誘いと痛み
こんな真夜中に彼奴がメッセージを送ってるなんて珍しいな。彼奴の家はおかしい。
母親が毒親なんだ。1人暮らしに干渉してくる。未だに彼のスマホには時間制限がかかってる。頭のおかしい親がいたものだ。兎も角、何かしら返信をしておくべきだろうか。
『起きてる』
ただ一言だけそう呟いておいた。既読はつかない。寝落ちてしまったのか。それとも時間制限がかかってしまったのか。考えてもわからない話だ。しかもこれは僕の事ではない。これは彼の事、彼の家の事だ。勝手に妄想してはいけないな。下を向いたまま画面を見つめていたままだった。ふっと顔を上げると空は曇っていた。今日も月が見えない。冬とはそういうものだっただろうか。ずしっと重たそうな雲は今にも落ちてきそうなくらいだ。雲が落ちたらどうなるかな。実体はないけど…そんな下らない妄想ばかりだ。
またスマホ通知が来た
『メッセージが届いています
晃)話したいんだけど、今から来れないか?』
珍しい事もあるものだな。彼から誘ってるのは何時もの事だ。それでも彼はこんな誘い方はした事がなかった。急に胸が締まった気がした。ドクドクと鳴っている心臓が大きくなってる気がした。胸の痛みが増しいく。身体がフラッとしたのも束の間僕は地面に膝をつけていた。心臓の鼓動は大きくなるばかりだ。そうだ、薬を飲むのを忘れていた。仕方ないな。
彼のところに行くまでに飲んでおかなければならない。兎に角今はこの心臓を…落ち着かせなければ。深呼吸をしても治らない。急に息を吸ったせいで肺に冷たい空気が充満した。冷たい空気は頭をスッと冷やしてくれる。少し考えれば解った筈だ。
「はぁ…はぁ…」
心臓の動きは激しくなるばかりで、肺の空気は入らなくなっていく。頭が痛くなってきたその時に暴馬のようだった心臓がスッと治った。なんだったんだ。今のうちに部屋に戻るか…そう考えた矢先
『晃)大丈夫か?』
チャット欄が動いた。先程のメッセージから10分が経過していた。無限に感じられた時間はたった10分という。ただ唯一の友人を心配させたものだったと。気づいてしまった。たった1人の友人をまた(・・)俺は心配させてしまった。
「取り敢えず、返信しておくか」
『大丈夫、今から向かう』
メッセージを確認して…
ー送信