かつての相棒たちと再会
あれから3年が経過した。相変わらず表では掃除から配膳、残飯処理、とこき使われているが、クロードとリリアの恋も上手くいっていて、断罪理由として集めている証拠もだいぶ揃ってきた。
因みにリリアは現在魔法学園二年目。六年制の学校なので、卒業時にはリリアは二十二歳。どうなってるんだろ..........
そう言えば、あと二年で私の断罪が始まる。大丈夫。絶対勝てる...........!
流石に「未来で不当なことされたから過去に戻って断罪しまーす」とか言ったら何言ってんだこいつ、と思われるし、冤罪で結局私が地下牢に放り込まれる。なので、私が受けている扱いを使い魔の映像で記録し、水晶に残しておくことにした。映像を投影することもできるので、証拠になるだろう。それに、第二王子を差し置いてどこの馬の骨ともわからない少年といちゃついているのだから、国王陛下、王妃陛下は相当怒るだろう。映像が大きく投影されたとあっては、あんなものを晒されたリリアを誰も相手にしない。
魔法で偽造されたとか、絶対やつらは嘘を言ってくるだろうけど......そのあたりは何とかする。というか、リリアの体には結構ほくろがあり、第二王子や王妃たちも使用人からの報告で知っているはずなので、信じてもらえるはず。駄目だったらKとTを連れて国外に逃げる。それほどの資金と力はある。
「そろそろ........二人に連絡を取らなきゃ......」
巻き込みたくないと思って一緒に行かなかったのに今更作戦に必要だと呼び出すのは、流石に虫のいい話だと私も思う。だから、本当に断られる前提で話をする。「まあ受けてくれたらラッキーだなー」くらいの心持ちだ。最悪分身とかで如何様にもできるので、そこまで深刻な問題じゃない。会いに行くのには、もう一つ別の理由がある。
といっても、単純に近況報告に行くだけだが、あまりにもストレスが多い生活で、少し息抜きがしたいと思ったのだ。クロードの顔がKに似ているせいか、無性にKに会いたいと思ったのだ。勿論Tも。
分身を表に出せば、誤魔化せるかな.......
*
「復讐?いいよ。乗った。」
即答である。
まさか本当にOKしてくれるとは思ってもみなかった。
二人は、これまでの時を経て更に逞しくなっていた。精悍な体つきはもちろんのこと、整った顔つきからは幼さが抜け、立派な青年と成っていた。そして二人はそれらを利用して女性相手に歌や踊りなどを見せることで生きるための資金を稼いでいたらしい。正直、流石としか言いようがない。Tいわく、Kは無愛想で人気が出なそうだと思ったが、たまに見せる優しさが堪らないと今ではTより人気があるとか。
「僕たちの生活のためでしょう?それならば、少しは貢献しなくては。ねぇ、そうでしょう?K。」
「ああ。それで、どんな内容なんだ?」
私が計画を説明すると、二人ともその計画を褒めてくれた。まあ、それほどでも?復讐は高い高い所から一気に下に落とすのが一番気持ちいいしね。
「で、その相手をTに頼みたいんだ。魔法で姿形はどうにでもなるし______」
「待て、それ、俺がやるっ!」
「え?」
いつも無気力で時たま獣のような鋭さを見せるだけのKが初めて見るほどの食いつきっぷりを示した。...........何で?
「Tに叩き込んでもらって、俺、物腰とか何とかするからさ、俺にやらせてくれよ!」
Tにやらせたくない理由が何かあるのかしら?まあ、意欲的なのはいいことだよね。ちゃんとできたらの話だけど。
「じゃあ、Kにお願いするね。1年位したら作戦開始だからその間に頑張れ。連絡はこれで。」
そう言って私はKに黒いピアスを一対渡した。
「これは?」
「一人一つ。私もつけてるから魔力流したら通話できるよ。」
「「おお~」」
これこそ私の研究の賜物。小ぶりで髪で隠してしまえば全く気付かない程のピアスだが、内部には恐ろしい量の魔法陣が仕込まれてある。なかなか楽しかった。今ではもう食事の合間に作れるほどのモノだが......私が死んだ年にそんなものがなかったことを考えるとかなり高い技術なのだろう。
「待って、今付けるから......」
私は魔法でピアスを痛みなく二人の耳たぶに差し込む。うん、相性も抜群。
実は、この魔道具は相性が悪いと拒否反応を起こして爆散してしまうという欠点を持っている。まあ、当然のように私は製作者だから相性が悪いなんてことはなく、渡すとしても親しい人ぐらいなので、その度にちまちまと魔法陣の位置をずらしたりしているので今のところ故意以外で爆散したことはない。
二人は修正を殆どしていないものだったが、ピタリとはまった。私と似た部分があるのだろう。
「それじゃ、また連絡するよ。あ、夜はたまに潜入しててTみたいになってる時があるからそれは気にしないで。」
「ああ。分かった。」
「頑張ってくださいね。」
「うん。」
私は足早に二人のいる路地裏を離れた。分身が何かやらかしていると面倒なので。
それにしても、二人は大丈夫なんだろうか。栄養失調というほどでもなかったが、まあまあ痩せていた気がする。
*
「.............なあ、S、じゃなかった、シエラ、めっちゃ成長してないか?」
「まあ、それはそうですよ。あの時から7年程経ってますし。」
「いいもん食ってんのかなぁ.......でも、それにしちゃ服がボロボロな気が.......」
でも、屋根があるだけいいだろうと少し羨ましい気持ちにもなった。そして、改めてシエラが帰り際に暮れたバスケットに目をやる。
『キッチンでくすねてきたから早めに食べてね。バスケットも中身が無くなったら捨てること。』
籠の持ち手に紐で括りつけられたメモにはきれいな字でそんなことが書いてあった。バスケットの中には新鮮そうな野菜と大きい黒パンがいくつか。そして............下の方には10枚の銅貨と1枚の金貨。
「おいおい、これは...........」
暫く食い繋いでいけそうだと、二人してシエラに感謝した。