やり直しの第一歩
「え....っと、今は何歳なんだろう......」
私には年齢を確認する術があった。それは裏路地から覗ける範囲にある貸本屋だ。
貸した本は返してもらわないと困るため、年と日付、今日借りたら何日に返さなけらばならないか、今日返さないといけない人は何日に借りたか、などがでかでかと書かれている。その為、今私は何歳か分かるのだ。
「.....8歳......か。ってことは、KとTもいないってことだよな......」
KとTとは、私が行動を共にしていた仲間達である。同い年で、スリや盗みも一緒にやった。彼らは信頼できる仲間だった。
彼らとは10歳の時に出会う。食べ物を探してうろついていたら、同じことをしているKとTに会ったのだ。そこからは、まあご想像の通り。二人は私の姿を何とも思っていないようで、嫌悪の目を向けられることは一度もなかった。
「飯を......探しに行かなきゃ。」
シュムリツ家では一応食事だけは出ていた。黒パンひとかけらと具なしスープだけだったけど、何も食べられなかった今に比べればまだましだったのかな、と思う。
私は今日も生き延びるために、食事を探す。
*
5年が過ぎた。KとTは傍らにいて、何かないかと目を光らせている。
Kは珍しい黒髪黒目をした少年だ。言動は荒っぽいが、所作は割と綺麗なので、前は貴族の子だったのではないかと思っている。
Tはよくある茶髪に、緑色の目。社交界にもなかなかいない紳士的な奴だが......怒らせたら不味そうだなというのがKとの共通認識である。
二人とも顔が整っているので、いっそのこと花街とかで働けそうな気もするのだが、前にその話題を出したら全力否定された。まあ、そうだよな。
「ん、あっち、なんかありそうだな。ちょっと行ってくるわ」
Kが言う。Tも一緒についていくと言った。そう、そして、一人きりの時に私はお爺ちゃんと出会うのよね。
今回は、引き留めよう。前回は何の連絡もなしにお爺ちゃんの所へ行ってしまい、迷惑かけただろうから。ただ、連れて行くのだけはやめておこうと思ってる。あそこに......あのごたごたに連れて行く気はないよ......
「いや、今日行商人からお偉いさん来るって聞いたから、先に何かもらえないかねだってみようよ。」
「おう、マジか。賛成。」
「そうしよう。Sが一人になるしね。」
(よし......!)
こころの中で小さくガッツポーズをする。あとはお爺ちゃんが来れば完璧....!
「来た!」
小声で二人に合図する。二人はすぐさま私の向いている方を向いた。
前と同じように、バスケットを手に持って、裏路地を確かな足取りで進んでいく。
私たちは一斉に両手を差し出した。養子になれるだろうか。
「..........なかなかな子じゃ。魔力も膨大。是非、養子にしたいのう」
つぶやきが聞こえた。二人がいるのに私のみに言っているのは、二人は魔導士の才能を持っていないということなのだろう。まあ、いずれにせよ、復讐劇に二人を巻き込みたくはないし。
「どうじゃ、養子にならんか?その二人は連れて行けんがのう......」
「行きます」
即決の私に、周りはひどく驚いた顔をしていた。
「そ、そうか......では、二人にしばしの別れ告げておくのじゃ......」
「......S」
二人がぴったり重なった声で私の名前を呼ぶ。ショックを受けたのだろう。即決されたらそうなる。
「大丈夫。暇ができたら行くよ。それにさ......」
私は思いついている考えを二人の耳元で囁く。
「いつか絶対力をつけて二人と一緒に暮らそうと思ってるから...!」
「............!!」
その言葉を聞いて二人は目を見開いている。誤解は解けた。それじゃあ、向かおうか。戦場へ。
「話は終わったかの?」
「......はい。」
いざ別れるとなるとグッとくるものがある。数年間苦楽を共にしてきたのだ。
(戦いが終結したら......また来るからね。)
私は13年間過ごした裏路地と、暖かい仲間たちに少しの、本当に少しの別れを告げて旅立った。