時間たったが手応えはない。
「んー白のエーテルは治癒のエーテルとは違うのかな…。」
1Fが賑わってきた事と夜の帳が下りていたことに気づく。
ランタンに火を灯し、私は1Fへ食事に向かった。
よく考えたら今日は1日何も食べていない。
集中していると、こういう事は稀によくある。
階段を降りると賑わいは一段と大きい。
何グループの人たちがテーブルを囲んで食事をとりエール酒を飲んでいた。
実は四隅に一人用のテーブルと椅子がある。
空きスペースを活用したのだと思うけれど、所謂ボッチ席があった。
四隅は大体空いている。入り口から奥のカウンターに近い席に私が座ると。
例の話好きの、あの人がオーダーを聞きにきた。
お腹が空いていた事もあって肉料理を食べることにした。
注文したのはグリフォンの胸肉ソテーとマンドラゴラのお浸しだ。
暫くすると
「はーいお待たせグリフォンの胸肉ソテーとマンドラゴラのお浸しね。銅貨5枚よ。」
「ありがとうございます。」そう言うと銅貨5枚を手渡した。
忙しい時は、その場払い。長話をする暇もない。とても忙しそうだ。
神に祈ってナイフとフォークを手に取り完食した。
そして、そそくさと部屋に行き鍵をかけた。
「ふぅー。」やはり人が多いと精神的に疲れてしまう。
さっきの続きをしよう。
また無駄に1時間を消費してしまった。やはり治癒術のエーテルとは違うのか?
「白のエーテル…原初の魔法…うーん…そもそも魂は定着していない?」
人差し指でテーブルをトントン叩きながら思考をめぐらす。
目を閉じ再び手をかざす。治療のイメージではなく。もう一段階上のただ探るイメージ…。
きた!白のエーテル波紋のイメージ!
本の通りなら、エルドさんはここに……いる!
私は部屋から飛び出していた階段を降り入り口の扉をバーン!と開け走っていた。
酒場がざわついていたが、その音も遠ざかってゆく。
協会の研究施設が見えてきた。
協会研究所の見慣れた扉をまたバーン!と開ける。
研究員たちが驚いた顔でこちらを見ている。被験者たちもだ。
所長室まで走っていき扉をまたバーン!と開ける。
所長は飲んでいたと思われる紅茶を勢いよく噴出した。
デスクの上はびしょびしょだ。所長は驚いた顔で私を見て言った。
「ど…どうしたんだねリーフ君。」所長は、あーあ、といった感じで
ハンカチを取り出して書類にかかった紅茶を拭いてている。
「すみません!実は用事があるので数か月の被験を免除いただきたいのですが!」
「何か重要な用事なのかね?」別のハンカチを取り出し胸元にかかった飛沫を拭きとっている。
「はい!とても重要です!」私はこんな性格だったろうか?興奮しながらまくしたてた。
「そうか…君の人生に口出しはできないからね…残念だが許可しよう。あとノックはしてくれないかな。」
そう言うと所長はため息をついた。
「ありがとうございます!」お辞儀をして退出し今度は静かに扉を閉めた。
1人になった所長は胸ポケットから取り出した葉巻を咥え、火をつけようとした。
葉巻は、しけっていて火が付かなかった。
「お騒がせしました。」冷静さを取り戻し研究室の皆さんに一礼して、帰途についた。
宿に戻り、そそくさと酒場を抜け部屋に戻った。
これで明日から思う存分この本を研究できる。
エルドさんも…ひょっとしたら…。時間はできた急がなくていい。
今日は寝よう。ランタンの火を吹き消し
ナイトルーティーンを無視してベッドにもぐりこんだ。
次回 魂と、肉体(器)の再構築