謎の少年クロード(リリア視点)
私は明日の夜が楽しみで眠れずに夜を過ごした。朝、鏡を見たら薄く隈ができていた。
「リリア、少し顔色が悪いんじゃないかい?医者を呼んでこようか?」
甘々な父が話しかけてくる。きっと昨日満足に眠れなかったせいだろう。適当な言い訳をして誤魔化しておく。
「いえ、大丈夫です。実は昨日、遅くまで勉強をしていたのですよ。もうすぐ魔法学園へ入学するのですから。」
「そう。頑張っているのね、偉いわ。でも、ほどほどにね。」
母が言ってくる。私は来年になったら魔法学園へ入学するのだ。丁度いい言い訳があってよかった。これからもこの言い訳を使いましょう。
それにしても、クロード......私はクロードの美しい姿を思い浮かべながらパンをちぎって口に入れる。焼き立てのパンはバターのいい香りがしてとても美味しい。
今度は卵料理とサラダに口をつける。なんてことのない朝食だが、クロードの姿を思い浮かべるだけでいつもの何倍も料理がおいしくなる。湯気の立つスープも、濃いめの味がよく染み渡った。
朝食を食べ終わったところで、ふと、その存在が目に入った。
私の皿を盆にのせて片付けるのは、あのお姉様であった。薄汚れた使用人の服を着て、目は虚ろだ。
「まあ!シエラお姉様、こんなところでどうされましたの?」
私は大仰に驚いて見せる。すると、父と母が笑顔で答えてきた。
「リリア、この愚図はシュムリツ家にふさわしくない行動ばかりするから使用人に格下げしたのよ。いや、使用人以下の存在かしら!」
クスクスと母が笑ってみせる。父がお姉様を一瞥して鼻で笑う。私も、可哀想な物を見る目つきで困ったように笑って見せた。お姉様は相変わらずこちらに目もくれずのろのろと仕事をしている。
「皿を割るんじゃないわよ!シュムリツ公爵家の高級な皿なんだからね!」
母がお姉様を怒鳴りつける。お姉様は返事をするように俯くと、それ以上怒鳴られるのを避けるようにそそくさと食堂を出て行った。
シエラは来た初日の態度が嘘のように大人しくしている。きっとお母様の「お仕置き」が効いたのね。
でも、今、シエラのことなんかはどうでもいいわ。何を着てクロード様と会うか、しっかり選んでおかないと!
*
「よし......」
私は湯上がりの肌にクリームを塗りこんだ。いつもの習慣だが、今日はいつもより少し多めに、メイドが疑わない程度に塗り付けておく。
寝間着も、使い古した野暮ったいものではなく、綺麗な新品のものを着た。
そして、寝ないようにしながらベッドで横になる。
時計が約束の時間を表示するのに、すごく時間がかかった気がした。
気が付くと眠っていたらしい。時計を見ると、もう約束の12時を過ぎていた。
「やあ、起こしてしまいました?」
そんな声が上から聞こえた。
*(シエラ視点)
『謎の少年クロード』の仮面を被りながら私は慎重にリリアと接した。
昼間は『愚図な姉シエラ』として過ごし、夜になったらクロードに姿を変えて逢瀬をする。
リリアのタイプにドストライクの外見を創ったお陰で、もうすでにリリアはクロードにのぼせ上がっているようだ。その最愛の男を私が奪って、しかも相思相愛だと分かったらどんな顔をするかしらね...?
まあ、どちらも私なのに二人が手をつないでデートとかは無理なので、当日はTかKを変装させるつもりだ。私の中では姿だけ変えればいいので物腰的にTかと思っている。
引き受けてくれるかが不安だが.......まあ、最悪分身でも何でも出して適当にやりくりすればいい。それにしても、二人を巻き込まないために置いてきたのに......私の勝手な都合で修羅場に参加させるかもしれないと思うと、申し訳ない気持ちになる。
やっぱり自分で何とかしようか。まあ、一応話だけは通しておこう。
その為にも、先ずはリリアを骨抜きにしなくては。
頬を染めて胸に手を当てる彼女は、裏の顔からは信じられないほど儚く、美しかった。