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X'mas Rose〜聖夜に咲く白き薔薇は紅に染まる  作者: 里井雪


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復讐の勇者

 必死の形相でニールを非難するドロシー、だが、魔王は、


「ドロシー、お主の欠点は、優し過ぎることよ。ニール殿のことを(おもんぱか)るあまり、冷静な判断力を失っておる。オステンの狙いは、リバ、イーサに止まらぬ。それは承知しておろう」


「このまま、放置すれば、いずれ彼らはクトゥル・アル・シュタールごと、二国を併吞すると」


「そうじゃ、先々、どうやって独立を維持するかの問題は残る、じゃが、ひとまず軍事同盟を結び共闘したこの国が攻められることは、なかろうて」


「これは、三百万の民のためだと?」


「うむ」


「魔族の国への益と申し上げただけですのに、さすが、魔王様、よくぞ、ご判断いただきました」


「クソ、ニール、貴様……、なんということを!」


 唇を血の出るほど強く噛んだドロシー、だが、彼女もいまや魔族の国指導者の一人、民の利益、その安全は、何をおいても優先しなければならない。




 その数日後、ニールは魔王の親書を携え、単身、オステン帝国の首都ランドバードに向かうことになった。


 魔都の東に位置する停車場に立つニール、改めてオステンの技術力に舌を巻いた。鉄の車輪とレールを組み合わせた魔動車、すなわち鉄道が、ランドバードからクトゥル・オル・ナドリクまで開通しているではないか。


 魔動車を連結した列車は首都間を二昼夜で結び、一気に千名の乗客を運ぶことができる。流通の大動脈となっているのはもちろん、こんなもので兵士や補給物資を輸送されたら……。もはや敵うはずもない相手との戦争、ということになるのだろう。


 ニールは汽車に乗り、二昼夜かけてオステン帝国の首都ランドバードに到着した。魔都よりはかなり北に位置するランドバード、秋の深まりが早く、吹く風は冷たい。街路樹のポプラは、すでに葉を落としている。


 魔都クトゥル・オル・ナドリクもずいぶん立派に見えたが、ランドバードに比べれば田舎街に過ぎない。この国の繁栄はいかばかりなのだろう。石を敷き詰めたメインストリートは片側三車線分もある。多数の魔動車がスピードを上げ行き来していた。その中を流れに逆らわぬよう、召喚獣ロートハーゼに騎乗して進む、ニール。


 左右を見れば五階建ての石造りの建物が並ぶ。金メッキされた窓の飾り、青く塗られた屋根、この国の反映を象徴するような、立派、いや、派手すぎて悪趣味ともいえる建造物だ。


 街の中央にある別名赤の宮殿、真っ赤に塗られた尖塔と外壁、その奥に聳える白壁の宮殿は見る人を威圧する巨大な七階建てだ。あまりに巨大で、その両端が視野角から外れてしまう。


 ニールが門兵に魔王の書状を渡し、しばらく待っていたが、意外にもあっさり謁見の間へ通されてしまった。巨大な宮殿の二階中央に位置する謁見の間も、無駄に広いと表現するしかない、サッカーの試合ができてしまいそうだ。


 赤い絨毯が敷かれ、奥の一段高い舞台には、これでもか! というくらい金色に飾られ、卑陋というしかない玉座が設られている。


 誰もいないだだっ広い謁見の間、そこでニールは一時間も待たされた。


「王のおなりぃ」


 宦官だろうか、男声だが、妙に甲高い声が、オステン皇帝フォルセイス・マスリュコフの入場を告げた。


「勇者ニールよ、表を上げい」


 立膝をして頭を下げていたニール、顔を上げ見るとでっぷりと太った、オステン皇帝が玉座に腰掛けていた。


 金髪碧眼は、この世界のスタンダードだろう、口髭を蓄え顔が赤くアルコール焼けしている。少し節制しないと、成人病を患いそうな体型だ。


「魔王の書状、確かに受け取った。だが、ロゼ、ブラッディローズが死んだというのは、まことか?」


「皇帝閣下は、勇者の誓いというものをご存知か?」


「うむ、聞いたことがある。勇者は嘘をつけぬのだと」


「我妻ロゼが天に召された、このことは紛れも無い真実である、とここに誓う。これでいいか?」


「勇者の誓いとやら、しかと聞いた。して、魔王、今回は共に戦うというのじゃな?」


「それも、誓う必要がありますか?」


「いいや。条件を聞けば、もっともなことであろう」


 魔王は魔族軍の精鋭三万を参戦させる代わりに、戦勝の暁には魔の森の永続的な所有権とリバ北部の割譲を望んだようだ。


「我が国は、お主の妻を死に追いやった非道の国イーサ、これに加担するリバに鉄槌を加える、ということじゃな?」


 建前上、侵略戦争など地球の歴史に存在しなかった。この世界にも存在しない、今回の「侵略」も「イーサ王の非道に天誅を下す」ということになったようだ。


「そういえば、聞いておらぬな、お主の望みは?」


「イーサ王の首級、ただそれだけにございます」


 オステン王は、その瞳の奥に宿る狂気を見透かすように、ギロリとニールを睨め付けた。


「勇者自ら首を取る機会を与えよ、そういうことじゃな?」


「はい、もはや私は悪魔に魂を売った身、勇者の称号を返上する必要があるでしょう」


「余が、メフィストフェレスじゃと言うのかな?」


「赤い服をお召しになっていらっしゃいます」


「フ、フハハハハ、よい、よい、よい、あい分かった」


 この世界にゲーテが転生してきているのだろうか? 悪魔の装束は赤ということらしい。

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