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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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かつて勇者と呼ばれた者

 トーネードのアビリティ、ハイド、ドロシーの感知能力を上回る完璧さだが、一つだけ欠点がある。攻撃を仕掛けるその瞬間には殺気が生まれ術が解けてしまうのだ。


 須臾の時ともいえる、わずかな時間で反応できるドロシー、さすがといえば、そうなのだが、今回はこれが裏目に出た。


 そして、おそらくこれこそが、トーネードの計略だったのだろう、ドロシーは自身最大の弱点を晒してしまっている。


 心根の優しさ、それが直ちに行動に出てしまうドロシー、今は敵であるニールに背中を向け、トーネードの屍を抱きしめる。


「ご、ごめんよ、トーネード、なんで僕は……」


 先ほどとは全くの別人、激しく動揺したドロシーは隙だらけだ。


「ドロシー、すまない」


 復讐の妄執に取り憑かれたニールの辞書に「卑劣」の二文字はない。聖剣アメノハバキリは、ドロシーの背中を袈裟懸けに薙いだ。


「え!」


 何が起きたのかすら分からなかっただろう。ドロシーはトーネードとともに血の海に沈んだ。


 倒れる二人に見向きもせず、ニールは王の居室を目指す。金の装飾を配し真っ白にピアノ塗装されたドアを蹴破るように開けた。


「ラ・ン・ド・ル・フ!!!!!」


「やはりな……。とうとう、来てしまったのだね、ニール殿」


「当然だ。貴様はロゼの仇だからな」


「そうかもしれぬが、ニール殿、私を討っても、君の心は晴れないと思うがな」


「うるさい!!!」


「君の目、ああ、もう何を言っても無駄なようだね。確かに、ロゼを、アンジュを、不幸のどん底に叩き落とした張本人は私だ。国の為などと言い訳をしながら、鬼畜非道な行為をした認識はある。だから、この死も身から出た錆と思って受け入れよう。でもね」


「なんだと、今更、命乞いか!」


「私だって簡単には討たれないよ」


 王は腰に刺した剣を抜いた。日本刀でいうところの脇差にあたる刃渡り五十センチくらいの剣だが、その柄は螺鈿の装飾が施され、刀身を彩る贄は見るものを魅了する。いずれ名のある名工鍛えし業物だろう。


 美術的価値も高い名剣といえるが決してお飾りではない。ランドルフは若い頃から、王として英才教育を受け、剣術もかなりの腕前だ。とはいえ、王の相手は勇者ニール、敵うはずもないとは思っているだろう。ただ一点だけ、王に有利な条件がある。


 彼が敢えて選んだ剣は脇差、すなわち、室内用だ。アメノハバキリのような大剣、屋外でなら問題ないが、狭い室内で振り回せば、天井に刺さるなど、思わぬハプニングを生みかねない。


 それを気遣わねばならないニールは普段より動きが鈍いはずだ。そこに一縷の望みを賭けたランドルフ、むざと撃たれるつもりはないようだ。


「いくぞ」


ガシャン!!!!


「な、なに!!!!」


 ニールには驚愕すべきことだったのだろう、勇者の一撃を王は見事受けた!


「どうかね。勇者君」


 だが、これは王の虚勢、勇者の剣を受けざるを得なかった時点で、勝負の帰趨は決している。鍔迫り合いをすれば、体力に勝るニールが圧倒的に有利だ。勇者の腕力に大きく突き飛ばされたイーサ王は、バランスを崩し、よろける。その瞬間を見逃すニールではない。


カーーン!


 高い金属音が木霊して王の剣が弾き飛ばされた。


 見よ! 返す刀は正確無比、神技の燕返しは、見事、王の首を刎ねる。


バサリ


 濡れタオルを叩くような音がして王の首が宙を舞い床に転がった。


ア、アハハハハハ!


 狂気に囚われたニール、狂人だけが発声できる耳障りなメゾソプラノ、高笑いをしながら、勇者、いや、かつて勇者と呼ばれたニールは、王の首級を抱きしめた。


「仇はとった、ロゼ……」


 もはや、狂気というアヘンに溺れるしかない、それも重々承知している。だが、人としての心も僅かに残るニール、虚しい、こんなことをして、なんになる、分かっていた、分かっているのだ!!!


 クソクソ、クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ


「そうだ、そうだった、ロゼ、今、君の元へ行く」


 そう言ったニールは、聖剣アメノハバキリを首、頸動脈のところに当てた。何の躊躇いもなく、これを横に引く!


 プシュゥゥゥ!!!!!


 まるでミストシャワーのように、真紅の血が吹き上げる。血は王の執務机に置かれた白い花、春に咲くはヘレボルス・オリエンタリス。この世界の人にとって幸せの象徴、誰もが愛してやまぬ白き薔薇を紅に染めた。燃え盛る炎のごとく紅いクリスマスローズ、すなわちそれは、ロゼの表象。


「ロ、ロゼ、ロゼ、ローーーーゼーーーーー!!!!!!!!!!」


 主役は倒れ伏し照明が落ちた。





 緞帳が降りた舞台、その袖から最後の口上を述べに脇役がもう一人。


コツ、コツ、コツ


 想いも命も死に絶えた空疎な王宮に、なぜか再び命の気配、靴音が響く。


「まったく、トーネードは何を考えていたのかしら? しばらくしてから王宮へ来いとか、意味不明なんですけど」


 スポットライトに照らされながら、不平を漏らしたのは、誰あろう、勇者パーティ最後の生き残りだった。おそらく、これはトーネードの気遣いだったのだろう。ヒーラーの彼女に、生き残った者の救護を依頼していたらしい。


「ものすごい血の臭い、こんなの生きてる人なんて……」

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