表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/8

やり直しの第一歩




「え....っと、今は何歳なんだろう......」

私には年齢を確認する術があった。それは裏路地から覗ける範囲にある貸本屋だ。

貸した本は返してもらわないと困るため、年と日付、今日借りたら何日に返さなけらばならないか、今日返さないといけない人は何日に借りたか、などがでかでかと書かれている。その為、今私は何歳か分かるのだ。


「.....8歳......か。ってことは、KとTもいないってことだよな......」

KとTとは、私が行動を共にしていた仲間達である。同い年で、スリや盗みも一緒にやった。彼らは信頼できる仲間だった。


彼らとは10歳の時に出会う。食べ物を探してうろついていたら、同じことをしているKとTに会ったのだ。そこからは、まあご想像の通り。二人は私の姿を何とも思っていないようで、嫌悪の目を向けられることは一度もなかった。

「飯を......探しに行かなきゃ。」

シュムリツ家では一応食事だけは出ていた。黒パンひとかけらと具なしスープだけだったけど、何も食べられなかった今に比べればまだましだったのかな、と思う。


私は今日も生き延びるために、食事を探す。



5年が過ぎた。KとTは傍らにいて、何かないかと目を光らせている。

Kは珍しい黒髪黒目をした少年だ。言動は荒っぽいが、所作は割と綺麗なので、前は貴族の子だったのではないかと思っている。

Tはよくある茶髪に、緑色の目。社交界にもなかなかいない紳士的な奴だが......怒らせたら不味そうだなというのがKとの共通認識である。

二人とも顔が整っているので、いっそのこと花街とかで働けそうな気もするのだが、前にその話題を出したら全力否定された。まあ、そうだよな。

「ん、あっち、なんかありそうだな。ちょっと行ってくるわ」

Kが言う。Tも一緒についていくと言った。そう、そして、一人きりの時に私はお爺ちゃんと出会うのよね。

今回は、引き留めよう。前回は何の連絡もなしにお爺ちゃんの所へ行ってしまい、迷惑かけただろうから。ただ、連れて行くのだけはやめておこうと思ってる。あそこに......あのごたごたに連れて行く気はないよ......

「いや、今日行商人からお偉いさん来るって聞いたから、先に何かもらえないかねだってみようよ。」

「おう、マジか。賛成。」

「そうしよう。Sが一人になるしね。」

(よし......!)

こころの中で小さくガッツポーズをする。あとはお爺ちゃんが来れば完璧....!


「来た!」

小声で二人に合図する。二人はすぐさま私の向いている方を向いた。

前と同じように、バスケットを手に持って、裏路地を確かな足取りで進んでいく。

私たちは一斉に両手を差し出した。養子になれるだろうか。

「..........なかなかな子じゃ。魔力も膨大。是非、養子にしたいのう」

つぶやきが聞こえた。二人がいるのに私のみに言っているのは、二人は魔導士の才能を持っていないということなのだろう。まあ、いずれにせよ、復讐劇に二人を巻き込みたくはないし。

「どうじゃ、養子にならんか?その二人は連れて行けんがのう......」

「行きます」

即決の私に、周りはひどく驚いた顔をしていた。

「そ、そうか......では、二人にしばしの別れ告げておくのじゃ......」

「......S」

二人がぴったり重なった声で私の名前を呼ぶ。ショックを受けたのだろう。即決されたらそうなる。

「大丈夫。暇ができたら行くよ。それにさ......」

私は思いついている考えを二人の耳元で囁く。

「いつか絶対力をつけて二人と一緒に暮らそうと思ってるから...!」

「............!!」

その言葉を聞いて二人は目を見開いている。誤解は解けた。それじゃあ、向かおうか。戦場へ。

「話は終わったかの?」

「......はい。」

いざ別れるとなるとグッとくるものがある。数年間苦楽を共にしてきたのだ。

(戦いが終結したら......また来るからね。)

私は13年間過ごした裏路地と、暖かい仲間たちに少しの、本当に少しの別れを告げて旅立った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ