表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/87

アガーテ

「やぁ、アガーテ姉さんじゃないか、お久しぶり」


「って、血の海で、寝てるヤツの言い草かい!」


 ドロシー、ダンピールである彼女の生命力は、人の領域を遥かに超えている。だが、それだけでもないだろう、ニールの剣技は、わざと急所を外し彼女を斬ったに違いない。


「ああ、僕、化け物だからね。あのー、できればさ、まだ死にたくないんだ、すまないが、助けてくれるかな?」


「もちろんよ、ちょっと待ってね」


 アガーテはポシェットから毒消しのポーションを取り出した。ドロシーの背中の傷に手荒く振り撒く。


「イ、イタタタタタタ」


「世界一の武闘家が、なんてなさけない悲鳴を上げるのよ」


「痛いものは、痛い」


 そう、治癒魔法を掛ける前に、殺菌、病原菌を殺しておかなければ、傷は塞がっても敗血症になる恐れがある。


「川よ、水の精霊よ、その慈愛をもって、この者の傷を癒せ、ヒール」


 ざっくり開いていた背中の刀疵はもちろん、その衣服までみるみる元に戻って行く。アガーテはとても優秀なヒーラーだ。


「さすがに、ザックリ行かれた背中には傷跡が残るかもね」


「いいさ、()()()()()に刻まれた傷だもの」


「はい、はい、これも飲んどいてね」


 アガーテは丸薬タイプの抗細菌薬をドロシーに渡した。


「ニ、ガァァア」


「文句ばっかり言わないの。でも、ドロシー、なんだか、サバサバ、してるわね」


「吹っ切れたよ、長年抱えて来た、もやもやを晴らし、告白できたしね。『ごめんなさい』代わりにバッサリ斬られたのだけれど」


 ニールとの関係が、吹っ切れたというのは本音だろが、不慮の事故とはいえ、彼女はトーネードも殺している、重い後悔を抱えて、なお、平静を装えるドロシー。彼女の胆力は特別性ということだろう。


 母への悔恨、ドロシー心は十歳の頃からずっと血を流し続けている。それでも、彼女は生きてきた。


 ロゼやニールとはモノが違う、彼女は筋金入りなのだ。心というのはとても不思議だ、古傷を持つ人の方が圧倒的に強い。自らがポジティブに生きること、それこそが死者に対する最高の手向けだと知っているから。


「ニールは王の部屋に?」


「見ない方がいいと思う。もう、命の気配もない」


 そう言いながら、ドロシーは起きあがろうとした。


「さって、逃げますか? まもなく、連合軍が入ってくると思うし。肩貸してくれるかな?」


「え!!! 立てるの」


「アハハ、僕、化け物だっていったじゃないか」


 驚くべき回復力、ドロシーは立ち上がり、アガーテの肩に捕まりつつだが、しっかりした足取りで王宮の廊下を進んだ。


「まったく、こんな化け物はいらないって言われちゃった。生きてる僕が死んだロゼに敵わないなんてね」


 彼女が地球人なら「死せる孔明生ける仲達を走らす」とでも例えただろうが、そう言ったドロシーの顔が曇った。


「なに? 急に深刻な顔して」


「僕、ロゼが死んだと知った時、ちょっとだけ、嬉しかった。もしかしたら、ニールが振り向いてくれるんじゃないかって。最低だね」


「最低自慢をしたいの? 私だってトーネードが死んでくれてホッとしてるの。絶対に叶わないと知りながらの恋、キツイったら、ありゃしないわ」


「でも、アレは、僕が……」


「あの状況を見れば分かるわよ。どうせ、トーネードが仕組んだ罠でしょ? あなたは正当防衛をしただけ」


「ま、そうなのだけど」


「でも、今、思えば、ドロシーの告白、うまく行きかけてたんじゃないの?」


「うーーん、話が噛み合わない、意味が分からない」


「あら、ドロシーって、容姿の通りのお子ちゃまなの? 恋愛って、男と女とは限らないのよ」


「あああ! なるほど、トーネードは僕に嫉妬して斬りかかったと。でも、それはないかな。ニールを愛していたなら、なおさら、彼は死にたかったのだと思う」


「これからニールは王を殺して自殺すると知っていた。だから、自分は殉死、心中を選んだってこと? 人の気も知らないで、アン畜生、心満ちて死んだんだろうなぁ」


「かもね。男は女々しく恋に死に、女は図太く使命に生きる。ねぇ、アガーテ、どうせ行くところ、ないんでしょ? 魔族の国に亡命しない? 君にお願いしたい事もあるのだけど」


「やっぱり、あなたには、そういう顔が似合うわよドロシー」


「前を向かないと生きていけないだけ、振り返った瞬間、僕は死ぬと思う」


「いずれにしても、罪深き乙女同盟、入会することにするわ」


「じゃ、交渉成立! あのね、笑わないで聞いて。僕、人族と魔族が共生する世界を作りたい」


「って、笑わないけど、とても遠大な計画に聞こえるわ」


「ひとまずは、魔王始め、魔族重鎮の説得からだけどね」


「もはや、恋は捨てた身、どうしてもやりたいことなんてないし、ドロシーの半分もないけれど、寿命の限り付き合うわ」


「ありがとう」


 二人は王宮の一階から裏庭に出て、出口、ドロシーが穴を開けやすい場所という意味だが、を探していた。


「あれ? ここ開いてる」


「あら、御誂え向きの非常口じゃない!」


 王の側近を逃した際、ローレンスは誰かが使うと予期していたのだろうか、秘密の出口を開けたままにしていたらしい。


 秘密の出口から出た二人は、召喚獣を呼んでこれに跨った。アガーテの召喚獣はヴァイスヴィント、白毛でサラブレッドのように立派な馬だ。もちろん、ユニコーンなので額に角は付いているが。ドロシーのブラウハーゼと轡を並べ間道を行く。


「いつ見ても、凄い召喚獣ね」


「ロゼのヴァイスハーゼは、真っ白で、もっと大きかったんだよ」


「へーー、見てみたかったな」


「うん、なかなかの見ものだったかも、あーー、やっぱり思っちゃうな、最後まで彼女には勝てなかったって……」


 そして、二匹の召喚獣と罪深き乙女二人は、何処へともなく消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ