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シエラという少女





私はもともと、戦災孤児だった。4歳のころ、両親を失い、家も無くなり、着の身着のままふらふらとここへたどり着いた。

表通りにいてもただ飯は食えないし、銭もなにも落ちていない。それに、醜い髪色と目の色の私を、通行人たちが軽蔑のまなざしで見てくるのだ。

私は、色素が抜けたように白い髪と爛々と輝く紅い目をしている。その姿はさながら死神で、誰も助ける気にならない。ついでとばかりに、この国の神話には紅い目は悪魔の象徴とされていたため、石を投げられることもあった。だから私は、髪を伸ばし、前髪で紅い目を隠していた。信頼している仲間と共に食べ物を盗み、ゴミを漁り、どうにか食いつないで12歳になった。ずっとこのまま暮らすんだろうな、と思っていたことを覚えている。


転機が来たのは13歳の頃。路地裏にお偉いさんが来た。

路地裏は薬物なんかの違法なもの、明るい所では取引できない物の市場だ。お偉いさんは割とよく来る。そして、行きか帰りに私たちに銭を与えてくれるのだった。気前がいい人に限るが。


今日もそうだった。バスケットに品物を詰め、帰っていくお偉いさんに、さり気なく両手を合わせて差し出す。こうすると、ついでに食べ物ももらえたりするのだ。

「..........なかなかな子じゃ。魔力も膨大。是非、養子にしたいのう。」

呟きが聞こえた。ヨウシ、って、何だろう?


「どうじゃ、おぬし、うちへ来ないか?衣食住は保証してやるぞ。勿論、教育だって.......」

よく見ると、その人物は白い髭と髪の老人だった。好々爺と言う見た目で、こんな人が路地裏に来るのは珍しい、と思ったのを覚えている。

「はい......!」

取り敢えず、ご飯が食べられるなら行かなきゃ損。迷わず私は付いていった。



それが、運の尽きだった。

確かに最初の方はよくしてもらえた。魔導士としての教育も受けさせてもらえたし、何よりあのお爺ちゃんは優しかった。名前は確か......エドバーグ・シュムリツと教えてもらった。まあお爺ちゃんと呼ぶよう言われたのでそうしたが。

お爺ちゃんは私に『シエラ』と言う名前をくれた。前までは『S』と呼ばれていたのですごく嬉しい経験だった。

何もかも満ち足りた、幸せな生活だった。ここに来てよかったとも思った。お爺ちゃんが亡くなるまでは。


16歳の頃、お爺ちゃんは静かに亡くなった。

シュムリツ家と養子縁組をしていたので、そのまま私はシュムリツ家で過ごすことになった。

シュムリツ家では、使用人と同等レベルの扱いを受けた。

新しい両親になった二人は、私の姿を一目見て、インク瓶を投げつけてきた。

「やっと老害がいなくなったと思ったら、こんなものを残して逝きやがって。」

「まあ、ただで雇う使用人くらいにはなるかしらね。」

二人には実の娘がいて、それがリリアだ。金髪に若草色の目をした、可憐な少女だった。外面だけ見れば、確かにそうだった。

外では淑女として振る舞い、求婚者も何人もいるというリリアだったが、屋敷の中では態度が一変。

「ちょっと、私の服、皺が5つもついているわよ!今すぐ新しいのを持ってきて!」

「私は豚肉なんて食べないのに、なんで料理に入れたの!もう、ほんとにダメなシェフね!」

あーだこーだと細かいことでかんしゃくを起こし、暴力を受けたりなんだりと虐められる。

大体標的になるのはいつも私で、他の使用人たちはこれ幸いとばかりにすべての責任を私に押し付けてくるのだ。私の姿のせいだろうな。

「全く、こんなこともできないの?!早くやってよ!そんな目の色をしているんだから、少しは役に立ちなさいよ!この愚図!」

水魔法が私にかけられ、廊下もろともずぶ濡れになる。

シュムリツ家は代々優秀な魔導士を輩出していて、リリアも期待の高まっていた一人だった。内面がこんなので、大丈夫なのだろうかと思っていた。

何度もそんな扱いを受けたせいで、何か言われたら「すみません」と言うのが癖になってしまった。

両親はリリアのことを溺愛していて、リリアがしたことはすべて私のせいになる。

そして、地獄のような日々が6年続き、21歳になった頃、またしても、人生を変える出来事が起きた。

リリアが第二王子から婚約破棄をされたのだ。罪状は、魔法で男たちを誑かし、王子の婚約者としてあるまじき行為をしたこと。

リリアはすぐさま無実を声高に叫んだ。そしてまたしても___________

「全て、全てシエラが悪いのです!私はただ、罪を着せられて.....」

顔を覆って泣き真似をし始める。あの女、演技は上手いようだ。周囲のリリアを見る視線が軽蔑から同情に変わって行っている。

両親もすぐさま同意し、言い訳を始めた。まあ、リリアが婚約破棄、それも王子から、舞踏会で大体的にやられると、嫁ぎ先が見つからなくなってしまうものね。


最初は皆両親の言い訳をあまり信じていなかったが、私が登場すると、すぐに掌返しをした。

「シエラは、姿を変える能力を持っているのです!姿を入れ替えて罪をリリアに擦り付けようとしたのでしょう!」

「シエラの言動がたまにいつものシエラではないときがありましたわ。きっと姿が入れ替わっていたせいなのでしょう。我が一族は魔法に優れているものの、このような使い方をするものは一族にふさわしくありませんわ。」

一気に私に視線が集まる。確かに、私は自分や人の姿を変えられる。でも、それってすごく魔力を消費するのよ?入れ替えてその辺のパーティに出るなんて芸当、出来るはずがないでしょう?それに、もしそんなことができるなら、すぐさま私の瞳の色を変えていたわ。もしくは髪とか。


でも、私は声が出せなかった。言い訳をする気力も尽きていた。

(もう........嫌だ。)

そして私はそのまま、地下牢に連れていかれた。



私は少しずつ、準備を進めていた。復讐のための準備だ。

まず、このまま私が逆転するのは難しい。だから、やり直そう。

めったに牢に人が入らないのは幸いだった。私は魔法をかけて、自殺用の薬も用意した。

ただ、私を酷く扱った者たちに復讐がしたい______________


その考えと勢いに任せて、私は作戦を実行した。


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