STORIES 071: 古い友達(side. B)
STORIES 071
特に用事も入れていない連休。
3日もすると家にいるのも飽きて、本屋に足が向いた。
この夏は仕事が立て込んでいて、もはや遠出する気にもならないくらい疲弊していたのだ。
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駐車場で車から降りて歩き始めると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
隣のスーパーから出てきた彼女は、暫く会っていなかった古い友達。
2年ぶりに実家に帰省しているそうだ。
立ち話を始めたところで、ぶら下げている買い物袋の中身が目に留まる。
ホームサイズのアイスクリーム、ストロベリー。
親類が集まっているのだろう。
僕らは改めて待ち合わせてから、海沿いの洋食屋に行くことにした。
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まだオープンしてから日が浅い。
妹あたりから話を聞いたばかり、なのかな。
ボッサアレンジのポップスが流れる店内。
時間が遅いせいか客はまばらで、バイトの女の子がコッソリあくびをするのが見えた。
僕らは、キノコのピザやボンゴレ・ビアンコなんかをゆっくり食べながら、他愛もない話を続けている。
今夜は、深刻な話をするには久しぶり過ぎたかもしれない。
かつては、こんな夕食をよく共にしたのだけれど。
その頃は新宿とか池袋あたりだった。
互いの彼氏彼女の愚痴とか、実家の家族との悩みとか。
僕が仕事を辞めて故郷に引っ込むまでは。
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バイトの子が、ラストオーダーを取りに来た。
田舎の店は閉まるのが早い。
駅前だって、20時には薄暗く閑散とするのだ。
僕らは海岸に移動して、腹ごなしに少し散歩することにした。
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気の合う友達。
同じクラスだったのは高1の頃だけなのに、気が付くと集まっているメンバー。
進学でバラバラになり、集まる人数が少しずつ減り、最後に僕らが残った。
精神的に弱っていた時期には…
2人の関係性が崩れて、境界線を越えそうになったことも確かにあった。
けれど踏みとどまった。
僕らは、たぶんこのままが1番いい。
そして2度と会わなくなる日も、やがて訪れるだろう。
友人関係は、生きていく中で変わり続けるものだから。
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展望台の明かりに照らされた砂浜に佇む。
薄暗い波がうねるのが見える。
夏の夜、この砂浜が月明かりに包まれる光景は、あまり記憶にない。
懐かしいような心地いいような…
楽しい時間を過ごした夜。
そろそろ帰ろうか。
もう寄り道するような場所もない。
…ない、な。
車の方へ歩き始めた彼女の後を追う。
次に会うのは何年後になるだろう。